消えない灯火
トムさんは今にも転びそうな勢いでカウンターから飛び出すと私の後ろのトーマくんを力一杯抱きしめた。
ここまでずっと黙りだったトーマくんはいきなりのことに固まり、でも次の瞬間に張り詰めていた緊張の糸が切れたようにしゃくりあげながら泣きはじめる。
「と、父ちゃん、俺、俺......」
トムさんは身体を少し離しトーマくんの様子を確認すると、再び今度はふわりと抱きしめた。
「無事で良かった......」
続くようにノアくんとリリーちゃんのご両親も二人を抱きしめている。
その様子を見て、私は何もいない自分の肩に触れた。
ねぇ、私はちゃんと守れたのかな?どう思う?
当然その問いに返事はなくて。
「リヴィアさん」
ルカに話しかけられる。
「子どもたちがみんな無事で、本当に良かったです」
さすがA級です、とふんわりと笑った。
はい、ルカたんの微笑みいただきました。ありがとうございます。
私は静かにルカの笑顔を噛み締めた。
「ギルバートさん、預かりますね、重かったでしょう?」
ルカに手を出され、そこでやっとギルバートさんの存在を思い出した。
だってこの人、さっきから立ってるだけで動かないし喋らないし......しょうがなくない?
ルカはギルバートさんを手近なベンチに座らせ、同時にギルド職員に救護院からの救援要請をするように指示する。
そんな様子を見ていたら服の裾を引かれ、そちらに視線を向けた。
「リヴィアさん...あの...」
そこにはトーマくんがいた。
トーマくんが何かを続けようと口を開いた瞬間、ギルドのドアが勢いよく開いた。
ギルドの入り口には、まだ小さな赤ちゃんを抱いた女性と、付き添うマーサおばさんの姿。
女性はマーサおばさんに赤ちゃんを預けると、身体に負担をかけないように、でも焦ったようにこちらに近寄ってくる。
トーマくんの前で止まると、そのまま床に膝をついてトーマくんの体を包み込むように抱きしめた。
「母ちゃん......」
トーマくんの頬に溢れた涙を優しく手で拭いながら、良かったとこぼす。
「母ちゃん、心臓が止まるかと思ったんだから」
「......ごめん」
そしてトーマくんのお母さんは、トーマくんを胸に抱きしめながらトムさんをきっと見上げた。
「だから言ったじゃない、トーマはまだ10歳なのよ?!冒険者にはまだ早いって!」
トムさんは、その視線に一瞬たじろぐも、負けじと言葉を続ける。
「でも一緒に行ってくれたリヴィアちゃんはA級だ。それに今までの任務で死傷者を出したことは一度もない」
「貴方は昔から若い子には甘いのよ!それに怪我人なら出てるじゃない!!」
トーマくんのお母さんが、一連の流れを黙って眺めていたギルバートさんを指差し
「もしトーマがこんなことになってたら私、私は......!」
震える両手で顔を覆った。
「ちがう!!!」
そんな両親の言い争いを遮るようにトーマくんが声を荒げる。
「母ちゃん、違うよ!」
トーマくんは母親の手を掴むと、目を合わせて話し出した。
「俺が悪いんだ!リヴィアさんは逃げようって言った!」
「でも俺が勝手に飛び出した!俺が......」
ぐっとトーマくんが言葉を呑む。
「リヴィアさんは最後まで俺たちを守ってくれた!」
くるりと私の方を振り返る。
「だから、リヴィアさん、ごめんなさい!!」
泣きながら頭を下げたトーマくんへ笑って小さく頷いてみせた。
「それにあのおっさんは最初から怪我してた!」
トーマくんまでギルバートさんを指差したため、みんなの視線がギルバートさんに集まった。
私もベンチに座るギルバートさんを見る。
「そういえば、何で怪我してるんですか?」
「……別件だ」
ギルバートさんはわずかに目を逸らした。
「それより異常個体の件だが」
ギルバートさんが何もなかったかのように話し出す。
「普通と違って知能を持っていた」
「知能、ですか?」
「あぁ、小型魔物を盾に使って攻撃を防いだ」
「あと執拗に王都の方角に進もうとしていた」
ギルド内にいる人、全員が息を呑んだ。
「......なんだか、ギルドだけで留めておける話じゃなくなってきましたね」
ルカの言葉だけが静まり返ったギルドに響き、その言葉に返事をする者はいなかった。




