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平和の代価


 慌てて近寄り今にも倒れ込みそうなギルバートさんの体を支える。



 ギルバートさんはすぐに態勢を立て直そうとするが、力が入らないのか少し身じろぎさせただけだった。




「......すまん」




 動かない体に焦れたのか、私にもたれたままバツが悪そうに小さく謝る。


 血を流しすぎているのか顔色が青を通り越してもはや白っぽい。


 顔色につられていつもは茶色いギルバートさんの瞳の色まで一瞬だけ青色に見えた気がした。




 自分の心臓の音が、まるで耳元で鳴っているみたいに大きく響く。





「動かないでください」





 無理やり落ち着けながらそう短く制して、脇腹の傷口を圧迫しながら、ギルバートさんの体を横向きにし、頭を自分の膝へそっと乗せた。



 周りを見渡せば、ノアくんとリリーちゃん、二人とも青ざめた顔でこちらを見つめている。


 その横でトーマくんは自分の両手を見つめたまま立ち尽くしていた。





「ノアくん、リリーちゃん、止血に使えそうな布をお願い!」


「はい!」




 二人が慌てて荷物を探し始める。




 倒れ込んでいた術式ちゃんたちが、心配そうによろよろとこちらに近づいて来た。


 今にも消えてしまいそうなくらい、みんなへろへろだ。




 その様子とギルバートさんの顔を交互に見、私は術式ちゃんに話しかけた。





「術式ちゃんごめんね、もうちょっとだけ頑張れそう?」



「いいよー」

「くろいのなおすー」

「がんばるー」

「りびないちゃうー」

「でもかげんむりー」




 近づいて来た術式ちゃんたちを一匹一匹撫でながら


「ありがとう」


 そう伝えればみんな嬉しそうに笑った。




 術式ちゃんたちが患部を覗きに来る。



「これひどーい」

「つめあとー」

「くまのつめー」

「でもきもちわるーい」

「へんなかんじするー」



 術式ちゃんたちの言葉に、私も傷口へ視線を落とした。




 熊の爪痕。


 片目を潰されていたファイヤーベア。


 もしかしてギルバートさんは、あのファイヤーベアと戦っていた?



 ううん、それよりも気になるのは、




「......変な感じ?」


「そうー」

「わかんなーい」

「でもへーん」




 ちょうどノアくんたちが戻って来る。




「リヴィアさん!これ布です!」


「お水も持って来たよ」




 お礼と一緒に二人から受け取ると視線を再び傷口に戻した。


 術式ちゃんたちが傷口を見やすいように布を当て、水でそっと血を洗い流す。


 拭ってもなおもじわりと溢れ続ける血。



「よしー」

「やるぞー」



 術式ちゃんたちがちっちゃな手を傷口に向ける。




「くろいのー!」

「なおれー!」

「いたいのー!」

「とんでけー!」




 痛いの痛いのとんでけーの掛け声と一緒に一斉にぺちぺちと傷口を叩いた。


 術式ちゃんたちは至って真面目だ。


 真面目に治そうとして、勢い良く患部を叩いている。




「なんか普通の治癒より痛くないか?」




 出血が止まり朦朧としているだろう意識のなか、ギルバートさんがぽつりと零す。




「......気のせいじゃないですか?」




 私はギルバートさんから視線をそらした。





 大体治療が終わり、術式ちゃんたちがその場に倒れ込む。




「もうむりー...」

「つかれたー...」

「ねむたーい...」




 術式ちゃんたちの輪郭がうっすら消え始める。




「もうねるー...」

「りびすきー...」

「おやすみー...」




 ぽこんぽこん、とみんな跡形もなく消えた。





「みんな、ありがとう」


「ゆっくり休んでね、おやすみ」




 誰もいなくなった空間を見ながら、私は小さく呟いた。




 術式ちゃんたちの応急処置のおかげで完全に血は止まっていないものの、ギルバートさんの顔色はさっきよりましになった。


 タオルで傷口を押さえるとギルバートさんに声をかける。




「ギルバートさん、立てます?」




 ギルバートさんは小さく頷き、ゆっくりと身体を起こした。


 傷口を庇うように立ち上がったその身体はまだふらつき、私は慌てて側で支える。




 ギルバートさんに肩を貸しながらたどり着いた冒険者ギルド。



 ちなみに一人じゃ支えきれなくてトーマくんたちの手も借りた、ありがたい。


 ギルバートさんはせめて今だけでも、もう少し縮んで欲しい。


 大きすぎるのもなかなかに迷惑だな、なんて文句を浮かべながら冒険者ギルドの扉を開ければ、中はいつもとは違う慌ただしさだった。







「やっぱり突然森が半焼したみたいです!」


「原因と被害状況は?!」


「まだわからない!」


「捜索隊の準備はどうなってる?!」


「今A級B級に呼びかけてます!!」




 人が右に左に動くのを視線で追いかけていると、受付カウンターで祈るように両手を握っていたトムさんと目が合う。


 私たちの姿を見て目が見開かれる。





「トーマ!!!」





 その声にギルド内の人の視線が私たちに集まった。



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