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魔女とヴァンパイア  作者: 眠木うに
1章 黄昏の国編
9/11

9 黄昏の国

 黄昏の国、デンメルング王国。

 私の記念すべき(?)最初の任務の舞台は、私が住んでいた家――燃えてしまった我が家が一応属していた国だった。もしかしたら所長の粋な計らいなのかもしれないが、属していたといってもかなり辺境の地だったし、特に愛着はない。


 デンメルング王国は、肥沃な土地と安定した産業技術をもちつつ、土地面積の狭さと人口の少なさから他国との交易をほぼ必要としない、半鎖国状態の国だ。立地の関係で夕方が長いことと、他国との関係が希薄なことから黄昏の国と呼ばれている。

 この国は古くから教会との強固な関係を築いているため、鎖国というよりは敬虔な宗教国家と見られることも多い。他国から侵略戦争を起こされないのも、教会の後ろ盾あってのことだと言われている。


 そんなデンメルング王国は、今では教会の影響力が強まりすぎた結果、王家ではなく教会が実質的に政治を取り仕切っているらしい。

 ……私は教会という存在にいい思い出がないから、なんか嫌な国だなと思うけど。


 最近、研究所の観測室――世界中に観測拠点を持ち、日夜環境測定や魔力的異常検知に明け暮れている集団から、「ここに魔女の遺産発現の兆候あり」という結果が出たとのことだ。魔女の遺産はすごく強力な魔道具なので、その力が行使されたり封印が緩まると、大気中の魔素や波長に無視できない()()()を生むらしい。

 その魔女の遺産の手がかりを探し、本体を見つけ、回収するのが任務の目標だ。



 私とミラ、それとシズクは、研究所1階の転送室にある魔法陣を起動してこの国にやってきた。


 転送先は王都アティア。城壁で囲まれた建物群の中心に一際目立つ王城、そしてその隣に同じくらい目立つ大聖堂がある都市だ……と本に書いてあった。のだが。


「……けほっけほっ」

『うっ……埃っぽいわね』

「……ここは……倉庫? 最近使われた形跡はなさそうだけど」


 転送魔術で視界が真っ白になった後、目を開けるとそこは碌に掃除の行き届いていない、廃屋と呼ぶのが相応しい建物の中だった。

 空の瓶が詰まった箱や、何が入っているのか分からないタルなどが散乱している。

 天井を見ると……屋根はボロボロで、外の夕陽が直接入り込んで中を照らしていた。


『まずはここから出ましょう。出口は……こっちかしら』


 ミラが進む後ろに付いていく。その私の後ろにシズクが続く。……シズクは忍装束とやらをまとっていて、常に黒いマスクをつけている。そのため埃の被害を受けていないようで、少し羨ましい。


「……マスクもらっておけばよかったな……」


 補給室でもらったショルダーバッグの中を見る。数本の魔力回復薬と2つの魔宝石、最後にとある魔道具が入っている。

 

 魔力回復薬はその名の通り、服用者の魔力を回復させる飲み薬だ。中には体内の魔素や魔力伝達回路を活性化させる成分などが入っているらしく、結果として魔力量を増幅させる効果がある。

 魔力は基本的に魔術を行使する際に消費されるエネルギーだが、体内を魔力が巡ることで一定の治癒効果もある。そのため魔力回復薬は魔術行使後だけでなく負傷した際の応急処置薬としても使われることがある。

 私は魔法陣とか覚えていないし魔術を習得していないので、もっぱら応急処置薬としての利用をすることになるのだろう。なるべく危険なことはしたくないけど……そういえば、今まで怪我したこととかなかったな。


 そして2つの魔宝石のうち、赤い方の転移石テレポーテーションストーン転移(テレポーテーション)の魔術が込められた魔宝石であり、任務終了後はこれを起動すれば研究室に帰れるらしい。なお、転移(テレポーテーション)はかなり高位の魔術で、起動してから転移開始までに1分程度かかるらしい……危険が迫ったときの緊急脱出装置としては期待しすぎない方がいいだろう。

 

 もう片方の青い魔宝石――念話宝石(メッセージジェム)は、事前にペアリング済みの念話宝石(メッセージジェム)同士で声による連絡が取れる魔術が込められている。私とシズクのものはペアリング済みなので、離れていても連絡が取れるということだ。


 どちらの魔宝石もかなり高価なので絶対に壊さないようにと、副所長から念を押されている。なるべく気をつけようと思う。


 まあそんなことよりも、最後のとある魔道具が一番大切である。それを顔の前に構え、レンズ越しに前のミラを見ながら起動ボタンに指を合わせる。

 ミラは相変わらず、出口を探しながらゆっくりと歩いている。


「歩くたびに絹のような金髪が左右に揺れる……これはもはや動的芸術……キネティックアートの域」


 そのまま指を押し込み、魔道具を起動する。直後、パシャリと音が鳴った。

 この魔道具は調査記録用の小型撮影機である。これを介して映した像を発動時に切り取り、1枚の写真として保存することができる。

 

 早速魔道具を写真閲覧モードに切り替えるが――案の定、そこに写っていたのはただの廃倉庫で、ミラの姿はどこにもなかった。


「はぁ……」


 ミラが他の人に見えないのと同様に、この魔道具で撮影してもミラは写らないのである。私がレンズ越しに見る分には見えているのに……残念だ。


「こまめな任務の記録は大事。アヤ、偉い」


 ……シズクが後ろから何故か褒めてくれるが、慰めにはならない。

 まあ、ミラ自身を写せないことは既に分かっていた。これを持ってきたのは、後でミラに着てもらう衣装のネタ集めのためである。任務中にめぼしい衣装を見つけたら写真を撮ってアメリアさんに見せて同じものを作ってもらう。これぞ仕事のやりがいというやつである。そのためなら多少危険な任務も我慢できるというものだ。


 ついでに振り向いてシズクを撮影してみる。パシャリ。


「忍装束も、意外と似合うかも……」

「え、な、なに? えへ、ぴーす……」

『……突発撮影会? 廃墟とニンジャ……意外と合う? のかしら』


 前、横、後ろと何枚か撮ってみる。

 ニンジャの格好をしているミラを想像すると……悪くない。悪くないぞ、むしろいい。にんにんってやってほしい。


「にんにん……えへ、えへへ……」

「ぴーす、ぴーす……」

「……おい、そこで何してる? お前らもそうなのか?  おい!」

「は?」

「は?」


 無粋な声がして、幸せな妄想タイムはあっさり終わってしまった。


 声のした方を見ると、壊れた天井から斜陽が照らす開けた空間に、中肉中背の武装した男が立っている。軽鎧を身につけていて、手には殺気を纏った鋭い剣鉈(けんなた)を持っていた。

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