8 アルプトラウム
天井には天文があった。様々な惑星、衛星が悠々と浮かび、下界を見下ろしながら鎮座している。
アインザーム魔法魔術研究所の所長室。最上階に位置するそこは、変な部屋が多いこの研究所でも特に異質な空間だった。
黒光りするプレジデントデスクの向こうで、所長はこれ見よがしに両手を広げ、世界に宣言するように告げる。
「アヤちゃんは今日から、このボク、リリア・シスタスが誇る秘密特殊部隊、アルプトラウムの一員だ!!」
「おめでとうございます。これは名誉なことなのですよ。喜びなさい」
「え……あ、はい」
所長の傍らに控えている副所長が、冷たい眼差しで喜びを強制してくる。ライトグリーンのミドルヘアはゆるくパーマがかかっているが、細いフレームの眼鏡と、その奥からこちらを刺す鋭い眼差しが冷徹な印象を与える。
私は棒立ちしながら適当に頷いた。よく分からないが、ついに仕事をするときが来たということだろう。この研究所は特段不自由ない場所だし、ここで働いて生きていくことに反対する理由はなかった。
近くに立っているミラを見ると、真面目な顔で所長の言葉の続きを待っていた。可愛い。
ちなみにミラに持ってきてもらった服は、私の影に収納してもらっている。理屈は分からないが、ミラは私の影に物体を出し入れできるのである。私の武器――リコリスラディアータも、普段は影の中に入れてもらっている。
「アヤちゃんも知っての通り――」
所長が朗々と話し始めたので、慌てて所長の方を向く。仕事の話はちゃんと聞いておいた方がいいだろう。
「200年前まで、この世界の人間は魔物と魔族、つまりは魔に怯えて暮らしていた。そこに現れたのが原始の魔女、リリア・シスタス――もといボクさ。原始の魔女は、人間が持ち得なかった『魔法』という存在を、人間でも扱える『魔術』という別の体系に落とし込んだ」
『原始の魔女……』
「彼女は魔術体系を創り、広め、そして自らもその力を行使した。それがいわゆる、魔栄の時代の幕開けってやつだ」
『まえい? の、時代……』
「その当時には、たくさんの魔道具が作られた。日常で役立つような簡単なものから、戦争に使われるような危険なものまで、ね。とりわけ原始の魔女が作った魔道具は人の手に余るほどの効果を発揮した。有名な話で言えば――夜の国ナイトハイクの全国民が突如として醒めない眠りに就かされ、そのまま滅んだ事件は知っているだろう。あれは星朧の常夜という魔道具を不用意に発動させた結果起こった事故だ」
「おぉ……」
……普通に知らない事件だったけど、話の腰を折らないよう適当に相槌を打つ。
「原始の魔女が遺した魔道具は『魔女の遺産』と呼ばれている。魔女の遺産は非常に危険な魔道具だ。それを悪用しようとする輩は世界中にいる……。そこでボクは、そんな魔女の遺産を回収し、世界の平和を守るため、この研究所を作った。その中でも、魔女の遺産を実際に回収するため現地に赴く実行部隊――」
ビシッと所長が私を指差す。
「それがアルプトラウムだ!」
「流石です、所長……偉大なる御方」
「はあ」
まあ結局のところ――危ない魔道具を回収するチームに、私は配属された。
「つまり……それって危ないのでは?」
「え? うん」
悪びれもせずに所長に肯定される。危ないことは……嫌だなあ。
「そしてさらに喜びたまえ! 今この場で、記念すべき最初の任務を与えよう」
「さっそく危険な仕事が……」
「なに、心配はいらない。今回の任務はアルプトラウムメンバーの一人、シズクと一緒に行ってもらうからね。聞けば、彼女はアヤちゃんと既に仲良くなったそうじゃないか」
「……え?」




