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魔女とヴァンパイア  作者: 眠木うに
1章 黄昏の国編
7/12

7 幽々

「うぅ…………」

『アヤ! 大丈夫?』


 自室の柔らかいベッドの上で目を覚ますと、こちらを見下ろすミラの顔がぼんやりと見えた。


 滑らかな金髪が頬にかかる。


「うへへ……」


 その感触を味わっているとだんだん意識が覚醒してきて、ミラの表情がはっきりと見えてきた。眉尻を下げて心配そうにこちらを見つめている。


「……あ」


 ミラの先に見える黒い天井と魔力調光式の照明を見て、ふと、ここは私の家ではないんだなと思う。

 まあ、その家は燃えちゃったからもうないんだけど……なんだかときどき、少し恋しくなる時がある。


 ……そうだ。母にももう……多分、会えないんだ。あんな別れ方をしてしまったし、どんな顔をして会えばいいのか。


 ミラに向かって両腕を伸ばす。……もう少しで肌を感じられそうなところで、空気の読めない足音が響いた。


「おはよーアヤちゃん!! 今は午後6時だ!」


 遠慮の欠片もなく、扉がバンと開かれる。

 そこに立っていたのは、この研究所の最高責任者リリア・シスタス所長である。


 所長がズカズカと近づいて来るので、ミラはベッドから離れてしまった。そんな。宙に伸ばしていた両腕が力無く崩れ落ちる。


 そのまま所長は私の掛け布団を剥がすと、ニコニコと話しかけてくる。


「朝もとい昼もとい夜だ! 起きてくれたまえ! 大事なお話があるんだ――」

「はあ…………。あっ」


 所長の後ろのテーブルに、さっきアメリアさんからもらった服が2着置いてあることに気がついた。アメリアさんが見せてくれた服のうちの1つと、ミラが選んだ服である。きっとどちらもミラに似合うことだろう。


 気絶直前にミラが見せてきた様子を思い出す。赤をメインとしつつ、要所に白が入ることで気品高さと愛嬌を両立させた服。可愛らしくフリルが揺れるそのセーラーミニワンピースは、本当にミラに似合っていた。最初からミラのために作ったんじゃないかと思えるほどだ。それを着ているミラを想像すれば、ほら、後ろを振り返って儚い笑顔で私に微笑んでくれたり、名前を呼んでくれたり――


「えへ……えへへ……」

「――というわけなんだ。勿論いいよね?」

「え? あ、はい」


 所長が突然問いかけてきたので適当に返事を返す。

 すると所長のテンションは最高潮になり、まるでショーでも開演しているかのような大仰な仕草で喜びを表現する。


「ああ、なんと素晴らしい!! やはりそう言ってくれると信じていたよ!!! 早速詳しい話を進めようじゃないか! ――浮揚(レヴィテーション)!」


 所長は空中に魔法陣を描くと、それを発動させた。すると私の身体は宙に浮かび上がり、そのまま部屋の外に連行される。


「……って、あっ、待って! 服!!」

『任せて!』


 連れて行かれる直前、ミラが服を回収してくれる。ミラは空を飛んで高速に移動できるし、触れたいと思った物体にだけ触れられるのだ。

 所長の魔術に飛ばされながらミラと喋る。


「ありがとう、ミラ」

『どういたしまして。アヤの服とわたしの服よね。着たくなったらいつでも言って大丈夫よ』

「え? 両方ミラの服だけど……」

『え?』

「……うん? 何か言ったかい?」


 所長が振り向いたので首を振る。……そういえば彼女も飛んでいる。所長用の飛行魔術の魔法陣を描いていた様子は無かったし、魔道具でも使っているのだろうか。


 そのまま螺旋階段に到着すると、その真ん中の空洞部分を勢いよく上に上がっていく。

 昇降機より速いし、魔力消費量を無視すれば合理的かもしれないけど……高所恐怖症だったら無理だなあとか思いながら、脱力して到着を待つのだった。

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