第072話 良い町でした
俺達が魔法の練習をしていると、16時半になり、ノックの音が部屋に響いた。
『お客さーん、ダリアさんが戻ってきましたよー。一緒に夕食を食べようって言ってます』
「わかった。すぐに下りる」
『了解です』
廊下を歩いていく音が聞こえ、すぐに階段を下りる音に変わる。
「行くか」
「そうね」
俺達は部屋を出ると、階段を下りる。
受付にはダリアがいなかったので食堂に向かった。
すると、他のお客さんはいなかったが、ダリアがテーブルについていたので俺達もその席に行く。
「あ、お待たせしました。本当はもう少し早くに戻っていたのですが、馬車の確認や馬の世話がありましたので」
「いや、良いんだ。急ぎじゃなかったし、せっかくだから一緒に食べよう」
「はい」
俺達も席につくと、女将さんが料理を持ってきてくれたので皆で食べだす。
「準備はできたのか?」
「ええ。ばっちしです。絹織物を買いましたのでミストラで売ろうと思います」
調べたんだろうな。
「そうか」
「あ、もちろん、皆さんが座れるスペースはあります。それで話があるって聞きましたけど、何でしょう?」
あ、そうだった。
「実は今日、ギルドに勧められたんだが、護衛をするなら依頼にしたらどうだってさ。それで俺達の実績になるらしい。もちろん、料金はいらない」
ここ大事。
ここを言わないと、変な話になる。
「あー、そういうことですか。確かにそっちにした方が良いですね。私としては問題ありませんよ。ギルドに行って、ちょっとした書類を書くだけですから。商人としてもなあなあよりも書類を残しておいた方が良いまであります」
途中で逃げたり、不利益を被ったりする可能性があるからだな。
「ああ。当然、俺達も依頼の体を成していなくても仕事はちゃんとする。俺達的には乗せてくれるだけでありがたいからな」
実績のないEランクだし、金を寄こせとは言えない。
「こちらもですね。それでは明日の朝にでもギルドに行きましょう。明日は南門から出ますのでちょうど通り道です」
「6時だったが、早めに出るか?」
「そうですね……5時半にしましょう。この町のギルドはかなり早い時間からやっているはずです」
4時からだよ……
ブラックでは?
「じゃあ、それでいこう」
「頑張って起きるわ」
「御二人共、頑張ってください」
頑張るよ。
「ふふっ、では、お願いしますね」
俺達は夕食を食べ終えると、ダリアと別れ、2階に上がる。
そして、トランプをしたり、魔法の練習なんかをしていったが、この日はさすがに早めに就寝した。
翌日、やっぱりリーエに起こしてもらった俺とイレーネは準備をし、食堂で朝食を食べる。
「なんで朝は眠いのかね?」
「朝だからでしょ」
「そうか。イレーネは賢いな」
「まあね」
「しょうもない会話をしないで早く食べてくださいよ。ダリアさんが待ってますよ」
俺達が階段を下りた時、受付にはダリアがおり、娘さんと楽しそうに話をしていた。
その際にゆっくり食べてくれと言われたが、そういうわけにはいかない。
「あいつ、何時に起きてるんだろ?」
「商人は早いんじゃない? あの子、野営の時も早寝だったでしょ」
早寝過ぎだったがな。
俺達はちょっと急いで朝食を食べると、女将さんに礼を言い、受付に向かう。
受付ではやはり娘さんと楽しそうに話をしているダリアがいた。
「待たせたな」
「いえ。それでは行きましょうか」
「ああ」
「あ、お弁当です」
娘さんが俺達に袋を渡してくれる。
ダリアも頼んでいたようで受け取っていた。
「ありがとう。またね。王都に行って、ちょっとしたらまたリーフェル王国に行くから寄るよ」
「ダリアさんも大変ですねー。気を付けてください。皆さんもお気を付けて」
娘さんがこちらを見てきた。
「ああ。世話になった」
「満足だったわ」
「ありがとうございました」
「いえいえ、それではいってらっしゃいませ」
俺達は娘さんに見送られ、宿屋を出る。
すると、宿屋の前にはダリアの馬車があった。
「乗ってください。ギルドまで行きましょう」
「ああ」
俺達が荷台に乗り込むと、ダリアも御者台に乗り、馬車が動き出す。
そして、数分でギルドの前までやってきたので馬車から降り、中に入った。
ギルドの中はさすがに時間が早すぎだと思ったが、数人の冒険者がおり、何かを話し合っている。
「本当に日が出たら活動する冒険者もいるんだな」
「でしょ? 私は良い仲間がいて、嬉しいわ」
俺も起きないからな。
足並みを揃えられるのは良いことだ。
そして、引っ張ってくれる(起こしてくれる)子もいる。
「ふふっ、良いですね。行きましょうか」
ダリアが笑って促してきたので受付嬢のもとに向かう。
「おはようございます。出発ですか?」
受付嬢が笑顔で聞いてきた。
「おはよう。ああ。それで昨日の提案通りにしようと思う。こちらが依頼人のダリアだ」
ダリアを紹介する。
「商業ギルドに所属している行商人のダリアです。依頼をお願いします」
「わかりました。それではこちらに記入をお願いします」
受付嬢がカウンター下から2枚の書類を取り出し、ダリアに渡した。
「はい」
ダリアが頷き、書類を書いていく。
2枚は同じ内容のようだ。
多分、1枚はダリア用の控えだろう。
「なあ、Cランク冒険者のベッキーを知らないか? 同じ方向に移動中なんだが」
ダリアが書いている間に聞いてみる。
「ベッキーさんですか? 昨日から教授と西の森に行ってますよ。泊まりだそうです。今日には戻ってくるんじゃないですかね?」
研究の仕事か。
じゃあ、今回は一緒じゃないな。
まあ、行く先は一緒だからどこかで会うかもしれないが。
「あ、ヴェルナーさんの姓は何ですか?」
ダリアが聞いてくる。
「俺達は全員、ランゲンバッハだ」
「わかりました。えーっと、Fランクでしたっけ?」
俺とイレーネの名前を書いたダリアが確認してくる。
「あ、いや、一昨日、Eランクになった」
「Eランクっと……」
ダリアはその後も行き先などを書いていき、さらにはもう1枚にも同じ内容を書き、受付嬢に提出した。
「はい、確かに。では、確かに受理しました。一応、注意をしておきますが、今回は依頼料が発生しません。それでも依頼失敗の際はペナルティが付きますので注意してください」
受付嬢が俺とイレーネを見てくる。
「当たり前だな」
「当然よ」
俺とイレーネが深く頷いた。
「はい。では、ミストラのギルドに着くまでがお仕事ですのできっちりお願いします」
「わかった。世話になったな」
「いえいえ。大変活躍してくださり、とても助かりました。このひと月で薬草採取をしてくれたのはあなた方だけです。ギルドはこういうのを高く評価しますのでこれからもよろしくお願いします」
誰もやらないか……
まあ、金にならないしな。
「ああ。できることなら積極的にやるようにしよう」
「お願いします。それでは気を付けていってらっしゃいませ」
「感謝する」
俺達はギルドを出ると、再び、馬車に乗り込み、南門に向かった。
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