第065話 イレーネさんは早いから……
俺達は朝食を食べ終えると、弁当を受け取り、宿屋を出た。
「ギルドに行くか?」
イレーネに確認する。
「いえ、常設依頼だから大丈夫でしょ。このまま山に行きましょう」
「わかった」
俺達は東の方に向かって歩いていくと、門までやってきたのでそのまま町の外に出る。
外は街道がずーっと続いているが、そこから右に曲がっている。
「山ってあれよね?」
イレーネが前方にある山を指差す。
ちょっと距離があるものの、標高が1000メートルもなさそうな岩山だ。
「だと思う」
「ふーん……行ってみましょう」
俺達は街道を進んでいく。
すると、街道が右に曲がっており、看板が見えた。
「デリー村に通じるって書いてあるな」
看板にそう書いてある。
「農村でしょうね。山への道はないみたい」
そんなに行き来していないってことか?
「でも、馬車が通った跡はありますよ」
リーエがそう言うので地面を見てみると、確かに等間隔の線が2本ほど山の方に続いていた。
しかも、最近ついたものではなく、何度も通ってきた感じで年季が入っている。
「馬車が山に何の用だ?」
「石材や岩塩を採ったりするわね。道がないところを見ると、昔の話の可能性があるけど」
へー……さすがはイレーネさん。
詳しいな。
「では、この跡に沿って行ったら良いわけですね」
「そういうこと。行きましょう」
俺達は2本の馬車の跡を目印に歩いていく。
すると、途中で右にカーブしていき、徐々に山の側面の方に進んでいった。
「誰もいないなー」
周囲には人っ子一人いない。
「そういえば、森でも見かけませんでしたね。ギルドには結構な数の冒険者さんがいらしたのに……皆さん、どこで稼いでいるんでしょうか?」
「冒険者も色々な仕事があるからね。まあ、山にも森にもいるんじゃない? 森も広いし、出会わないこともあるわよ。というか、出会いたくないわね」
トラブル回避か。
まあ、どうとでもなるんだが。
「イレーネ、せっかくだし、火でも出してみろよ」
昨日、言ってたやつ。
「あ、そうね。でも、どうやってやるの? 出したことはあるけど、偶然だし」
おならね。
「リーエ」
「具現魔法はイメージと集中力、そして、仕組みを理解することが大事です。まずは指を上に向けてください」
「こう?」
イレーネが人差し指を上に向ける。
「次にムーブの時と同じく、指に魔力を集中させます。あ、集中させすぎないでくださいね。イレーネさんはすぐに放出してしまうので」
なんか嫌な言い方って思うのは俺だけだろうか?
「最初は難しいのよね……慣れたらできるようになるんだけど」
「それは仕方がないですね。普通はそうでもないんですが、イレーネさんは魔力が大きいので動かそうと思った時にそれ相応の力がいります。当然、それをすると一気に魔力が放出されるわけです。しかも、質も良いので高火力が出ます」
エネルギーの問題ね。
「どうすればいいの?」
「そのための魔力操作の練習ですね。イレーネさんが言うように慣れです。ただ、火魔法は危ないので意識を分散させる方向でいきましょう。ささっ、仕事中なのにイチャイチャするバカ冒険者カップルになってください」
なんか嫌な言い方って思うのは……全員だろうな。
「こう?」
イレーネがなんちゃら繋ぎをしてくる。
「ええ。初めての魔法を使う時はそれでやってください」
「わかった」
僕、役得?
「では、火魔法です。頭の中に火をイメージし、指の先を熱くするように魔力を集中させてください」
「うーん……」
イレーネの魔力が右指に集まっていく。
でも、ちゃんと繋いでいる手にも魔力が集まっており、上手く分散されていた。
「良いですよー。でも、ちょっと量が多いのでもう少し分散してください。ヴェルナー様、お尻でも触ってあげてください」
「しねーよ」
セクハラだろ。
「では、仕方がないですね。イレーネさん、指をあちらに向けてください」
リーエが右の方に指差す。
当然、そちらには何もない。
「こう」
イレーネが言われたとおりに指差した。
「はい。では、指に溜まった魔力を放出させてください。ムーブと同じです」
「よし。いくわよー」
「どうぞ、いってください」
「頑張れー」
イレーネが指の先から魔力を放出させる。
すると、イレーネの指の先から火炎放射機のような火が勢い良く放出する。
かなりの火力だが、周囲に燃えるものがないのですぐに消えていった。
「お見事です。威力も素晴らしかったですね。オークも焼き豚になります」
「今のは良かったぞ」
手を離し、リーエと拍手する。
「おー……魔法ね。しかも、前に出ちゃった時よりもすごいわ」
「それはちゃんとコントロールされているからです。今のでだいたい力の配分はわかりましたよね? では、山に行くまでに小さな火を出し続けてください。これは小さい魔力を一定に出し続ける練習です。これができるようになればライトの魔法を使えるようになります」
光を出す魔法は簡単だ。
大事なのはその光量を維持すること。
「やってみる」
イレーネが指を上に向け、火を出す。
ただ、数十センチくらいの火の玉だ。
「大きいです。蝋燭の火くらいにしてください。目立っちゃいますよ」
「それもそうね……って小さくするのは難しいわ」
イレーネはそう言いつつも少しずつ火の大きさを小さくしていき、蝋燭くらいの小さな火になった。
「それくらいです。焚火に火をつけるのもそれくらいで良いですし、生活用の火はその程度の火力で十分です。では、それを維持しつつ、山に向かいましょう」
俺達はイレーネの火を注視しながら歩きだし、山に向かった。
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