第060話 新イレーネさんです
ギルドを出ると、西の方に向かう。
「イレーネさん、ちょっとスムーズ過ぎませんでしたか?」
歩いていると、リーエが聞く。
「そう?」
「ええ。元々、冒険者だったのではと疑われますよ」
「うーん、まあ、そういうこともあるかもね」
イレーネはそんなに重く考えていないっぽい。
「二重登録は良いんですか?」
「良いか、悪いかで言えば、悪いわね。でも、冒険者の登録って簡単だったでしょ? あれはどうとでもなるわよ」
名前と年齢、それに得意、不得意を書くだけだったからな。
身分証明なんかの書類も必要なかった。
まあ、あったら俺も登録できないんだが。
「ずさんな管理なんですね」
「まあ、仕方がない面もあるのよ。冒険者って学も何もない人の最後の受け皿の面があるからね。冒険者という職業がなかったら犯罪者が増えちゃうのよ。それをギルドが管理しているわけ」
人間を襲わせないで魔物と戦わせるってことか。
「二重登録をしている人が多そうですね」
「人のことは言えないけど、多いんじゃない? 依頼をミスりまくったりとかもデータに残っちゃうし、人間関係で揉めたりして、違う土地でやり直すって人も多いでしょうから。それをギルドが管理しようとするのは大変だし、追い詰めちゃったらそれこそ犯罪に走っちゃうしね」
ふーん……この世界のルールか。
まあ、深く突っ込むのはやめておこう。
だって、イレーネもそうだし。
「問題ないなら良いです」
「そうそう。別に問題も起こさないしね。真面目と評判だったんだから」
お嫁さんにしたい冒険者ナンバーワンだったっけ?
「イレーネ、薬草の採取はするのか?」
受付嬢が勧めてきたやつ。
「あー、それね。やる、やる」
「やった方が良いわけか?」
「ええ。正直、薬草採取なんて儲けにならない。でも、ああいうギルドからのお願いを聞いてると、ランクアップが早いわけ」
そういうことか。
「俺がギルドで登録した時、受付の男は無理せずに浅いところでやれって勧めてきた」
「当然ね。ルーキーはそうよ」
「でも、さっきの受付嬢は止めてこなかったし、弓で鳥を射ろとまで言ってきた。イレーネをルーキーと見ていない」
絶対にそうだ。
「あー、そうかも……完全に経験者ってバレてるかも。マズい?」
「いや、イレーネが言うようにたいしたことじゃない。薬草採取を勧めてきたってことはさっさとランクアップしろってことだ。向こうはお前が問題を起こしての二重登録とは思っていない」
イレーネは人当たりが良いからな。
「あー……恋愛で揉めたなって思ったかも」
イレーネがちらっとリーエを見る。
「あ、私ですか。どう見てもイレーネさんの子ではないですもんね」
俺もルーキーのFランク。
さて、どう思ったか。
まあ、どうでもいいか。
ここもそんなに長居しないし。
「うーん……恋愛ではないけど、似たようなことで揉めたは揉めたわね」
結婚話だもんな。
しかも、俺達、来世で一緒になろうとか言って、海に身を投げたし。
「向こうが思ったのはその辺りだろう。それで勧めてきたわけだ」
「なるほどね。まあ、そう思うのはあの受付嬢の子だけだし、問題ないわ。あの子もすぐに忘れるでしょう」
「ずっとここにいるわけじゃないしな。お、門が見えてきたぞ」
前方に門が見えている。
「多分、あそこから森に行けると思う。行ってみましょう」
俺達は歩いていき、門を抜ける。
すると、数百メートル先に川が見え、橋がかかっていた。
その橋の先に森が見えている。
「馬車からも見えていた川と森ですね」
「行ってみるか」
俺達はそのまま道を歩いていき、橋までやってくる。
川はそんなに大きくなく、川幅が10メートルもないし、深さも流れもたいしたことない。
「のどかだな」
「釣りとか良いかもですね。そういう人はいませんが」
辺りには誰もいない。
「さすがに森が近いから危ないんでしょ」
まあ、そうだろうな。
俺達は橋を渡り、さらに歩いていくと、森の前までやってきた。
森は道がずーっと続いている。
「この道を行けばどこかに行けるか?」
「多分、そうね。管理されているし、どこかの町や村に行けるんだと思う」
「つまり街道を歩いていても魔物は見つけにくいわけだ」
「ええ。街道じゃなくて、森の中を歩きましょう」
俺達は右の方の森に入っていく。
「イレーネ、最初はお前の動きの確認をしよう」
「そうね。2年のブランクがあるし、ちょっと勘を取り戻したい」
「では、早速いってみましょう。右斜めに微弱な魔力反応です。これはおそらくゴブリンですね」
俺達は右斜めに歩いていく。
すると、ぼけーっと空を見上げている小鬼がいた。
「あれがゴブリンだよな?」
一応の確認。
ギルドでゴブリンの魔石と言われたからゴブリンだと思っているが、違うかもしれない。
「ええ……あれ? なんで目の前にいるのにこっちに気付いてないの?」
ゴブリンは数メートル先にいるが、相変わらず、ぼけーっとしている。
「ミスディレクションだ。マリティアの森もだったが、ゴブリンやコボルトは気付かない」
ミスディレクションは町中を歩いている時からかけている。
「へー……魔物にも効くんだ」
いや、こいつらが鈍いだけな気がする。
「どうする?」
「ちょっとミスディレクションを解いてくれない?」
「わかった」
頷き、ミスディレクションを解いた。
「ギャッ!?」
ゴブリンが俺達に気付き、びっくりした表情を浮かべる。
しかし、すぐにこちらに向かって駆けてきた。
「ふう……ッ!」
イレーネが一息つき、腰の剣を握ったのだが、一瞬で踏み込み、ゴブリンを斬る。
ゴブリンは斜めに分かれ、息絶えた。
まさしく、瞬殺である。
「やはり強いな……」
「あれだけの魔力で強化魔法に特化した剣士の強さでしょうね」
すごいわ。
「ふっ、どう?」
イレーネが決め顔になった。
「綺麗だった」
「白銀の名にふさわしい美しさだと思います」
「そっち?」
いや、いつもそれじゃん。
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