第058話 そっくりです
部屋に戻った俺達はイレーネ、リーエ、俺といういつもの順番で風呂に入る。
風呂はダリアが言うように広めであり、足を伸ばすことができたのでかなり快適だったため、心身ともにリフレッシュできた。
そして、風呂を堪能し、部屋に戻ると、ソファーに腰かける2人のもとに行く。
2人は微妙に距離を取って座っており、俺がどこに座るかが何となくわかったので間に座る。
「良い風呂だったな」
「ええ。快適だったわ。本当に良いところよね。もっと料金を取って良いと思うわ」
「良心的ですよねー」
この町に滞在中はこの宿屋で良いな。
「飲むか」
ソファーの前にはローテーブルが置いてあり、そこには氷水と共にワインとぶどうジュースのボトルが入ったワインクーラーが置いてあった。
「そうね」
「少々、お待ちください」
リーエはグラスを俺達の前に置き、ワインを取る。
そして、布でボトルを拭いた後に栓を抜き、グラスに注いでくれた。
「悪いな」
「ありがとう」
俺達が礼を言うと、さらに自分のグラスにもぶどうジュースを注ぐ。
「それでは無事にリーフェル王国を出たこと、そして、イレーネさんの第二の人生が始まったことを祝して乾杯を致しましょう。ささ、イレーネさん、一言どうぞ」
大層だな。
「そうねー……まずはありがとう。おかげさまで無事にここまで来られたわ。それとこれから豪勢なお屋敷を建てて、魔法の研究をするという目標に向けて頑張っていくわけだけど、足りないところを補い、3人で協力していきましょう。はい、乾杯」
イレーネがすらすらと言葉を述べ、グラスを掲げたので乾杯する。
そして、一口飲んで、よく冷えたワインが風呂上がりの自分の身体の内側に染み渡った。
「ふう……」
「良いわねー」
「美味しいです」
リーエも美味しそうに好物のぶどうジュースを飲んでいる。
「イレーネ、体調の方はどうだ?」
「そこは大丈夫。スピードをやっているし、身体を動かす時に意識もしているから」
ふむ……
「ちょっといいか」
そう言って、イレーネの手を取る。
「何? 握り方はこうよ」
イレーネが指を絡ませたなんちゃら繋ぎに変えた。
「そうじゃなくて……いや、いいか」
悪い気はしなかったのでそのまま探る。
「どうですか?」
意味をわかっているリーエが聞いてくる。
「悪くないな」
「いや、そこは良いって言いなさいよ」
そっちじゃない。
そっちは良い。
「魔力の流れを探っているんだよ」
「流れ? 何それ?」
イレーネが首を傾げた。
「イレーネは戦いとかの瞬時に動く時にしか強化魔法を使っていなくて、それ以外は魔力が停滞していたんだ。それが魔力障害の原因なんだよ。今はそれを探っているんだよ」
イレーネの中にある魔力を診ているわけだ。
「ふーん……じゃあ、普通に握るわけでも良いわけだ」
「いや、この握り方だったような気がする」
そんな気がしてきた。
「じゃあ、これね。それでどう?」
「わずかだが、今も動いている」
本当にわずかだが。
「わずかかー」
「いや、それは仕方がない。それほどまでにイレーネの魔力は大きいんだ。わずかでも動いているなら良いことだ」
それだけでもだいぶ違うと思う。
魔力障害の症状も軽くなるだろう。
「いけますか?」
リーエが確認してくる。
「多分な。頼むわ」
そう言いつつ、手は握ったままだ。
もう離しても良いんだが、なんとなく……
「わかりました。イレーネさん、魔法を使ってみませんか?」
「魔法? 私が?」
「ええ。イレーネさんがです。それも強化魔法ではなく、この世界で失われたと言われている魔法です」
「おー、やってみたい。クリアダストが良い」
やっぱりそれか。
「まあまあ。物事には順序というものがあります」
リーエがそう言って、空間魔法から帝国で使われている銅貨を取り出し、テーブルに置いた。
「コイン?」
「これが帝国の硬貨です。銅なので安いです。イレーネさんにまずやってほしいのは物を動かす魔法です。ムーブという名の魔法ですが、基礎中の基礎になります」
念動力だな。
「手を使わずによね?」
「はい。魔力を放出し、動かすのです。こんな感じですね」
リーエが銅貨を見ると、すーっと動き、さらには戻ってきた。
「すごいわね……」
ぱっと見は手品だな。
「今のは簡単なやつです。これを極めれば鍵を開けたり、遠くのものを引き寄せることもできます」
マリティアの領主の屋敷で鍵を開けたのはこの魔法である。
中から力を加えて、鍵を開けたのだ。
「へー……できるかしら?」
「イレーネ、これは魔力を放出すれば良いだけだ。イレーネは体内で魔力を動かすことしかやってきていないから次のステップになる。魔法というのは大きく分けると2種類あり、1つは強化魔法や魔力感知などの体内で魔力を動かす循環魔法、もう1つが水や火を出したりする具現魔法なんだ。今からやるのは具現魔法の第一歩だな。これができればイレーネもクリアダストをすぐに使えるようになる」
クリアダストは簡単だし。
「へー……以前、火を出したこともあるけど、あれが具現魔法なわけだ」
「そうだな。おそらく、それは溜まった魔力が放出してしまった事故だろうが、やることは同じだ」
「なんか嫌な言い方ね……」
おならみたいだもんな。
「放出が自然とできるようになったらもう魔力障害は起きないと思っていいから頑張れ」
「わかったわ」
イレーネがじーっと硬貨を見る。
いまだに手を繋いでいるからわかるが、魔力の流れが変わっていないし、できていないと思う。
「イレーネさん、まずは指を向けてください。そこから魔力を放出するイメージでやりましょう。私達は慣れているのでそんなことはしませんが、最初はそこからです」
「よし」
イレーネが空いている右手で指を硬貨に向けると、これまたわずかだが、魔力が右手の方に流れていくのがわかった。
「イレーネ、良い感じだぞ」
「そう?」
ん? なんか魔力がこっちに……
「イレーネさんと手を繋いで嬉しそうなヴェルナー様、すみませんが、意識がそっちに向かっていますので手を離してください」
「そうか……」
仕方がないので手を離した。
「なんか恥ずかしいわね……」
俺もちょっと……
「いえ、そういうものですから。当たり前ですが、触れられたらそっちに意識がいきます」
まあね。
「ふう……よし」
イレーネは胸に手を当て、一息つくと、指を硬貨に向ける。
すると、ずずっと硬貨が動き出した。
「あ! できた! あれ?」
イレーネが喜ぶと、硬貨が勢い良く飛んでいき、暖炉の中に入っていった。
「大きな魔力で飛ばしましたね」
嬉しかったんだろうな。
一気に魔力が放出されていた。
「あー、ごめん。お金が……」
「いや、そこは良いです。もう使えないお金ですし、安いですから。それよりもできましたね。それが具現魔法の基礎です」
「おめでとう」
ぱちぱち。
「おー、魔法か! 私もこれで魔法使い!」
良かったね。
「次は力の強弱を学んでいきましょう。イレーネさんはとてもセンスがありますし、お美しいのですぐにできるようになるでしょう」
美しさは関係なくね?
「ふっ、やっぱりね……そうじゃないかと思ってたわ」
やる気を出している……
関係あったわ。
その後もムーブの練習をしていったが、いい時間になったので就寝した。
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