第057話 私の仕事なのです!
宿屋に入ると、奥に若い女性がいたのでそちらに向かった。
「いらっしゃいませー。お泊まりですか?」
俺達に気付いた店員が笑顔で聞いてくる。
「ええ。3人部屋。ちょっと長居するかもしれないんで、何泊するかは決めてない」
仕事をしないといけないからな。
「3人部屋ですと、1泊当たり、1万2000ソルです。連続して泊まりになる場合は朝にでも言ってください。部屋を取っておきますので。また、朝夕の食事はそちらの食堂でお願いします。ただ、いっぱいの時はお部屋にお持ちします」
店員が右の方を指差す。
そちらにはいくつものテーブルが見えていた。
「食堂もやっているの?」
「ええ。別料金になりますが、昼に定食を食べられます。それと簡単なものでしたらお弁当も用意できますよ。1人当たり500ソル頂きますけど」
へー……弁当を用意してもらえるのは良いな。
「じゃあ、お願いするわ」
イレーネが宿泊代と弁当代を合わせた1万3500ソルを支払う。
「わかりました。明日は何時頃に出られますか?」
「どうする?」
イレーネが聞いてくる。
「8時……いや、初日だし、9時にしよう」
無理は禁物だ。
まずはしっかり身体を休めよう。
けっして、朝が辛いからじゃないからジト目で見てくるんじゃないぞ、ホムンクルスちゃん。
「賛成。9時でお願い」
イレーネも同意のようだ。
「かしこまりました。では、その時間にご用意します。こちらが鍵になります。お部屋は2階の2号室ですね」
店員が鍵を渡してきたのでイレーネが受け取った。
「ありがとう。それと後からダリアって商人の子が来るわ。部屋を取っておいてって言われた」
「あー、ダリアさんですね。戻ってこられたんですか。わかりました。一人部屋を取っておきます」
知り合いらしい。
常連なんだろう。
「お願い。じゃあ、部屋でゆっくりしたらご飯にするから」
「いつでも大丈夫ですよ。ご覧のように空いてますので」
夕方とはいえ、まだ17時前だからな。
ただ、もう少ししたら混みだすか。
俺達は近くにあった階段を上がり、2号室に入る。
「おー、広めだな」
「綺麗だし、良いわね」
「ダリアさんがずっと泊まっているのも頷けますね」
部屋は木材を基調とした10畳以上の広さがあり、ベッドとテーブル、さらにはL字型のソファーがあった。
ソファーの前には暖炉まであり、1万2000ソルは安いなって思う。
「良いじゃない、良いじゃない。ゆっくりできそう」
イレーネが頷きながらソファーに腰かけたので俺とリーエも座る。
「風呂に入るか?」
「うーん……夕食は食堂でしょ? また着替えるのもね……」
それもそうか。
寝巻きで下に降りるわけにはいかないし。
「じゃあ、少ししたら下で夕食を食べよう。その後に風呂だな」
「それでいきましょう」
「賛成です」
俺達は暖炉に火をつけると、温かさを感じながらゆっくりする。
「明日はギルドだな」
「ええ。登録をする。ついにイレーネさんの冒険者デビューよ」
俺が先輩だな。
「目標は80万だったが、ここではどの程度、稼ぐ?」
「どれくらい稼げるかにもよるわね。ただ、稼げるところは他にもあるし、いても5日程度じゃない? もうコスタリナだから追手は考えなくてもいいけど、それでもリーフェル王国に近いから長居することもないでしょ」
まあ、ブレイナでも稼げるだろうし、運賃を見てから頑張るでも良いか。
「そうするか」
俺達は少しすると、下に降り、食堂に向かう。
まだ他の客がいなかったので適当なテーブル席についた。
すると、恰幅の良いおばさんが奥から出てくる。
「いらっしゃい。お泊まりのお客さんかい?」
「ええ」
イレーネが頷く。
「じゃあ、定食ね。追加のメニューとかもあるし、お酒もあるよ」
「お酒って部屋で飲める?」
「もちろんだよ。受付にいる娘でもいいし、ここでもいいから言ってくれれば用意するよ」
やはりあの子は娘さんか。
家族経営なんだな。
「じゃあ、後でもらうわ」
「了解。ちょっと待ってね。すぐに定食を持ってくるから」
おばさんはそう言って奥に向かう。
すると5分足らずで料理を持って来てくれたので食べだす。
メニューはパンと鶏肉のソテー、さらにはスープとサラダだった。
「美味いな」
「ええ。ヴェルナーはやっぱりリーエがご飯を作ってたの?」
「ああ。上手なんだ」
そう言うと、リーエが嬉しそうな顔になった。
「私はヴェルナー様の補佐が仕事ですから家事全般は私の役目です。栄養バランスを考えた食事を提供し、清潔な部屋を維持するわけです」
「へー……万能なメイドさんね」
実際、すごく助かっていた。
「イレーネはどうなんだ? あの屋敷にいた時は使用人がやっていたんだろうが、冒険者時代は1人だろ?」
「王都を出る時に寄った家に住んでたからね。まあ、ずぼらだったけど」
1人だとどうしてもな。
ましてや、冒険者は身体を使う仕事だし、こればっかりは仕方がない。
「私に任せればいいんですよ。人の仕事を取るのはNGです」
「そうするわ」
断固として言ったリーエを見たイレーネが苦笑いを浮かべた。
その後も料理を堪能していき、食べ終わったあたりでぽつぽつと他のお客さんが来だした。
「上がるか」
「ええ」
「そうしましょう」
俺達はおばさんにワインを頼むと、2階に上がり、部屋に戻った。
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