第055話 ぬくぬくふかふかです
しばらく待っていると、馬車が動き出す。
「ようやくか」
「ええ。2つの意味でね」
1つは審査、もう1つは今まで色々あったこの国とおさらばすること。
『ここです。ここで肩を抱くんですよ』
なんか念話でアドバイスが……
『え? マジ?』
『とても大事なところです。はっきり言いますが、分岐点ですね。社交的なイレーネさんですが、そういうことに慣れた人ではありません。そんな人とヴェルナー様では微妙な距離感でぐだぐだするのが目に見えています。断言できますが、ここで何もしなければ、今後も何も起きません』
ソースは俺のこれまでの人生……
「イレーネ、もう大丈夫だ」
そう言って、肩を抱いた。
人生で一番緊張した瞬間である。
「うん……ありがとう」
イレーネは拒否することもないし、むしろ、少しだけ身を寄せてきた。
俺達がそのままの体勢で待っていると、馬車が門を抜けた。
どんどんと馬車が進み、リーフェル王国から離れていく。
「思い残すことはないよな?」
「実は一つある。オラースがどうなったのかなってこと」
執事のオラースか。
確かに俺もそこは気になる。
「ある程度、時間が経って、俺達も落ち着いてきたら手紙でも出そう」
時間をおいて、イレーネの名前で出せば大丈夫だろう。
「そうね。そうするわ」
イレーネが頷く。
「……トランプでもしませんか?」
リーエが提案してきた。
実にナイスな提案である。
何故ならいつまで肩を抱いていれば良いのかわからなかったから。
それに手汗も気になってきたところだった。
「よし。やりましょう」
「そうだな」
俺達はトランプをしながら到着を待つ。
昼になり、昼食を食べた後もトランプをしていくと、日が落ち始めた。
そして、辺りが茜色に染まると、馬車が止まる。
「お疲れ様でした。今日はここまでです」
ダリアが覗いてきて、そう言うので馬車から降りた。
「特に何もなかったな」
「国境近くは兵の巡回も多いですから魔物は出ませんね」
なるほどな。
「明日は何時に出発なんだ?」
「6時です。ちょっと早いですが、順調に進めていまして、このペースなら明日の夕方にはラティルナに着けそうなんです」
へー……
「わかった。明日も頼む」
「ええ。あ、そうだ。ちょっと待ってくださいね」
ダリアはそう言うと、荷台に上がり、ごそごそと木箱を探り出した。
すると、紙に包まれたものを持って下りてくる。
「それは?」
「魚の干したものです。良かったら食べてください」
「ありがたいが……商品じゃないのか?」
「一つくらいなら誤差ですよ」
優しい人だな……
「ありがとう」
「いえいえ。それでは私はもう休みます」
ダリアが再び、馬車に上がった。
「もう寝るの? 夕食とかは?」
イレーネが聞く。
「お腹が空いたのでもう食べました。ちょっと朝早かったので休みます」
商人は大変だな。
「ダリアは馬車で寝るの?」
「ええ。荷の近くで寝ないと落ち着かないんですよ」
大事な商品だしな。
「じゃあ、私達もこの辺でテントを張るわ。何かあったら言ってちょうだい」
「ありがとうございます。本当に助かります。それではおやすみなさい」
ダリアはそう言うと、馬車の幕を下ろした。
「俺達も準備をするか」
「そうね。せっかく干し魚をもらったし、買った網で焼きましょう」
それが良いな。
「ヴェルナー様、枝を拾ってきてください。私とイレーネさんでテントの設営と焚火の準備をします」
「わかった」
平野だが、近くに木々が生えているので枝を拾っていく。
他の冒険者や商人もチラホラと拾っているし、あちこちでテントや焚火の準備をしていた。
ある程度、枝を集めると、2人のもとに戻る。
すると、テントが立っており、イレーネとリーエが石を円状に置いていた。
「もうテントの用意ができたのか?」
「私は慣れているし、すぐよ」
そういえば、そうだな。
「今回は前よりも多いが、交流の場だったっけ?」
「ええ。ミスディレクションをかけた方が良いかもね。それでご飯を食べたらさっさとテントに引っ込みましょう」
「それが良さそうだな」
ミスディレクションをかけると、円状の石に囲まれた中央に枝を置き、火をつけた。
そして、火が落ち着くのを待つ。
「ベッキーさんと教授さんの姿も見えませんね」
確かにいない。
「危機管理能力が高い子だったからね。そうでなくてもこういう場面だと女性はさっさと引っ込む人が多いわ。ダリアもそうだったでしょ」
確かに日が落ちていないというのに早々に馬車に籠ったな。
「そういうもんか。まあ、教授も交流するような人間ではなかったしな」
「絶対にしないわね」
「賭けても良いです」
賭けにならないなと思っていると、火が落ち着き始めたので干し魚を焼く。
すると、香ばしい匂いが立ちのぼってきた。
「良い匂いね」
「ああ。美味そうだ」
「もう良さそうですね。分けましょう」
リーエが魚を皿に取り、3等分してくれる。
そして、食べだしたのだが、干したことで旨味が凝縮されたのか、非常に美味しかった。
「これは美味いわ」
「これ、安くないわよ……高級品だと思う」
「ありがたいですね」
これをくれたのか。
ダリアは本当にすごいな。
「明日、改めて、礼を言おう」
「そうね」
俺達は干し魚と共に宿屋の女将さんがくれたパンを食べる。
夕食を終えると、辺りがすっかり暗くなり、周りがわいわいと騒ぎだした。
「これだけの数だと賑やかだな」
「多分、飲んでいる人もいるわ。酔っ払いに絡まれると面倒よ」
確かにめんどくさそうだ。
「テントに入りますか」
「そうするか」
俺達は片付けをし、火を消すと、テントの中に入ったのだが、暗かったのでライトの魔法を使う。
「おー、マットレスがあるとまた違うな」
低反発のマットレスであり、かなり柔らかい。
「ゆっくり眠れそうです」
「お風呂がないけどね。あ、クリアダストをお願い」
「お任せを」
俺達がクリアダストを使い、すっきりする。
たいして動いていないが、やはり使うと使わないとでは大違いだ。
「さすがに寝るには早い時間だな」
「やっぱりトランプでしょ」
「お好きですねー」
俺達は3人でトランプをする。
「さすがにこの格好で寝るのか?」
「何かあった時のためにね。幸い、重装備じゃないから楽なものよ」
金属製の鎧を着ながら寝るのはな。
「見張りは?」
「キャラバンを管理している商業ギルドが護衛の冒険者を雇っているからそれね。まあ、この人数だし、大丈夫でしょ」
「念のため、テントにミスディレクションをかけておきましょう。それで安心して眠れます」
そうするか。
「ミスディレクションって人だけじゃなく、物にも使えるのね」
「一応な。ただ、これを家にあるものに使うと、びっくりする程にどこにあるのかわからなくなるぞ」
「でしょうね」
俺達はその後もトランプをしていき、いい時間になったのでライトを消し、横になる。
「良いな」
「これなら眠れます」
「買って良かったでしょ。買ってなかったら今頃、地面の上よ」
馬車はダリアが使ってるからな。
「星空を見ながら寝るのも一興ですけど、私は遠慮したいです」
「俺も」
インドアなんで。
「人は布団で寝るものなのよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
俺達は目を閉じ、就寝した。
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