第053話 逃がさない……
俺達は宿屋に戻ると、買ったものを整理し、収納していく。
とはいえ、本人の希望により、ほとんどの荷物はリーエが持つことになった。
整理が終わると、部屋でゆっくりする。
そして、日が落ちたタイミングで夕食を食べると、順番に風呂に入った。
「明日は早いから早めに寝ないとね」
イレーネはそう言いつつ、トランプを取り出したので付き合う。
まあ、俺も好きだし、まだ時刻は20時なので別に良いだろう。
「なあ、別大陸に着いた後はどうする?」
トランプをしながらイレーネに気になっていたことを聞く。
「冒険者をやるんじゃないの?」
「金を稼がないといけないからそれはやっていく。そうじゃなくて、旅の目的だ。ほら、イレーネも人生をやり直すわけだろ?」
セシリア・オクレールは海に沈んだのだ。
「んー……あんまり考えたことないわね。現役時代もあまり考えてなかった。冒険者なんてその日暮らしだしね」
「俺達は別大陸に行くのが目的だ。その後のことを考えておきたいと思ってな」
先のことは決めておきたい。
それにより、どう動くのかが変わるのだ。
「ヴェルナーは魔法の研究だっけ?」
「ああ。それが俺の人生の目的だからな」
神域に到達するのだ。
「じゃあ、それじゃない? 私の魔力障害のことがあるからついてきてくれるって言ってくれたけど、私、別にやりたいことなんてないし、ヴェルナーに任せるわ」
そうなのか……
「リーエ、どう思う?」
「ヴェルナー様はどこかに就職する気はおありですか?」
うーん……
「あまりないな。魔法がない世界だし、良い職につけるとは思わない」
「どこかの権力者に売り込む手もあります。魔法のない世界だからこそ、重宝し、厚遇されます」
それ、悪いことをやらされるのでは?
「うーむ……誰かに仕えた結果があれだからな……」
いわれのない罪で捕まりそうになり、誰も助けてくれなかった。
「では、冒険者ですね。それでお金を稼ぎましょう」
「そうなるな。ただ、いつまでもその日暮らしというわけにはいかないぞ」
「もちろんです。別大陸で良い場所があれば、新居を構えましょう。それで冒険者をしつつ、魔法の研究をされれば良いと思います」
あの屋敷ほどじゃなくても良いか。
「しかし、金がかかりそうだな」
当たり前だが、家は高い。
それはこの世界でもそうだろう。
「我らには魔法があります。イレーネさんにしても二つ名持ちのBランクにまでなった御方です。資金はランクが上がっていけばおのずと貯まると思われます」
「そうなのか?」
イレーネに確認する。
「高ランクになれば収入が高くなるのは事実よ。冒険者の憧れとして、Aランクになって稼ぎまくり、さっさと引退して悠々自適に暮らすっていうのがあるくらいだし」
危険な仕事とおさらばして、FIREか。
「なるほどな……」
「とりあえずの目標はそれにしませんか? 途中で考えや状況が変わることもあるでしょうが、指針としては十分かと」
それが良いか。
「イレーネ、それで良いか?」
「良いと思う。根無し草の人生も嫌だし、魔法も楽しそうじゃない?」
イレーネも魔法を学びたいって言ってたしな。
主にクリアダストだけど。
「じゃあ、そんな感じでいこう」
「ええ」
「了解です。以前より大きな屋敷に住まわせてくれるんですよね? お掃除頑張ります」
あー、そういえば、そういう話もしたわ。
「ああ。目標は大きい方が良い」
あくまでも目標ね。
俺達は今後の目的を決めると、トランプをし、就寝した。
翌日、リーエに起こしてもらい、朝食を食べると、準備をする。
先に着替えを終えた俺は窓を開け、南門の方を見る。
「おー、馬車がいっぱいだ」
「本当ですか?」
俺とイレーネが起きる前から準備を終えているリーエが俺の寝巻きを畳みながら聞いてくる。
「ああ。アルベンからマリティアに行った時のキャラバンよりも多い」
『寄合馬車はどーう?』
脱衣所で着替えているイレーネが扉越しに聞いてくる。
「多いな。色んな人がいる。やはり商人に頼むか?」
『それが良いかもー……うーん、髪が長いと大変ね。冒険者に戻るし、切ろうかな』
「……切らなくて良いぞ」
ボソッとつぶやいた。
『そうするー』
小声だったのに聞こえたらしい。
「例の2人は見えますか?」
もちろん、ベッキーと教授だろう。
「いや、この位置からは見えないな」
いるとは思う。
「ふぅ……お待たせ!」
冒険者服に着替え、綺麗なポニテにしたイレーネが出てきた。
「似合ってるぞ」
「今日もお美しいです」
「わかってしまうか……」
はいはい。
ドヤ顔は本当に可愛い。
「行くか」
「ええ」
「よし! さようなら、我が故郷。まったく名残惜しくないわ」
でしょうね。
俺達は部屋を出ると、1階に下りた。
「もう出るんですか?」
女将さんが声をかけてくる。
「ええ。コスタリナに行くの」
「じゃあ、これ、持っていってください」
女将さんがそう言って、袋を渡してくる。
中身を覗いてみると、パンだった。
「良いの?」
「ええ。あまりものですけど、サービスで渡しているんです」
良い店だな。
「ありがとう」
「助かる」
「ありがとうございます」
俺達も礼を言う。
「いえいえ。じゃあ、気を付けていってらしゃいませ」」
「ええ」
俺達は宿屋を出ると、南門に向かう。
「本当に多いですね」
「さすがは国境近くね。商人、冒険者が多いわ」
確かに8割9割がそのくらいだ。
「やはり商人か?」
「ええ。良い感じなのは……あ、ベッキーと教授よ」
イレーネの視線の先にはベッキーと教授がおり、商人の馬車の荷台の後ろの方で腰かけていた。
ベッキーが笑顔で手を振ってくれているが、教授はガン無視で本を読んでいる。
「あいつらも商人か」
「女性冒険者はああするからね。ましてや、危機管理の高そうな子だったし、そうするでしょ」
なるほどな。
「俺達も探すか」
「ええ。うーん……」
「若い男性の商人を避けた方が良いんですよね? 女性はどうですか? 若いですけど」
リーエが右の方を指差す。
そこには馬を撫でている黒髪の若い女性がいた。
「ちょっと聞いてみるわ」
イレーネが女性のもとに向かう。
「逆に向こうが若い男を避けないかね?」
「美人な奥さんと可愛い娘がいるなら大丈夫では?」
警戒は緩むとは思うが……
俺とリーエが眺めていると、イレーネと商人が話し始めた。
商人の方も笑顔だし、和気あいあいとしている感じだ。
すると、イレーネがこちらを指差し、商人がこっちを見てきたのでリーエと共に軽く頭を下げる。
向こうも笑顔で下げ返してくれ、頷くと、イレーネが手招きしてきた。
「上手くいったようだな」
「やはりイレーネさんがいると違いますね。逃がしたらダメですよ? 多分、ヴェルナー様の人生であれ以上は見つかりません」
「今までゼロだったんだからそうだろうよ」
ちょっと悲しいことを言いながらもリーエと共に商人とイレーネのもとに向かった。
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