第050話 あと少しです
その後も俺達がのんびり待っていると、門を抜け、町に到着した。
「やれやれ。やっと着いたか」
教授が本を閉じる。
「宿屋でゆっくりしましょうか。あ、ヴェルナーさん達も国境を越えるんですよね? 明日の朝に6時前に南門に行った方が良いですよ。キャラバンがいますし、それに乗ると、国境越えもスムーズです」
ベッキーが親切にも教えてくれる。
「6時か。あ、そうだ。おすすめの宿屋を知らないか?」
ついでだから聞こう。
「おすすめですか? うーん、私達が泊まるのはちょっと良いところなんですよね。教授が仕事をするもんで」
「高くなくていい。1万ソルくらいで良い感じなところだ」
「うーん、教授、知ってます?」
ベッキーが教授に振った。
「名前は忘れたが、南門近くにある赤い屋根の宿屋がそのくらいだったはずだ。以前、ギルドに紹介されたが、テーブルが狭くて失敗だった宿屋だな。その他は問題なかった」
赤い屋根ね。
「じゃあ、そこに行ってみる」
「ええ。では、また明日」
ベッキーと教授は先に馬車から降り、去っていった。
「個性的な2人でしたね」
「確かにな。なあ、俺とあの教授って似てたか?」
「似てませんよ」
「全然、違うわね」
なら良かった。
「いや、ちょっと共感できるところがあったからな」
「ありましたね。でも、ヴェルナー様は違います」
だよな?
「おーい、もう着いたぜ。話してないで降りてくれよ」
御者が覗き込んでくる。
「すまない。降りる」
俺達は慌てて馬車から降りた。
「すみません。ここって北門ですか?」
リーエが御者に聞く。
「ああ。そうだよ」
「ということは南門はあっち?」
リーエがそう聞きながら通りを指差した。
「そうだよ。この通りをまっすぐ行けば南門に着く」
「ありがとうございます」
リーエがお礼を言うと、御者が前の方に行ったので南門に向かって通りを歩いていく。
この町もやはり人が多く、賑わっていた。
所々に兵士の姿が見えるものの、前みたいに誰かを探している様子もなく、普通に巡回している。
「もう大丈夫そうだな」
念のため、まだミスディレクションはかけておくが、イレーネが捕まるということはなさそうだ。
「ええ。マリティアでどうなっているのかはわからないけど、私達が逃げているとは思ってなさそうね」
「ちょっと執念深そうなお父様のようでしたが、目的は殺すことだったようですし、海に落ちて死んだのなら良いって感じですかね」
さすがにあそこから落ちて生きているのは奇跡に近いからな。
もし、生きていたとしてもただじゃすまないし、すぐに見つかる。
だから海に消えたのだろう。
そう思ってくれると助かる。
俺達が通りをずっと歩いていくと、遠くに門が見えてきた。
「あれが南門だな。えーっと、赤い屋根は……」
「あそこにありますね」
リーエが指差した先には確かに2階建ての赤い屋根の建物があった。
「行ってみましょう」
さらに歩いていき、赤い屋根の建物の前に来る。
そこは確かに宿屋のようであり、値段表が貼られた看板が入口の前に立てかけられていた。
「個室が8000ソル、3人部屋が朝夕食付きで1万2000ソルですね」
ここっぽいな。
「おすすめだし、ここで良いか?」
「ええ。南門に近いのが良いわね。明日は早いし」
確かにそうだ。
俺達は宿屋に入り、受付に向かう。
受付にはおばさんがおり、こちらに背を向けて本棚の整理をしていた。
「こんにちは」
イレーネが声をかけると、おばさんが振り向く。
「ん? いらっしゃい。泊まりですか?」
「ええ。3人部屋で1泊ほど。空いてますか?」
「はい。空いていますよ。朝食と夕食はどうされますか?」
「お願いします」
外で異世界の料理を堪能したいと思うが、それはコスタリナに着いてからだな。
あと、お金に余裕ができたら。
「では、1万2000ソルです」
そう言われたので財布を取り出し、料金を支払う。
「ちょうどだ」
「じゃあ、これが鍵ですね。お部屋は2階の1号室です、ごゆっくり」
鍵を受け取ったので階段を上がり、一番手前の部屋に入る。
部屋はそこまで広くなかったが、かなり綺麗であり、風呂も確認したが、浴槽があり、ゆっくりできそうだった。
「ふう……ようやくここまで来られたわ。明日にはこの国ともおさらばね」
テーブルにつくと、イレーネが一息ついた。
「長かったですね」
「この世界に来てから色々あったもんな」
まだ1週間くらいしか経っていない。
「ごめんね。でも、助かったわ」
「気にするな」
「そうですよ。私はご主人様に良い人ができて、嬉しいです」
わざわざハンカチを取り出して、目元をぬぐうな。
「お母さんみたいなホムンクルスちゃんね」
「似たようなものです」
絶対に違う。
「そんなことより明日までどうする? トランプでもするか?」
まだ昼だ。
「昼だし、ご飯でも食べに行きましょうか。それとちょっと相談」
ん?
「何だ?」
「これからコスタリナに入り、ブレイナに向かう。まずは国境を越え、向こうの玄関の町になるラティルナに行くわ。そこまで1日か2日かかる。それ以降も旅になるわけだけど、野営道具を買わない?」
なるほど。
以前は馬車の中で寝たが、皆、ぐちぐち言ってたからな。
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