第147話 うっうっう、ご主人様が立派な大人になりました
テントを設営し、焚き火を起こしていると、ロズリーヌと共に鳥を持ったイレーネが戻ってくる。
「仕留められたのか?」
「もちろんよ」
さすがはイレーネ。
「イレーネちゃんはすごいですね。あれほどの弓の腕の持ち主がCランクとは思えません」
Bランクの白銀さんだからな。
「冒険者になるのが遅かっただけよ。あ、リーエ、捌いてみる?」
「お任せください」
イレーネがリーエに鳥を渡すと、ロズリーヌが見守りながら捌いていく。
「いけそうか?」
隣に腰かけてきたイレーネに確認する。
「本当にエサを枝に刺すだけね。あれなら楽だわ」
「じゃあ、やってみるか」
「ええ。あれだけのものが食べられるなら十分に価値はあるわ」
確かにな。
「ロズリーヌ、エサっていくらするんだ?」
「一団子300ソルですね。だいたい5セットで売ってます。1500ソルです。ただ、生ものなので気を付けてくださいね。10日くらいなら大丈夫ですが、それ以降は怪しいです」
魔法で冷凍して、空間魔法に入れておけばいいや。
「マルーン王国ならどこでも売ってるのか?」
「ええ。カリス、エオリアにも売ってますよ。北のノーズランも売ってると思います」
目的地のノーズランもか。
「これを使って、ヘブンバードとか獲れない?」
おっ、イレーネ、賢い。
「あ、もしかして、皆さんって、ヘブンバード狙いでノーズランに行きたいんですか?」
「まあ、それだけじゃないが、それも目的の一つだな」
ノーズランに行く理由は8割それだけど。
「いやー、大変失礼なことを人形遊びが似合いそうな私が言いますが、そういう素人さんはいっぱいいますね。儲かるって思って、行かれるんですけど、大抵は何の成果もあげられません。そもそもプロの猟師でも捕まえられないから高いわけですからね。そんな甘い話はありません。少なくとも、Cランクがやることじゃないですね。もっと良い仕事はいっぱいあります」
まあ、正論だな。
「試してみないとわからないだろ。この世に溢れる様々なものを作り、知識を残した偉大な先人達も、お前みたいな奴にバカにされていたが、それでも功績を残したんだ」
そう、最高の魔導士である叡智の魔勲章を持つ俺のようにな。
「おー、かっこいいです!」
ロズリーヌが拍手してきた。
イレーネはドヤ顔でうんうんと頷いている。
「……食べたいだけなんですけどね」
リーエのつぶやきにもイレーネがうんうんと頷いていた。
「しかし、ヘブンバードは本当に難しいですよ? 夏でも難しいのに美味しいと言われる冬は本当に難しいです。まず、森の奥まで雪の中を進まないといけませんし、そんな中から探すわけですからね。エサを使った誘い猟法もそもそもヘブンバードが巣の外に出てこないので無理です」
本当に厳しそうだな。
まあ、缶詰が5万ソルもするのでわかっていた。
「ロズリーヌはやったことがありそうね?」
イレーネが聞く。
「ありますよ。2ヶ月くらい粘りましたが、姿を見ることすらできませんでした。それで結局、預金が尽き、撤退です。2、3週間経った時に収支を考えたら撤退するべきとわかってはいたんですが、引き下がれず、最後の方は意地になってましたね」
意地もあるだろうが、ロズリーヌは楽しかったんだろうな。
まあ、俺達は目的があるのでさすがにそこまでは時間をかけるつもりはない。
「まあ、やってみるさ。俺達は旅をしているからその途中だ」
「そうですか。旅は良いですよ。今しかできないことです。多分、私もあと2、3年で冒険者を完全に引退します。今は勉強をしながら徐々に商人になっているところですね。寂しいと思いますが、後悔もないですし、楽しかったです。あなた方ももし、将来、夫婦喧嘩をしたらこの旅のことを思い出すと良いですよ」
年上だなー……
「こんな感じですかね?」
リーエが鳥を捌き終えたようだ。
「良いですね。お上手です。では、焼きましょう。夕食です」
俺達は昨日と同じように鳥肉を焼き、調味料と一緒にパンに挟んで食べた。
夕食を終えると、見張りをイレーネに任せ、リーエと共にテントに入る。
「俺達の旅もいつかは終わるんだよな?」
横になると、リーエに聞いてみる。
「もちろんです。終わりなき旅路はありません。何よりも私達の目標は旅が終わった後です。イレーネさんと共に魔法の先に行くんでしょ」
そうだな。
「いや、ちょっとな……」
「色んなところに行き、色んな人と出会い、色んな経験をするのは楽しいですからね。気持ちはわかります。ヴェルナー様が経験されてこなかったことです」
そうなんだよな。
軍人として、色んなところに行ったが、あれは楽しくなかった。
前世も冒険をする人間ではなかったし、妥協と諦め、一歩進むことをしない人間だった。
「いつかお前やイレーネと共にワインでも飲みながらあの時は楽しかったねって言い合えるような旅にしたいな」
「お子さんに『パパは昔、色んなところに行ったんだぞ』って言えるようになってください」
パパね。
「そうだな。そういう人生を送りたいな」
「ええ。そして何よりもその言葉を私ではなく、イレーネさんに伝えてください。あの人はそういう直接的な言葉やスキンシップを好まれる方なので」
っぽいな。
「わかった」
「では、寝ましょう」
「ああ」
俺達は目を閉じ、自分の見張りの番まで寝ることにした。
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