第145話 すごく良い人です
枝を拾うと、火魔法を使い、焚き火を起こした。
すると、テントの設営を終えたイレーネとリーエがこちらに来たので一緒に焚き火に当たる。
「日が落ちると少し冷えますね」
「そうだな。これで暖かい地域なんだろ?」
「ええ。ダニア大陸はもうすっかり冷えている頃ね」
これから北上していくし、もっと冷えるんだろうな。
「あ、良い火ができてますね」
ロズリーヌが森から出てきたが、その手には鳥が握られている。
「もう獲れたのか?」
「得意なんですよ」
ロズリーヌは焚き火の前に腰かけると、鳥を捌き始めた。
「弓?」
イレーネが聞く。
「はい。ずばっと仕留めました」
擬音はよくわからないが、すごいな。
「森の中で鳥を仕留めるのは難しくない?」
木が邪魔だからな。
「団子状にしたエサを適当な枝に刺すんです。あとは狙いながら待つだけですね」
釣りみたいだな。
「団子のエサ?」
「そういう狩りの方法がこの辺りの地域にはあるんです。マルーン王国でしたらどの町にも売ってますよ」
「へー……そういうのがあるのね」
弓の名手であるイレーネが知らないってことはダニア大陸にはない手法なのかもな。
「イレーネちゃん達はどこから来たんですか?」
「ダニア大陸のリーフェル王国ね」
「おー、知ってます。コスタリナ王国には行ったことがあるんですよ」
そうなんだ。
「遠征?」
「ええ。私も長いことやってますからね。色んな国に行きましたし、たくさんの仕事をしてきました」
「29歳っていったらもうベテランだものね。いつからやってるの?」
「15歳からですね。店を継いでほしい両親から反対されましたが、家を飛び出しました。どうしても子供の頃に読んだ冒険記に憧れていましたから」
14年もやってるのか。
「悪いけど、親は反対するでしょうね」
当然、14歳の時もこんな見た目だろうしな。
下手をすると、もっと小さかったのかもしれない。
「だと思います。でも、才能はあったんですよ。冒険者になる前から魔物は倒してましたし、オークも一撃で粉砕できました」
粉砕って言葉が物騒だが、オークをやれるのはすごいな。
「それはすごいわね。ソロ?」
「パーティーを組んだこともありますよ。ただ、どうしても旅をしたりしますので固定は難しいところですね」
旅か。
「どこかの町を拠点にするとかじゃないの?」
「憧れた冒険記を書いた人が旅をする方だったんですよ。色んな国に行き、多くの出会いや冒険が書かれていました。私もそうなりたいと思ったからですね。大陸を渡ったのもそれです」
感化されたんだな。
それでBランクまで行ったってことは成功したわけだし、良い人生だろう。
「楽しかった?」
「ええ、それはもう。大変だったこともありますけど、楽しかったですし、良い出会いもありました。それに昨年までは2、3年ほど組んだ気の合う相方がいました。まあ、私の冒険者としてのスタンスが変わっちゃったので解散しましたけど」
家の手伝いか。
「商人と兼業だったわね」
「昔は嫌でしたが、時間が経てばそうでもなくなりました。25歳を超えた辺りで引退の文字が脳裏をよぎり出しますし、どうしても両親や自分の将来のことを考えてしまいます。私は幸い、家業がありましたが、御二人も考えておいた方が良いですよ。楽しい時は本当にあっという間ですから」
確かにそうだな。
魔法の研究をし続けていたらあっという間にこの歳になったし、この世界に来て、イレーネと会ってからはさらに早くなった。
「私達は目標があって冒険者をしているのよ」
「なるほど。夫婦で目標に向かって進むのは良いことです。羨ましい限りですね」
「ロズリーヌは? 良い出会いもあったし、相方さんがいたのよね?」
「いえ、そういう意味での良い出会いではないですよ」
ロズリーヌはちょっと頬が赤い。
「ほんとにぃ?」
「本当です。はい、この話は終わり。肉を焼きます」
ロズリーヌが焚火に網を置き、捌いた肉を乗せていく。
すると、すぐに良い匂いがしだした。
「そういや俺達も網を買ったけど、ほぼ使ってないな」
最初にちょこっと使っただけだ。
「そうね。いつも焚き火すら起こさずにテントに引っ込むもの」
「もったいなかったですね」
まあ、たいした値段じゃなかったし、空間魔法があるから嵩張りもしないんだが。
「そうなんですか? 食事は?」
「パンと缶詰だな」
「缶詰ですか……重いですし、高いじゃないですか」
重さはどうでもいいが、高いは高いな。
缶詰って安いのでも1000ソルを超えるし、それが3人分だからそこそこの出費だ。
「やはり狩りが良いか?」
「それが良いですよ。森を通るなら鳥が獲れますし、平地でもウサギを捕まえる罠とかあります。獲れなかった時に食べるのが携帯食料や缶詰ですね」
携帯食料は不味そうだから嫌。
「さっき言っていた団子のエサで釣るか、罠か」
「マルーン王国ではそういうのが多く売っていますよ。フォルバードの町でも王都でも売っています。案内しましょうか?」
買うか……
「ちょっと考えてみる」
缶詰は美味いものの、節約できるならした方が良いが、俺達に罠を扱えるかという問題もある。
「いつでも言ってくださいね。じゃあ、そろそろ焼けたので食べましょう」
「私達も良いんですか?」
リーエがロズリーヌに聞く。
「もちろんですよ。というか、私1人では食べきれません」
大きめの鳥だしな。
「ありがとうございます」
「悪いな」
「助かるわ」
「いえいえ、こちらのこってり調味料とピリ辛調味料をつけて、パンに挟むと美味しいんですよ」
ロズリーヌはパンと共に白と赤の瓶を取り出した。
そして、鶏肉を取り、調味料をつけると、パンに挟み、美味しそうに食べる。
「ほう?」
「見たことないわね。この辺のやつ?」
「へへ、ほほひほふっへはふ」
食ってからしゃべれ。
「ええ、どこにも売ってますって言ってますね」
リーエ、すごいな。
さすがは万能お手伝いさんホムンクルス。
「へー……ちょっともらうわね」
「ほうほー」
「どうぞーって言ってます」
それは俺もわかった。
イレーネはパンに鶏肉を置くと、2つの調味料をつける。
それを俺とリーエに渡してきた。
「ふーむ……赤いのは想像がつきますが、白いのは見たことないですね。クリーム?」
リーエが鶏肉サンドを見ながら首を傾げる。
でも、俺にはどこかで見覚えがあったので白いホイップ状の調味料を指で掬って舐めてみる。
「うん……うん……」
ちょっと濃いが、マヨネーズだな、これ……
「どう?」
自分の分を作ったイレーネが聞いてくる。
「絶対に美味いと思う」
パンに焼いた鶏肉とピリ辛ソース、それにマヨネーズを挟む。
約束された味だと思う。
「食べてみよ」
「いただきます」
俺達は鶏肉サンドを食べてみる。
獲れたてのジューシーな鶏肉と濃厚なマヨネーズがよく合い、非常に美味しい。
ピリ辛ソースも良いアクセントになっている。
「美味しいわね」
「ソースもですけど、鶏肉がすごいです」
「新鮮さだろうな」
うん、美味いわ。
あっという間に食べてしまいそう。
「ね? 獲った方が良いでしょ? こうやって色んな調味料を集めればたくさんの味を楽しめます。ウチの店は香辛料を始めとするこういうものを売っているんですよ」
へー……珍しい店だな。
これまで見たことがない。
「ヴェルナー、ちょっと本格的に狩りに挑戦してみない?」
うーん……
「鳥はイレーネができると思うな。エサを買えばいいし」
「捌くのは私にお任せください。ロズリーヌさんがやっていたのを見ていたのでもうできます」
リーエはすごいな。
「罠はどうする?」
「そっちもやってみましょうよ」
まあ、何をやらせても一級品と評判のイレーネがいればできるか。
「そうだな」
「罠もあとで教えますよ。森を抜けたらあとは平野ですからね。ただ、かかる確率はそんなに高くないのであまり期待はしないでください」
「助かる」
俺達はその後も美味い夕食を堪能していった。
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