第144話 可愛い嫉妬ですね
受付に戻ると、ロズリーヌが振り向いて、見上げてくる。
「嘘ばっかりですからね」
「まあ、有名になると、あることないこと言われるからね」
イレーネも経験があるようだ。
「そうです。あ、ヴェルナー君とイレーネちゃんの名字は?」
君付け、ちゃん付け……いや、年上だから良いんだけどな。
「ランゲンバッハだ」
「なるほど。あ、私はマスカールです」
ロズリーヌ・マスカールか。
ロズリーヌはその後も書き続けていたが、書き終わったので提出する。
「確かに。それでは受理致しましたのでマルーン王国の王都まで向かってください」
「ああ。ロズリーヌ、行こうか」
「はい」
俺達はあまり注目を集めるのも嫌なのでさっさとギルドを出た。
「これから王都に向かうわけだけど、私達は荷台にいればいい?」
イレーネがロズリーヌに聞く。
「はい。特に問題ありませんので後ろで良いです。では、乗ってください。1、2時間くらい進んだら休憩にしますのでそこで道筋なんかを説明します。時間は節約です」
説明は馬の休憩の時か。
確かに効率的だな。
こういうところにベテランらしさを感じる。
「わかったわ」
俺達が荷台に乗り込むと、すぐに馬車が動き出す。
そして、町中を進むと、西門まで戻り、そのまま町を出た。
「もうキャラバンはいなかったわね」
「出発したんだろうな」
かち合わなくて良かったわ。
「ねえ、ロズリーヌの魔力は?」
「かなり高い。レナート並みだ」
「イレーネさんほどじゃないですよ」
それはそう。
「ふーん……可愛いらしい人ね」
「そうだな」
イレーネが指をとんとんとしてきたのでその手を握る。
「こうやって馬車の荷台でゆっくり進むのも久しぶりね」
この国に来てからは御者台だったし、馬に乗っていた。
「のどかで良いな」
「ええ」
イレーネが少しだけ身を寄せてきた。
俺達はそのままぼーっと遠くなっていくルミフィアの町を眺めていく。
町が見えなくなった後も特に魔物が出ることもなく、ゆっくりと進んでいったのでひたすら風景を楽しんでいった。
しばらく経ち、そろそろトランプでもしようかなと思っていると、馬車が止まる。
「休憩でーす」
前方からロズリーヌの声が聞こえてきたので馬車から降りた。
すると、ロズリーヌがこちらにやってきて、荷台に地図を広げる。
「ルートの確認?」
「はい。ご覧のようにマルーン王国に行くにはこの街道を進むのが一般的です」
ロズリーヌが俺達の地図にも描かれている街道を指差した。
俺達もこのルートで行く予定だった。
「この道が安全ってことね」
「そうなります。しかし、キャラバンでもないので別に安全な道を行く必要もありません。前を見てください」
ロズリーヌにそう言われたので馬車の前方を見る。
すると、10メートルくらい先はまっすぐ行く道と右に曲がる道がある分岐点だった。
「曲がるわけ?」
「ええ。曲がって、森を突っ切った方が早いんです」
確かに西に行ってから北上するより、北西にまっすぐ進んだ方が距離は短い。
ただ、森がある。
「森の道は?」
「整備はされています。冒険者はこちらを通りますね。近いし、儲かるので」
魔物が出るからか。
「ロズリーヌはそれでいいわけ?」
「何も問題ありませんよ。魔物なんか相手になりません」
Bランクだもんな。
「じゃあ、それで行きましょう。夜の見張りは私達がやるわ」
「お願いします。昼間は寝てていいんで」
「わかったわ」
まあ、仕事だし、見張りくらいはするか。
「ロズリーヌ、国境を越えることになるが、検問とかはないのか?」
「ないです。普通に通れますよ」
そうなのか。
「まあ、楽で良いか」
「ですね。ここから夕方までには森に着きます。森の手前で1泊し、翌日に森に入ります。1日では森を抜けられないので森の中で1泊です。翌日には森を抜け、アリリアの町に着きますのでそこで1泊します。さらに2日ほど進めばフォルバードです」
野営が多くなるが、まあ、仕方がないか。
それに想定よりかなり早く着く。
「わかった」
「では、参りましょうか。適度に休憩は取りますが、昼食等はご自由にしてください」
ロズリーヌはそう言って、地図をしまうと、御者台に向かったので荷台に乗り込む。
すると、すぐに馬車が動き出した。
「トランプでもしましょうか」
「そうだな」
「私はずっとその言葉を待ってましたよ」
悪いな、リーエ。
俺達はトランプを始め、時間を潰していく。
昼になると、昼食のパンと缶詰を食べ、午後からもトランプをした。
そして、日が落ち始めると、馬車が止まったので降り、前方を見る。
すると、うっそうとした森があった。
「到着しました。今日はここで野営ですね」
ロズリーヌがやってくる。
「ロズリーヌはどこで寝るの?」
「テントです。すみませんが、設営してくれませんかね? それと焚き火の準備もお願いします」
ロズリーヌはそう言って、折りたたまれたテントなどの野営グッズを地面に置いた。
「良いけど、ロズリーヌは?」
「夕食を獲ってきます。狩りは得意なんですよ。それでは」
ロズリーヌは走って森の中に入っていった。
「護衛はいらないのかね?」
「いらないんでしょ。ランクだけで言えば私達より格上だもの」
まあな。
冒険者の反応を見る限り、かなり強い。
「じゃあ、準備をするか。イレーネは俺達のテント、リーエはロズリーヌのテントを設営してくれ。俺は枝を拾ってくる」
「ええ」
「お任せください」
俺達はそれぞれ動き出し、野営の準備を始めた。
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