第136話 すやすや
ヴィヴィアンから内緒で見せてもらった本は魔法の歴史が書かれた本だったが、そこには俺とリーエの祖国であるネブラ・マギカ魔導帝国の名前があった。
「えっと……あなた達って別世界から来たんじゃないの?」
イレーネが確認してくる。
「そう思っていたが、違うようだな」
偶然とは思えないし。
最初に脳裏にちらっと浮かんだことだが、こんなに都合良く同じような環境の世界に飛べたのもすごいし、何よりも言語が……
「え? じゃあ、ヴェルナーってめちゃくちゃお爺ちゃん?」
それはどうだろう?
「わからん。まだ情報が少ない」
「しかし、この本もあまり帝国の詳細については書かれていないようですね。そもそも何度か地図を見させてもらいましたが、帝国で見たことがない地形でした」
そうなんだよな……
ダニア大陸もリーンド大陸も知らない。
「ヴェルナー、とりあえず、今回の調べものはこの辺にしない? これ以上はヴィヴィアンに迷惑がかかるわ」
「その通りだな」
下手をすると、国家機密を漏らしたことになる。
クビどころか投獄だろう。
俺達は本を閉じると、扉の方に行き、ノックをする。
すると、すぐにヴィヴィアンが部屋に入ってきた。
「どうでした?」
「とてもタメになる本だった。感謝する」
「それは良かったです。でも、このことは内密でお願いしますよ」
「わかってる。俺達もスパイ容疑で捕まってしまう」
俺達、どう考えても怪しいし。
まあ、明日には出るからいいけど。
「では、本を戻してきます。皆さんはこのままお帰りください」
「ああ。なあ、ネブラ・マギカ魔導帝国って知っているか?」
「ネブラ……すみません。聞いたことがないです」
司書のヴィヴィアンですら知らないか。
「わかった。じゃあ、ここでお別れだ。世話になったな。ライオネル様にもよろしく言っておいてくれ」
「ありがとうございました」
「助かったわ」
俺達はヴィヴィアンに礼を言う。
「いえ、こちらこそお世話になりました。またいつか」
「ああ。またいつかな」
俺達はヴィヴィアンに別れを告げると、図書館から出る。
すると、辺りは日が落ち、暗くなり始めていた。
「帰ろう」
「ええ」
俺達は図書館をあとにすると、宿屋に戻った。
そして、夕食を食べ、風呂に入ると、ソファーでこの宿最後の夜を過ごす。
「うーむ……」
「帝国の件?」
イレーネが手を繋ぎながら聞いてくる。
「ああ。どうしても気になる」
「同じ世界だったというのがちょっとびっくりです」
まったくだ。
「なあ、帝国ってまだあると思うか?」
「それは……」
ヴィヴィアンが知らない時点でな……
「滅んだか……」
「まだわからないじゃないの。魔法がなくなってる時点で魔導帝国って名前がマズいし、名前を変えているだけじゃない?」
その可能性も十分にあるな。
「少なくとも、この大陸じゃないことだけは確かだ」
「違う大陸? うーん……北とさらに東にも大陸があることは知っているけど、詳しくは知らない」
どこかに俺とリーエが知っている大陸があるのかもな。
帝国は寒く、冬は雪が降っていたし、北の方か?
「ヴェルナー様、この調査は慎重になった方が良いですよ。ヴィヴィアンさんですら知らないことです」
魔導帝国を知っているのは一部の人間だけの可能性がある。
それを聞き回ったら怪しすぎるか。
「わかった。とりあえずは次の国の図書館で調べよう」
「そうしましょう、まずはルミフィアです」
明日、6時に北門だったな……
「4時半起きか?」
「そうなりますね」
早いねー。
「もうちょっとゆっくりしたかったけど、こればっかりは仕方がないわね。別に悪いことをしたわけじゃないけど、私も貴族に仕えるのはちょっと嫌だし」
イレーネはそうだろうな。
「では、今日こそは早めに寝てくださいね」
「わかってるわよ。ヴェルナー、わかった?」
「わかった」
「じゃあ、トランプをしましょう」
さすがに寝る時間には早すぎるのでトランプをしながら過ごしていった。
そして、21時を過ぎた辺りで良い子のホムンクルスが寝室に向かったので俺とイレーネは寝る前に魔法の練習をする。
「上手くなったな」
イレーネはまだ2色だが、綺麗な赤と青のホタルのような光を飛ばしていた。
「まあねー……ねえ、もし、帝国がこの世界にもあったらどうするの? 戻りたいって思う?」
戻る……
「いや、別にそうは思わない。俺がいた時代じゃないしな。まあ、見てみたいっていうのはあるかもしれない」
そもそも本当にあの時代に戻れるとしても戻らない。
そこまで執着があったわけでもないし、戻っても捕まるだけだ。
「まあ、そんなものかもね。私ももう帰る気ないし」
イレーネは絶対に帰れないからな。
「俺は今の生活が楽しいな。リーエがいるのは変わらないけど、今はイレーネがいてくれるし、以前の生活だったらこういう旅はしてない。ロビン達とのような出会いもなかった。ヘブンバードの缶詰もだな」
以前はほぼ引きこもりだったし。
「私もね。貴族時代はもちろんだけど、それ以前の白銀時代よりも今の方が楽しい」
イレーネの時代の名前ってかっこいいな。
「どこに行くかは決めてないが、次の国でも楽しいと良いな」
「楽しいわよ。私がいるのよ?」
そうだな。
イレーネがいてくれたらどこでも楽しい。
「寝るか」
「そうね。明日は早いから早く寝ないと」
俺達は魔法の練習を終えると、寝室に向かった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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