第132話 いっくらになるかなー?
「まあいい……そんなことよりもこれのどこがでっかいトカゲだ?」
足がないぞ。
「私には蛇にしか見えないわね」
「でっかいの部分は合ってますね」
あと爬虫類な。
「見間違えたか、それとも別にいるか……」
まだいるのかね?
「その辺はライオネル様に報告してからでしょう。向こうの判断です」
それもそうか。
「そっちの治療は?」
「終えました。そういうわけで私は魔石の採取に行きます。50万ソルです。3倍で150万ソルです」
リーエが魔石の採取に向かったので代わるようにイレーネと寝ている3人のもとに向かう。
「呼吸に乱れは?」
「ないわ。寝ているだけ。まあ、オネストとヴァンナは気絶っぽいけど」
「どういう状況だったんだろう?」
「奇襲でしょうね。まともにやればこの3人なら勝てない相手ではないわ」
奇襲で毒をもらったってところか。
外傷も特になかったし、レナートだけは巨大な魔力で毒に耐えたっていうところだろう。
「これからどうする?」
「私達で3人を運ぶのは難しいわね。私が援軍を呼びに行っても良いけど、ヴェルナーがそれを嫌がるだろうから3人が起きるのを待ちましょう」
運ぶのは面倒だし、寝ているだけだからそのうち起きるか。
「魔石を採取しましたよー」
リーエが戻ってくる。
その手には赤く輝く拳大の魔石があった。
「ぱっと見ただけで高いな」
良い質だし、サイズも悪くない。
「50万よ、50万」
「3倍ですよ」
「そうだったわね。これは第一功ももらいね」
合計でいくらになるんだろうか?
魔石をしまうと、3人が起きるのを待つ。
すると、レナートが身体を起こし、首のないキングバイパーを見た。
そして、ゆっくりとこちらを振り向く。
「キングバイパーにやられかけたところまでは覚えているんだが、あれは俺が無意識のうちに倒したやつか?」
何言ってんだ?
「そう思うか?」
「冗談だよ。身体は……動くか」
レナートが立ち上がった。
「毒消しのポーションを使った。念のために持っていたんだ」
「そうか……ありがとう。あとで返すよ。それにしても一撃か……」
レナートがもう一度、キングバイパーを見る。
まあ、他に傷がないし、争った形跡もないんだからわかるだろう。
「ただのDランクじゃないんだぞ」
「だろうな……まあ、そんなのは皆、知ってることさ」
全員、二重登録って思ってそう。
「そんなことよりも何があったんだ?」
「ここで昼食を食べていたんだ。そしたらあの滝つぼの中から急にこいつが現れて、毒霧をもらった。森の方を警戒していたからまったく対処ができなかったんだ」
まあ、そっち方向から襲われるとは思わないだろうからな。
魔力感知ができるベッキーがいれば別だったんだろうが。
「災難だな」
「君達がいたから幸運さ。どんな目に遭っても生きてさえすればいい。生きて冒険者を完走する。それが冒険者の何よりの幸運だよ。オネスト、ヴァンナ、起きろ」
なんかかっこいいことを言ったレナートが2人を揺する。
すると、2人が起きて、ゆっくりと身体を起こした。
「な、何があったんだ……ハッ! 蛇は!?」
「……あれ?」
2人は首なし蛇を見て、固まった。
「幸運だったな。ヴェルナー達が来てくれた」
「そ、そうか……」
「本当にあんたらがやったの?」
ヴァンナが身を起こして、聞いてくる。
「他に誰がいるのよ」
イレーネさん、かっこいい。
「あんた、絶対にDランクじゃないでしょ」
「帰ったらCランクよ」
「ギルドがそれを漏らすのは二重登録者相手よ」
ギルドもさっさとランクを元に戻せって思ってるからな。
「まあ、そこは良いだろ。それにその前に言うことがある」
レナートがリーダーらしく、窘める。
「わかってる、ありがとうね。助かったよ。蛇に丸呑みは嫌」
「助かった。この礼は必ず」
ヴァンナとオネストが礼を言ってくる。
「礼なんかいらない。目の前に敵がいたから斬っただけだ」
かっこいいだろ?
「こいつはこいつで高ランク?」
「いや、冒険者のそれじゃない。どこぞの暗殺者か何かだろ」
違うわ。
「詮索もなし。いいから帰ろう。これが例のトカゲかはわからないが、依頼主に報告だ」
「それもそうだね」
「まあ、俺も誇れる育ちじゃないしな」
2人が納得したところでこの場をあとにし、引き返していく。
そして、なるべく魔物に遭遇しないように森を抜けると、陣に戻った。
「ん? 今日は一緒だったのか?」
門を守る兵士が聞いてくる。
「ああ。ライオネル様はおられるか? 報告がある」
「会議をするテーブルにおられる」
「わかった」
俺達は中に入ると、ライオネルのもとに向かう。
すると、テーブルにつき、地図を見ながら考え事をしているライオネルの姿があった。
「ん? おー、帰ったか。今日は早いな」
時刻はまだ15時半だ。
「ライオネル様、奥でキングバイパーを発見し、ヴェルナーが討ちました」
レナートが報告する。
「何? まことか?」
「ええ。滝があるとこです。私達がそこで休んでいるところを滝つぼから現れたキングバイパーに強襲されたのですが、そこをヴェルナーに救ってもらいました」
「ほう! さすがはヴェルナーだな。私が見込んだだけはある。魔石は?」
ライオネルが聞いてくると、リーエが魔石を見せる。
「うーむ……キングバイパーかはわからんが、これだけの魔石を持つ魔物なら十分にありえる」
「ライオネル様、キングバイパーは蛇です」
「そうだな……少し、村人に確認を取らんといかんな。よし。お前達は休め。ただ、明日からも討伐の方は継続してくれ。キングバイパーの方はこちらで確認する」
「わかりました」
レナートが頷くと、俺達は一礼をし、討伐の報告所に向かう。
「あ、ヴェルナー、少し待て。話がある」
話ね。
「イレーネ、リーエ、報告の方を頼む」
「ええ」
「了解です」
報告を2人に任せ、ライオネルのところに戻る。
「いかがしました?」
「キングバイパーを倒したのはまことか?」
「ええ。間違いなく、キングバイパーです。イレーネは見たことがありますので」
「そうか……」
ライオネルが腕を組み、悩みだす。
「どうしました?」
「ヴェルナー、私に仕えんか?」
またか……
「すみません。私はちょっと……」
「わかった」
あれ?
「早くないですか?」
「確認だ。ヴェルナー、お前はこの依頼が終わったら王都を出るつもりだな?」
えーっと……
「図書館で調べものをするつもりではあります。以降のことは未定です」
「隠すな。出るのはわかっている。ヴェルナー、なるべく早く出ろ」
ん?
「どういうことでしょう?」
「私は帰ったら立場上、今回のことを国王陛下に報告せねばならん。今回の依頼はエリーフ村からの陳情を国が応えた形だ。つまり本当の依頼主は国王陛下だ」
「それはわかります」
国王陛下がギルマーティン伯爵に命じ、ギルマーティン伯爵が嫡男のライオネルに命じている。
こう言ったらなんだが、下請けの下請け。
「つまりな、国王陛下を始め、多くの者がキングバイパーを倒すほどの冒険者がいることを知ってしまうのだ」
「それはそうでしょうが、キングバイパーくらいならBランクでも倒せます」
「Bランクを“でも”の一言で片付けるのも気を付けろ。それはAランクもしくは、それに準ずる力を持っている者の言葉だ」
あ、ホントだ。
「肝に銘じておきます」
「うむ。そして、問題なのはお前だけじゃなく、お前の妻にもある」
イレーネか。
「美人だから?」
「……嫁の自慢は誰も聞かんぞ。まあいい。強い女性冒険者というのはものすごく需要があるのだ。金持ちや貴族の夫人、令嬢なんかの護衛だな」
女性の護衛は同性が望ましいというか、必須だからな。
特に貴族は……
「イレーネが勧誘を受けますか?」
「お前達が実力のある夫婦というのが抱き合わせで雇うにはちょうど良いのだ。ヴェルナー、この国の貴族も色んな者がいる。中には強引な者もな。駆け落ちしてきたお前達なら私の言っている意味がわかるだろ」
十分にわかる。
「確かに離れた方が良さそうです」
「そういうことだ。お前が私に仕えるなら私が守るが、そうでないなら知らん。いや、先に目を付けたのは私なのに他所に取られたら腹が立つ。私がお前にこのことを伝える真意がわかるな?」
十分にわかる。
俺もムカつくって思う。
「お仕えできずに申し訳ございません」
「よい。お前にはお前の人生がある。ヴェルナー、今回の騒動の原因がキングバイパーと判明すれば明後日には帰還する。その後、私が父に報告し、父が陛下に報告する。そこからお前達の噂が貴族の中で広がるまでの時間は最短で3日だ。早い者は早々に動くぞ。私は早急に今回の依頼の報酬を算出し、ギルドに送るが、それでも翌日だ。帰って、その日は休み、翌日に報酬を受け取れ。そして、そこからの時間はその日だけだ。その翌日には話を聞きたいという使者が来るから早朝には出ろ」
細かい……本当に細かい計算をする男だ。
しかし、俺達には大変ありがたい忠告だ。
ライオネルは俺達がCランクに昇格し、図書館を利用できるのはその日しかないと教えてくれているのだ。
「ライオネル様、忠告に感謝致します」
「お前達はよく働いてくれた。お前を部下にできないのは残念だが、私の見る目は間違っていなかった。そういうわけだからとりあえず、明日も頼むぞ」
「わかりました」
ライオネルに深々と一礼すると、野営地に向かった。
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