第120話 俺はイレーネが大事なんだ(裏声)
翌日からは森で狩りをする生活に戻った。
朝早くに出て、夕方前に帰り、宿屋でゆっくりする。
そんな生活を3日続け、1日休むと、さらに2日連続で狩りをした。
ライオネルの指名依頼から6日が経ち、この日も狩りをしようと早起きしたのだが、あいにくと、この日は天気が崩れたので休みにした。
水嫌いのリーエがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしたのだ。
なので、今日は部屋でゆっくりすることにした。
「ヴェルナー様、何をしておられるのですか? ずっと部屋の中を歩いておられますけど……」
「なんか落ち着かないわね。そんなに森に行きたかったの?」
部屋をぐるぐる歩いていると、2人が聞いてくる。
「歩きの練習だ。ライオネルに歩き方が軍人と言われただろ」
実はあれから毎日、やっている。
そろそろ普通の歩き方に直せそうだったので今日もやっているのだ。
「あー、言ってたわね。あれのせいで兵士達に緊張が走ってたわ」
イレーネもわかったらしい。
「ヴェルナー様は実際、帝国軍人でしたものね……」
若い頃、散々、鍛えられたから染みついていたらしい。
正直、まったく意識していなかったし、気付かなかった。
「俺達は正直、怪しい人間だ。変に疑われると、スパイ容疑がかかる」
スパイじゃないが、そう疑われると面倒だ。
どこの国もスパイには容赦しないし。
「それで直しておられるんですね」
「私も貴族令嬢の癖とかないかしら?」
ない。
「ふっ、ご安心ください」
「その鼻で笑ったのはどういう意味?」
「ささ、イレーネさん、念話の練習の再開です」
「まったく……素直になれないホムンクルスちゃんね」
いや、そいつはものすごく素直だぞ。
2人が念話の練習を再開したので俺も歩き方を直していった。
そして、昼には普通の歩きになったので昼食後は3人でトランプをする。
『ヴェルナー、おっぱい触っていいからハートの6出して』
イレーネも触れ合っていなくても念話ができるようになったようだ。
『ドスケベ令嬢さん、教えておきますが、私くらいの上級魔法使いになると、そちらの念話を傍受することも可能なんですよ』
俺もできるな……
「いやらしい子」
「いえいえ、何をやらせても一級品の美人なイレーネさんには負けますよ。あと残念ながらヴェルナー様はハートの6を持っていません」
持ってないな。
リーエが持っているのだろう。
「触る?」
「ムカつくので結構です。ヴェルナー様にどうぞ」
「いいからハートの6を出せよ」
俺も出してほしいんだよ。
「私はまだ余裕があるんです……ん?」
リーエが扉の方を見る。
ノックの音が聞こえたのだ。
「なーにー?」
イレーネが声をかける。
『お休みのところを申し訳ございません。冒険者ギルドのブリジットさんがいらしてますけど、どうしますか?』
ブリジット?
「通しても良い?」
イレーネが確認してきた。
「別にいいぞ」
「通してちょうだーい」
『かしこまりました。少々、お待ちください』
受付嬢が部屋から離れていったのでトランプを片付ける。
「良いところに来たわね」
「まったくだ」
「絶対に勝てたのに……」
トランプを片付けると、再び、ノックの音が聞こえてきた。
「はーい?」
『すみません。ブリジットです』
確かにブリジットの声だ。
「どうぞー」
イレーネが答えると、扉が開き、ブリジットが部屋に入ってきた。
「お休みなのにすみません」
「暇だったし、ちょうど良かったわよ」
負けそうだったしな。
実は俺、出せるものがなかったし、パスも使い切っていたから負けがほぼ確定していた。
「何か用か? あ、座れよ」
「失礼します」
ブリジットがこちらに来ると、リーエがブリジットの分のお茶も用意する。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
席についたブリジットがお茶を飲む。
「雨の中、わざわざ来たの?」
「ええ。ちょっとお話がありましてね」
それはそうだろうな。
遊びには来ないだろう。
「何? 悪いことなんてしてないし、真面目にやってるわよ」
「それはもちろんです。ここだけの話ですよ……次で昇格します」
おー! ついにCランク!
「想定より早いわね」
「それはもう指名依頼が……貴族案件はポイントが高いんですよ」
そうだったな。
「それは良いことを聞けたな。でも、次も貴族案件だろ」
「わかります?」
「そりゃこのタイミングだからな……」
あれから6日経っている。
つまり明後日にはライオネルが遠征に行く。
「実はライオネル様があなた方を高く評価しているんです」
「だろうな。部下に欲しいって言ってたし、実際、誘われた」
ことあるごとにアドバイスを求めてたし。
「……え? それは?」
「断った」
「断っちゃったんですか? 大貴族の嫡子ですよ? つまり将来は伯爵です。それのお付きの冒険者なんて大出世ですし、皆が羨む転職先です。ましてやライオネル様は金払いも良く、評判の良い方です」
知らん。
俺は皇帝陛下に仕えていた大魔導士だぞ。
格が落ちてるわ。
「俺達には俺達の人生プランっていうのがあるんだよ」
「そうよ。安定はあるかもしれないけど、私達はそれ以上に稼げるわ」
稼げるな。
それにライオネルに仕えたら魔法の研究はできない。
「そうですか……もったいないような気がしますが、あなた方にはあなた方の人生がありますしね」
それはそう。
何が大事で何が大事じゃないかは人それぞれ違うのだ。
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