第116話 秒でいけます
翌日、この日は休みのため、久しぶりに惰眠をむさぼり、遅めに起きると、朝食を食べた。
そして、リーエとイレーネがソファーで魔法の練習を始めたのでテーブルにつき、報告書をまとめていく。
昨日、試してわかったことからイレーネの意見、それに改良点なんかの所感を書いていった。
最初は適当で良いかなと思っていたが、書き出すと、久しぶりの書き物だったので筆が乗る。
結果、いつの間にか昼になり、報告書が5枚にもなってしまった。
「ヴェルナー、こんなに書いたの?」
受付の人を呼び、昼食を頼んだイレーネがこちらにやってきて、報告書を見てくる。
「気が付いたらこうなってた」
「すごいわね。魔法使いってこんなことまでやるの?」
「いや、俺がそういう職業だっただけだし、魔法の本とかを書いていたからだ。イレーネは書かなくていい」
実際、書かないだろうし。
「そう? なら良かったわ。書いたのなら午後からトランプをしましょうよ」
「そうだな」
報告書を封筒に入れ、ベッキーの宛名を書くと、リーエに渡す。
すると、昼食が来たので3人で食べ、午後からはトランプをして過ごしていった。
夕食も部屋で食べ、結局、一度も部屋から出ずに休日を終えると、指名依頼の日になった。
相手が貴族なので遅れてはいけないと思い、かなり早めに起きると、約束時間の30分前には東門に向かう。
すると、すでに10人以上の兵士と共に豪華な鎧を着たライオネルの姿が見えた。
「早いわね」
「軍は色々と確認があるし、かなり早めに来るんだ。まあ、俺達が遅れたわけじゃない」
ライオネルのもとに向かうと、向こうもこちらに気付いた。
「おっ、早いな。感心なことだ」
相変わらずの爽やかさだ。
「おはようございます。皆さんも早いですね」
「なーに、こいつらは寝てないだけだ」
え?
「それで良いんですか?」
「今日は演習だ。実際の遠征の時もそういうことがあるかもしれない。せっかくの演習なのだから色んなことを想定したい」
真面目というか何というか……
「わかりました」
「ところで、君達はその子も連れていく気か?」
ミスディレクションをかけているが、さすがにリーエが気になったようだ。
「親戚の子です。まだ10歳ですが、将来は冒険者になりたいようで連れているんですよ。魔石の回収が得意なんです」
「ほう? まだ幼いのに目標を持ち、それに向かって進むのは立派なことだ」
この人、褒めるのが好きだな。
「ありがとうございます」
リーエが頭を下げる。
「利発そうだし、将来が楽しみだな。さて、少し早いが、本日の演習について説明しよう」
「お願いします」
「まずは森に入り、5キロは行軍する。これは森における魔物への警戒を鍛えるためととっさの動きを確認するためだ。まあ、何よりも働いている冒険者達の邪魔にならないように演習は奥でやる」
ちゃんと配慮もできるんだな……
「わかりました。私もですが、イレーネもリーエも問題ありません」
「うむ。隊列は前と後ろに5人ずつ配置する。中央に5人と私だ。君達もここにいてほしい」
やることなさそうだな。
「森の中には入らないのですか?」
「いや、入る。あくまでも行軍時の隊列だ。現場に着いたら5人ずつに分け、それぞれ森に入らせる。私も5人と行くし、君達もそこに同行してくれ。あ、いや、護衛してくれ」
言い直さなくてもいいよ……
「ライオネル様は剣に覚えがありますか?」
一応は魔力を感じるが、正直、あまり高くない。
「子供の頃から鍛えているし、実戦経験もある。オークくらいなら倒せるな。もっとも、今回は戦闘に参加しない。今回は指揮や周りを見ることに集中する」
大将なんだからそれで良い。
ここでやる気のあるバカは自分も戦いたいと言い出し、とんでもない負担をかけてくる。
「私達はライオネル様のそばにいればよろしいわけですね?」
「基本的にはそうだ。まあ、色々やってほしいこともあるが、それはその都度説明しよう」
まあ、タダ飯喰らいをする気はない。
「わかりました。何でも言ってください」
「うむ。まあ、無理はするな。一応、ポーションも持ってきているし、休憩も取るつもりだ」
俺達より寝てない兵士に取らせてほしいね。
「ありがとうございます」
「よし。では、いつまでもここにいたら迷惑となるし、出発といこう。皆の者、進軍だ」
「「「おー!」」」
兵士達が声を上げると、隊列を組み、歩き出した。
ライオネルも徒歩のようでそのまま歩き、町の外に出る。
「ライオネル様も歩きですか?」
「森の中に入るからな。実際の遠征は馬に乗るが、まあ、色々なことを想定してだ」
想定が好きな人だな……
『ヴェルナー様、周りの兵士がかなり警戒していますよ』
リーエが念話で教えてくれる。
『当然だ。どこの馬の骨かもわからない冒険者が伯爵家の嫡男の近くにいるんだからな』
しかも、武器を持っている。
『いかがしますか?』
『伯爵が指示を出さない限り、魔物が出ても武器を抜くな。イレーネに伝えられるか?』
『やってみます』
リーエは隣を歩いているイレーネの手を取る。
「ん!?」
イレーネが驚いたようにびくっとし、リーエを見下ろす。
多分、念話を使ったのだろう。
不審な動きをしたイレーネを見て、一瞬、緊張が走った兵士達だったが、イレーネがリーエの頭を撫でると、その緊張もなくなる。
多分、女子供の微笑ましいやり取りに見えたからだろう。
もっとも、護衛の兵士としては失格だ。
その2人はここにいる全員をあっという間に殺せるだけの力を持つ殲滅系ホムンクルスと白銀さんなのだから……
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