第113話 ちょっとしてからですけどね
「すごくアクティブな人だったな……」
「この場で色々と決めて良かったのかしら?」
な?
「あのー、ライオネル様はどういう方なんですか?」
リーエがヴィヴィアンに聞く。
「ライオネル様はギルマーティン伯爵家の嫡男です。気さくな人で分け隔てなく接してくれる御方ですね。とても優しい方なんですよ」
へー……
『この人、多分、彼女さんか愛人さんですよ』
『触れるな』
俺もちょっとそんな気はした。
「イレーネも言っていたが、ライオネル様が勝手に決めても良いものか?」
「今回の遠征は御父上であるギルマーティン伯爵がライオネル様に箔をつけるために命じられたことです。全指揮権はライオネル様にありますので大丈夫だと思います」
詳しいな……やっぱりこの人……
「いや、良いなら良いんだ。せっかくのご厚意だし、ありがたく、受け取ろう。またCランクになったら来る」
「はい。お待ちしております」
俺達は図書館を出ると、来た道を引き返す。
「受けて良かったよな?」
「ええ。貴族からの依頼はポイントが高いわよ? しかも、貴族は出すわ。それこそBランク以上じゃないと回ってこない仕事ね」
評価も上がるのか。
まあ、確かに貴族相手にもちゃんと仕事をできるというのはギルドとしても安心して仕事を回せるだろう。
「貴族というのは? 俺、イレーネとあのシェパード伯爵しか知らんぞ」
銃を持っていたマリティアの町の領主ね。
俺達の心中という悲劇を目撃した人。
「大丈夫でしょ。この国とリーフェル王国は関係ないし、話をしていても随分と良心的な人だったわ。ヴィヴィアンも褒めてたしね」
褒めてたな。
「あの方、彼女さんか愛人さんじゃないですか?」
こら、ホムンクルス。
イレーネは家族的にその辺がデリケートなんだぞ。
「ヴィヴィアンは貴族じゃないから十中八九、愛人の方ね。嫡男なら婚約者もいるでしょうし、お相手は貴族よ」
「ヴィヴィアンさんは貴族じゃないんですか? 上品な方でしたけど」
上品だったな。
「違う、違う。貴族って所作や口調でわかるのよ。あ、私は除く」
半分、庶民だしな。
最初に会った時からフレンドリーだったし、貴族っぽくないなと思っていた。
「ライオネルは問題ないか?」
「大丈夫よ。それに何かあったらさっさと国を出れば良いだけ。リスクとリターンを考慮しても受けるべき依頼よ」
イレーネがそう言うならそれで良いか。
俺達は宿屋に戻ると、順番に風呂に入っていく。
そして、一息つくと、早めの夕食を食べた。
「あー、今日も美味かったな」
今日は肉料理を頼んだのだが、ステーキだった。
程よい脂身が絶品だった。
「そうねぇ……大満足よ。明日だけど、どうする?」
「森だな。帰りにギルドで精算をし、指名依頼のことを聞こう」
「わかった。リーエ、何時起き?」
「6時起きですね。それで16時前には帰りましょう」
まあ、そんなところか。
「了解。可愛いホムンクルスちゃん、ワイン持ってきて」
「はい、奥様」
リーエがワインセラーに行き、人数分のグラスと共にワインとぶどうジュースを持ってきた。
そして、グラスに注いでくれたので乾杯をした。
「ふう……良い生活」
「そうだな」
「仕事をし、ゆっくり休める。すばらしいことだと思います」
俺達はワインやぶどうジュースを飲み、ゆっくりしていく。
「リーエ、エンチャントはどうする?」
もちろん、イレーネのこと。
「そうですね……では、やってみましょうか。イレーネさん、ここに帝国銀貨があります」
リーエが銀貨を取り出し、イレーネに見せる。
「おー、綺麗な銀ね」
「イレーネさんの髪ほどじゃないですよ」
「可愛いわねー。そういうことをさらっと言えるのが高評価」
口には出さないが、今のって絶対に誘ってなかったか?
「俺も思っているぞ」
「知ってる。あなた、私の髪が好きだもの」
好きだね。
「イチャつくのは後でどうぞ。イレーネさん、この銀貨に魔力を込めてみてください」
リーエがイレーネに銀貨を渡した。
「魔力を込めるのはできるわよ。魔力を流せば良いんでしょ」
イレーネが銀貨に魔力を流していく。
流し込みすぎずの良い塩梅だ。
「お見事です。もう魔力操作は物にしたと言っても良いと思います。エンチャントは基本的にこれと同じです。物質に魔力を流し、属性を加えることになります」
「この銀貨に属性があるの?」
「いえ、それはありません。昼間に私が石ころに魔力を込めたのと同じで遠くでもそこにあるなというのがわかる程度です。まずイレーネさんに覚えてほしいのは物質を硬くするエンチャントです。剣を使うイレーネさんが一番重宝するものになります」
ぱっと見は魔法を使っているとわからないし、高い剣だから連戦で持たせるのは良いチョイスだ。
「どうやるの?」
「このエンチャントに関してはイメージです。硬く、硬く……とにかく、硬くすることをイメージしてください」
「やってみる」
イレーネが銀貨とにらめっこを始めた。
「イレーネ、剣を借りるぞ。ちょっと見てみる」
「どうぞー」
ソファーの端にあるイレーネの剣を取ると、鞘から抜き、よく観察する。
「どうですか?」
リーエが聞いてくる。
「やはりイレーネの魔力に耐えられるよう変えないといけないな」
「どれくらいですか?」
「2、3時間でできると思う。やってしまうか」
「お任せします。私はイレーネさんを見ますので」
その後はワインを飲みながらイレーネの剣をエンチャントに耐えられるように変えていく。
専門の機材があれば楽だし、確実なのだが、そんなものはないので自力でやっていく。
実は非常に高度なことをしている。
ちょっと褒めてほしいくらいだ。
俺達がそれぞれに作業をしていると、22時を過ぎた辺りでリーエが寝室に行き、俺の方も何とか剣の性質を変え終わった。
「ふう……」
「終わった?」
「ああ」
「貸して、貸して」
イレーネに剣を返す。
すると、イレーネが剣を掲げた。
「うーん……わからない」
「そんなものだ。ただ、ちゃんとエンチャントに耐えられるようにしてあるし、それで魔法を放つこともできる。でも、まだやめとけ。もうちょっと練習してからだ」
「硬くするエンチャントは?」
「それは良い。いくらでも使ってくれ」
硬くするエンチャントは丈夫になるベクトルだから何も問題ないのだ。
これが切れ味を増すとかだと、逆に脆くなるから危ない。
「了解」
イレーネは剣を鞘にしまい、ソファーに置く。
「そっちはどうだ?」
「硬くするのはできると思う。まだ練習がいるけどね」
イレーネはワインを取り、飲み干すと、手を繋いできた。
「センスはあるからじっくりやってくれ」
「ヴェルナーもすごいけどね。よくわからない作業が数時間で終わるんだから」
「本当にすごいんだぞ。普通の付与魔導士なら数日はかかる作業だ」
「さすヴェルー。ありがとうね。お礼いる?」
イレーネが人差し指を唇に持っていき、首を傾げた。
しかも、可愛らしかった昼間とちょっと違い、なんか妖艶だ。
部屋の暗さと雰囲気、あと服装が影響しているのかもしれない。
「それはいつでも良いんじゃなかったのか?」
「そうね。いつでも良い」
「俺達もそろそろ寝ようぜ」
「ええ。そうしましょう」
俺達は立ち上がると、手を繋いだまま寝室に行き、就寝した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本作品ですが、今後は水曜日と土曜日の更新となります。
今後ともよろしくお願いいたしします。




