第112話 すごくマイペースな人です
「じゃあ、図書館に行きましょうか」
ふーむ……
「イレーネ、先に宿屋に戻っても良いぞ。お前、興味ないだろ」
本を読まない人だし。
「いや、付き合うわよ。リーエとトランプでもしてる」
図書館でトランプ……
「え? 私も読みますけど……」
「そうなの? でもまあ、一緒に行くわよ。ヴェルナーは私が視界にいないと心配になっちゃう人だから」
もうここまで来たら大丈夫なんだがな。
「じゃあ、行くか」
「ええ」
俺達は東の大通りを歩いていき、広場に出た。
相変わらず、賑わっている広場を北に行くと、北の大通りを歩いていく。
「雰囲気が変わったな」
変わらず、歩いている人が多いが、どこか忙しない。
建物も住居といった感じではない。
「公共施設が集まっているらしいし、商会とかも集まっているんじゃない? 正直、私が来るところではないわね」
「俺は慣れているな。こういうところで働いていた」
研究が主だったが、一応は宮仕えだった。
「ヴェルナーはお偉いさんだったわね。どう? その時の生活に戻りたい?」
「いや、今の方が良いな」
ロクに魔法の研究ができていないが、今の方が楽しい。
「イレーネさんがいますしね」
「良かったわね」
イレーネがうんうんと頷く。
「そうだな」
俺達が地図を見ながら歩いていくと、めちゃくちゃ大きい建物に到着した。
「ここですか?」
「地図的にはそうね」
「王立図書館って書いてあるな」
しかし、でかい。
5階建てだし、敷地面積も相当だ。
「うーん、気後れするわね。そりゃ冒険者も近づかないわ」
ブリジットでさえ、行ったことがないんだからな。
ちょっと世界が違う気がする。
「まあいい。行ってみよう」
俺達は中に入る。
中は石造りの重厚なエントランスであり、奥に受付があったのでそちらに向かった。
「こんにちは。何か御用でしょうか?」
受付にいる若い女性がにっこりと上品な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「旅の者なんだが、調べものがしたいんだ。利用できるだろうか」
「旅の方ですか……当館の4階、5階は国の許可を得た人間しか入れません。また、1階から3階も身分証明が必要になります」
4階、5階は無理だな。
まずよそ者は入れてくれない。
「これで良いだろうか?」
ギルドカードをカウンターに置くと、受付嬢がカードを手に取り確認する。
そして、すぐに裏を見ると、カウンターに置いた。
「大変、申し訳ございません。冒険者の方ですと、最低でもCランク以上でないと利用できないことになっているんです」
冒険者は信用が低いか……
まあ、誰でも取れる資格証だしな。
「Cランクか……」
「はい。以前はDランクでも良かったんですけど、ちょっと問題が起きまして、以降はCランク以上になったんです」
ケンカでもしたか、騒いだか……
そんなことをする奴が図書館なんて来るなよな。
「何とかならんか? 例えば、ギルドから紹介状をもらうとか」
ブリジットに頼む。
「うーん……すみません。やはり規定ですので……」
無理か。
「どうする?」
2人に確認する。
「一応、この国の目標として、150万ソルを貯めることとCランクに昇格することにしているからランクが上がってからの利用で良いんじゃない? どれくらいかかるかはわからないけど、多分、いけるんじゃないかしら」
「ヴェルナー様、最悪はこの国でなくても良いと思います。知りたいのは魔道具の歴史であって、この国の歴史ではありません。他国にも図書館はあると思いますし、必ずしもここじゃないといけないということでもないです」
それもそうか。
とりあえず、今日のところは引き上げるとしよう。
「――どうした? 揉め事か?」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、豪華な服を着た20代くらいで男性が立っていた。
姿勢も良く、端正な顔をしている爽やかそうな男だ。
「あ、ライオネル様」
受付嬢が反応した。
しかも、ちょっと頬を染めている。
「やあ、ヴィヴィアン」
受付嬢はヴィヴィアンという名前らしい。
「どうされましたか?」
「調べものさ。それよりもこの者達は?」
ライオネルとやらが俺達を見てくる。
絶対に貴族だ。
「あ、揉めているとかそういうことではないです。利用したかったようですが、Dランクの冒険者の方なので難しいという話をしていただけです」
「ほう? 冒険者か。ここは図書館だが、何か調べたいのか?」
ライオネルが聞いてくる。
「ええ。魔道具について調べたかったんです。どういう歴史があるのか興味がありましたので」
貴族相手だし、さすがに敬語を使っておこう。
この国の礼を知らないし。
「ふむ。その探究心はすばらしいことだ。昨今の冒険者は金を稼ぐことばかりでそういう人として大事な知る力を求めない者が多い」
わかる、わかるー。
でも、言わない。
それっぽいイレーネがいるし。
いやまあ、イレーネは魔法の修行中なんだが。
「以前、教授をしておられる方と一緒になったんです。その時に興味が沸きました」
ということにしておこう。
「良い出会いだな。それで図書館を利用したいわけか……ヴィヴィアン、入れてやればいいだろう」
おっ、この貴族様、良い人だぞ。
「それは私も思うのですが、さすがに規定があります。正直、この方達が問題を起こすようには見えないですが、だからといって、入れてしまうと、他の利用客に示しがつきません」
正論。
「ふむ……まあな」
ライオネルも納得したようで頷く。
「ライオネル様、私達も納得しています。幸い、Dランクですのでランクをあと一つ上げるだけです。上がったらまた来ようと思っています」
「そうか……いや、ちょっと待て」
ん?
「何でしょう?」
「冒険者だったな? 東の森には行ったか?」
「ええ。今日行ってきて、その帰りです」
「どれぐらいの魔物を倒した?」
えーっと……
『正直に言っていいと思います』
リーエが念話で勧めてきた。
「今日は運が良かったこともありますが、オークが2、ビッグボアが1です」
「ほう? それはすごいな。先程は冒険者をバカにするようなことを言ってしまったが、訂正する。Dランクでオークやビッグボアを倒すのはすばらしい。最近の冒険者は質が高いな」
多分、俺達だけだと思う。
大魔導士と殺戮系ホムンクルスと白銀さんだもん。
「ありがとうございます」
「それほどまでの腕があるなら良いだろう。どうだ? 仕事を受けてみないか?」
仕事?
「どういう仕事でしょう?」
「実は10日後に魔物討伐の遠征に行くんだ。3日後、その事前演習を東の森で行う。それに同行しないか? もちろん、ギルドを通じて依頼を出すし、金も出そう。それが君達の評価に繋がるし、ランクアップの近道にもなるだろう」
いきなりすごいことを言いだしたな……
「私達が軍の演習ですか?」
「そう難しく考えるな。実際の遠征は兵と共に冒険者も雇う。そのこともあるから演習にも冒険者を同行させた方が良いと思っただけだ。森に入り、適当に魔物を狩るだけの君達がいつもやっている簡単な仕事だ」
ふーむ……
『リーエ』
『悪くないと思います』
リーエは賛成か。
「明後日だが、どうだ?」
イレーネにも確認する。
「大丈夫だと思うけど……あの、ライオネル様、魔石は?」
イレーネがライオネルに聞く。
「それは好きにしたまえ。我らは必要ない。ただ、回収は迅速にしてくれ。いや、待てよ……」
ライオネルが悩みだした。
「どうしました?」
「いや、実際の遠征でも冒険者が魔石を欲しがるなと思ってな……それでのロス時間も考慮したいから3日後は魔石の回収もしてくれ。それで計算をしてみる」
その時間によって、魔石の回収を認めるか、認めないかを考えるわけだ。
「わかりました……私は良いと思う」
イレーネが俺を見て、頷く。
「ライオネル様、明後日ということでしたが、具体的な時間は?」
「ふーむ……冒険者を入れるとなると、色々と考えないといけない。明日、昼以降にギルドに行ってくれ。それまでに指名依頼を出しておく。君達の名前は?」
そういや名乗ってなかった。
まあ、こんなに長くなり、依頼の話になるとは思っていなかったし。
「ヴェルナー・ランゲンバッハです」
「イレーネ・ランゲンバッハです」
あー、確かにイレーネの名字は慣れないな。
「夫婦か。良きことだな。では、依頼は出しておくから確認してくれ。ヴィヴィアン、4階だ」
「わかりました」
ヴィヴィアンが頷くと、ライオネルはさっさと奥に行ってしまった。
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