第106話 北はNGです
「さて、次はギルドだな」
「今度は逆ですね」
広場に戻ってきた俺達は先にある通りを見る。
「今は15時か……まあ、良い時間か。行きましょう」
広場を抜け、東の通りを歩いていく。
飲食店や宿屋が多く、まだ早い時間だというのに飲んでいる冒険者の姿も見えた。
「ここも賑わっているな」
「夜になると、もっとじゃない? 嫌いじゃないけど、やっぱり静かに飲みたいわね」
俺もそう。
というか、騒がしいわいわい飲みは好きじゃない。
そのまま歩いていくと、前方に門が見えてきた。
地図によると、ギルドは門の近くにあるからこの辺りだろう。
「あ、ありましたよ」
リーエが指差した先には確かに剣が交差する看板があった。
「やっぱり大きいな」
広さもあるし、3階建てだ。
「王都だもの。ミストラみたいに治安が悪いってことはないと思うけど、気を付けてね」
「イレーネとリーエにはミスディレクションをかけてあるから大丈夫だ」
俺達はギルドの中に入った。
中はかなり広く、手前の待合スペースにいくつもテーブルがある。
左の方にある依頼票もかなりの数があり、10人くらいの冒険者がそれを眺めていた。
受付も10もあり、若い女性がずらっと並んでいるのはちょっと壮観だ。
「綺麗どころが揃ってるわね」
イレーネも同じことを思ったらしい。
「イレーネさんほどじゃないですよ」
「俺もイレーネが良いな」
便乗褒め。
「ふっ、あなた達は見る目があるわね。今夜、ワインを注いであげるわ」
どうも。
俺達は右端の黒髪の受付嬢のところに向かった。
「いらっしゃいませ。受付担当のブリジットです。お仕事ですか?」
受付嬢が好感の持てる笑顔で聞いてくる。
正直、昔の俺なら勘違いする可能性を否定できない。
「報告よ。これ」
イレーネが書類を提出すると、リーエが布袋をカウンターに置いた
「ほうほう……馬車の運搬ですね。サインもあり……わかりました。それにギルド支部からの書類ですね。大変助かります。それではギルドカードの提出をお願いします」
「ええ」
イレーネと共にカードをカウンターに置く。
「あれ? Eランクですね。指名依頼でもないようですし、珍しい……」
ブリジットが首を傾げた。
「厚意じゃない? あと他にいなかったってところかしら?」
「ふむ……わかりました。少々、お待ちください」
ブリジットはカードと書類を持って、奥の部屋に向かった。
そのまましばらく待っていると、トレイを持ったブリジットが戻ってくる。
「時間がかかったわね。何かあったの?」
「ええ。まずは報酬です。馬車と手紙の運搬で10万ソル、さらには書類の運搬で5000ソルになります」
やっぱり5000ソルか。
消費税みたいだ。
「ありがと」
「いえいえ、こちらこそ助かります。それでカードの返却になりますが、ヴェルナーさんもイレーネさんもランクアップです」
ブリジットがそう言って、カードをカウンターに置き、笑顔で拍手をする。
どうやら時間がかかったのはカードの発行が原因のようだ。
「Dランクね」
「心なしか見栄えが良くなったな」
俺達はカードを取り、Dランクの文字を見ながら頷き合った。
「すばらしいペースだと思います。これからも頑張ってください。それでいかがしますか? この王都でも仕事をなさいますか?」
「ええ。そのつもり。良い仕事はない? 道中で知り合った冒険者に湖がある大森林を勧められたけど」
アイリーンから聞いた。
「ええ。御二人はこれまで魔物退治による魔石集めと採取を主にしておられます。そうなると、大森林が良いでしょうね。すぐそこの門を抜け、ちょっと行ったところが大森林です。見ればこれが大森林だなってわかります」
ブリジットが左の方を指差しながら説明してくれる。
「やっぱり稼げるわけ?」
「はい。昔からあの森の恵みで発展してきた町です。一方で魔物も多いので冒険者は儲かるんですよ。出てくる魔物の種類も豊富です。当たりはオークとビッグボアです」
ビッグボアは初耳だ。
でもまあ、名前からしてでっかい猪だろうな。
「依頼とかある?」
「あります。薬草、毒草などの採取です。御二人は採取が得意のようですし、ぜひともお願いしたいです」
恒例のギルドのお願いだ。
もっとも、採取が得意なのはイレーネだが……
「毒草って毒切草?」
聞いたことない名前だ。
「はい、それです。実はウチの国ではモルティスフィッシュという毒魚が獲れるんです。これが非常に美味しいと評判なんですが、内臓に毒があり、素人さんが調理に失敗して病院に運び込まれるという事故が月に数回は起きているんです。その治療薬である毒消しのポーションの材料に使われるのが毒切草なんですよ」
フグみたいなものかな?
「へー……ちょっと気になるわね」
「大抵の店で食べられると思いますよ。そういうわけで毒草の採取をお願いしたいです。薬草もですけど、皆さん、やってくれないんですよね」
「毒切草の採取も知識とコツがいるからね。それでいて、安価なんだからそうでしょう」
やっぱり安いんだな。
「その辺が難しいところです。あ、薬草も毒切草も湖の近くに生えていますのでそこで休憩しながら採取をすると良いですよ。湖も綺麗ですので」
「湖ってどこ?」
「えーっとですね……」
ブリジットがカウンター下から地図を取り出して、広げる。
王都周辺の地形が細かく描かれていた。
「東門を出て、そのまま街道を進んでいくと、森の中を進む街道に繋がっています。そこから2、3キロ行ったところに右と左に分かれる分岐点があるんですけど、そこを右に行くと、湖ですね。他の冒険者の方もいると思いますし、綺麗なところなので冒険者を護衛に雇った観光客もいます」
人気なのかね?
「ふーん……じゃあ、行ってみるわ。まあ、明日からね」
「ええ。ぜひお願いします。有望なパーティーらしいですし、この王都でも活躍してほしいです」
「そうするわ。それでさ、灯火の宿ってどこにあるか知らない?」
イレーネが王都の地図を広げながらブリジットに聞く。
「灯火の宿ですか。ここの辺りですね」
ブリジットがギルドの裏にある通りを指差した。
「近いわね……」
「ええ。皆さんが通ってきたであろう通りを東の大通りと言うのですが、そこから北が飲み屋街というか、大衆向けの歓楽街です。賑やかですし、夜遅くまで開いているお店も多いです。南側も飲食店や宿屋は多いんですが、高級店やバーなどがあり、割かし静かですね」
通りを挟んで客層が分かれているわけだ。
「ふーん……わかったわ。まあ、北側には行かないわね」
「それが良いと思います」
ブリジットが苦笑いを浮かべる。
そのことでなんとなく、そういう大人のお店も多いんだろうなと勘づいた。
「ブリジット、ちょっといいか?」
「何でしょう?」
「北にある図書館って誰でも入れるのか?」
一応、確認してみる。
「図書館ですか……すみません。私も利用したことがないもので……ただ、身分証明が必要だったと記憶しています。ギルドカードで大丈夫だと思いますが…………すみません。お力になれそうにないです。専門家や研究者が利用するところというイメージですのでちょっと……」
ふーむ……まあ、行ってみるか。
「わかった。色々ありがとうな」
「いえ、御二人の活躍に期待しております」
ブリジットが姿勢良く頭を下げたのでギルドをあとにした。
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