第4話
「みんなーやっほー!今日もハート片割れ落としちゃったから拾ってくれるー?」
いつものトークから始まるライブ配信。
だらだらとコメント欄を読みながら色んな話をしてくれる。
コメント欄の流れが早くて、私のコメントなんていつも流されてしまう。
そもそも、自分のコメントすら見えないレベルで流れが早い。
今日もいくつか送ってみたりした。
「誰もハート拾ってくれないから、俺が拾っちゃったよーん」
ハハハハハと、高らかに笑う推しが可愛くて、つい私の口角も上がってしまう。
誰にも見られちゃいけない。
布団を深くかぶってライブ配信にだけ集中する環境を作る。
家の中で唯一安心できる場所だ。
…夫が帰ってくるまでは。
今日の配信は“3駅分歩いて脚がパンパンになった”とか、
“ちょっと高級なりんごジュース買ってみたから梅酒と割って飲むのが楽しみ”とか、
私たちが知ることのできないプライベートな話ばかりだった。
お酒が大好きで、ライブ終わりにはメンバーやスタッフとよく飲みに行って、周りの人たちが映すリンダくんが最高に可愛くて面白くて、大好きだった。
一緒に推し活をしていた友達にも秘密にしていることがあった。
リンダくんがまだ全然有名じゃなくて、SNSに弱音を吐き出せていた時期のこと。
まだフォロワーも1000人もいなかった時かな。
私は熱心にDMやリプライを送ったりしていたので、サブアカウントでフォローされていた。
そのサブアカウントは、おそらくファンの子たちを見境なくフォローバックしていたんだと思う。
フォローとフォロワーの差はそこまで大きくなかった。
その中でも選ばれた人だけが招待されたアカウントがあった。
30人くらいしかフォロワーのいないアカウント。
最初は「不思議なアカウントからフォローされた」くらいの感覚だったんだけど、なんだかとても気になってフォローを返したの。
まさかそれがリンダくんのアカウントだとは思わなかった。
いわゆる“繋がった”という表現になるのかな?
でも私はリンダくんに認知されたとは思えなかった。
何かやりとりをするわけでもなかったから。
メッセージを送るなんて…と気が引けていた。
結局一度もやりとりをすることなく、そのアカウントは使われなくなった。
ただフォローさせてもらっていただけ。
そんな感じ。
もしかして、その中の誰かと会っていたのかな…とか考えて胸が苦しくなるときもあった。
アカウントを探ると、匂わせ投稿をしている女の子だらけでショックを受けた。
そのたびに、「これはリンダくんなんじゃないか」って思ったから。
証拠なんて何もない。
ただ、そう見えてしまっただけ。
それなのに、一度そう思ってしまうと止められなかった。
結局、アイドルじゃなくて男なんだなと思うとすごく複雑な気持ちになった。
ファンとプライベートで会うような人だったんだ。
誰かを好きになったり、誰かに触れているかもしれない。
そう考えるだけで胸が痛んだ。
それでも好きで推し続けていたのは私。
それでも好きだった。
大好きだった。
私は私なりの愛し方で、リンダくんと向き合っていた。




