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忘却を愛する女

あなたはこう思ったことはないだろうか?

嫌なことは全て忘れ去れればいいのに

これは忘れていくことを求めた女性のお話。


彼女は忘れていくことを望んだ。

嫌なことを、辛いことを、失敗したことを。

それらを覚えていたくない。

だから、彼女は望んだ。

嬉しいことを、幸いなことを、成功したことを。

それだけを覚えていつづけたい。

だから、彼女は望んだ。

そうしてしばらくした後。

手の中にはいつの間にか小さな小さなポンプがあった。

それは初めて見るもの。

買った記憶もない、貰った記憶もない。

ただ、いつの間にか握りしめていた。

けれども、使い方はわかる。

記憶を捨てるものだということを。

流れる水のように記憶を捨てるものだということを。

彼女は歓喜した。

望み通りのものであったことを。

手始めに一つの記憶を。

ヒトから虐められた記憶をなくそう。

彼女はポンプを動かす。

水がゆるりと流れていく。

記憶がゆるりと流れていく。

虐められた記憶がなくなった。

楽しい楽しい想い出しか残ってない。

彼女は充実した。

そうして、しばらくした後。

彼女は大きな失敗をした。

彼女のプライドが傷付けられた。

忘れよう。

水がゆるりと流れていく。

ふと、彼女は気付く。

手の中にはいつの間にか小さな小さなポンプがあったことを。

それは初めて見るモノ。

ただ、これだけは分かる。

望み通りの、モノであることを。

それだけは分かる。

それ以外のモノの記憶が曖昧であることも。

けれども、楽しい記憶しかない。

彼女は充足感を感じている。

ただそれだけでいい。

記憶をなくすことにためらいはない。

そうして、しばらく、した、後。

彼女は最愛のヒトを亡くした。

彼女は希望を失った。

忘れ、よう。

水が、ゆるりと、流れていく。

最愛のヒトを亡くした記憶が消えていく。

のヒトを亡くした記憶が消えていく。

のヒトを記憶が消えていく。

記憶が消えていく。

彼女は充足感を感じている。

楽しい記憶しかない。

黒く塗りつぶされた、ヒトとの楽しい記憶しかない。

黒く、塗りつぶされた。

周りには知らないヒトと写っている写真がある。

知らない、ヒトの、写真。

けれども、なぜか、捨てられない。

彼女は充足感を感じている。

楽しい、知らない、黒い、写真。

忘、れよ、う。

水が、ゆるりと、流れ、ていく。

ポンプを、漕ぎ、続ける。

水がゆ、るりと流、れてい、く。

彼女は充足感を感じている。

全てを忘れた。

彼女を苦しませるものは何も、ない。

手から離れた、小さな小さなポンプは嗤うようにカタカタと動く。


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