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記憶し続ける男

あなたはこう思ったことはないだろうか?

どうしてヒトは物事を忘れ去るのだろうか

これは記録を愛した男性のお話。


彼は誰よりも記録を愛し続けた。

記録された物事は全てが真実だから。

真実だから彼を裏切らない。

記録されない心は、意識は、想いは、都合のいいように改変される。

それを彼は信用しなかった。

真実でないから、彼は、それを、信じなかった。

かつては彼もそれを信じていた。

ある一人の出会いによって彼の意識は変化した。

ただひたすらに記録を愛するようになった。

たとえ、誰かに愛を告げられても。

たとえ、誰かが死にゆくとしても。

たとえ、誰かの行方がしれなくも。

彼は、それらの言葉を信じなかった。

愛を告げたヒトは彼を嫌うようになった。

自分の言葉を信じてもらえなかったから。

そうして、周りのヒトへ。

危篤にあるヒトは彼を嫌うようになった。

自分の言葉を信じてもらえなかったから。

そうして、周りのヒトへ。

行方不明のヒトは彼を嫌うようになった。

自分の言葉を信じてもらえなかったから。

そうして、周りのヒトへ。

やがて、周りのヒトは離れてゆく。

自分の言葉を信じない彼を嫌う。

たとえ、彼がただひたすらに、真実を愛していたとしても。

ヒトは彼を嫌う。

記録しか愛さない彼を嫌う。

彼は一人になった。

彼がたとえ、狂っても、ヒトは彼に気づかない。

誰も彼を見ない。

真実を愛した彼を誰も見ない。

ヒトは偽りの愛を、正義を、希望を望むから。

ただひたすらに真実を愛する彼を嫌う。

そこには優しい偽りが存在しないから。

ヒトは傷付くことをおそれ、彼から離れてゆく。

彼は徐々に狂い始める。

始まりはほんの些細なズレ。

記録と、彼が認識するものとずれ始める。

始まりは、ほんの些細なズレ。

けれども、徐々にずれ始める。

始まりは、ほんの、些細なズレ。

彼が目にするもの全てが偽りに塗りつぶされる。

彼は狂う。

記録が真実。

存在が虚構。

記録が虚構。

存在が真実。

彼は狂う。

彼は真実なのか、虚構なのか。

風も無いのにページがめくられる。

繰る繰る繰る繰ると。

それは彼が愛した記録。

そこには、彼が、書かれていなかった。

彼は狂った。

唐突に始まる日常。

優しい偽りが存在する世界へと戻る。

彼は、彼だけは、狂い続ける。

皮も、肉さえも無い骨だけの手が、現れる。

そうして、終わりは告げられる。

骨だけの手は彼と記録を愛でて消える。

そこには、彼は、いなかった。


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