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声を聞きたかった男

あなたはこう思ったことはないだろうか?

もしも何も聞こえなかったら

これは聞く事が叶わない男性のお話。


彼は、声と無関係の世界を生きてきた。

彼を知るヒトは、彼を支える。

彼を知らぬヒトは、彼を毛嫌いする。

ただ、聞こえないだけで。

彼を毛嫌いする。

彼は名前がある。

しかし、彼を知らぬヒトはこう呼ぶXXXと。

彼は、笑い続ける。

何を言っているか分からないから。

とりあえず、笑う。

ただ笑い続ける。

音は聞こえる。

それが意味を持たないだけ。

けれども、理解できるヒトはほんのわずか。

この世界に障碍者はほとんどいないから。

障碍を治すにはほんの少しだけのお金が必要であった。

しかし、それでも治せないヒトはいる。

彼がそうであるように。

彼を知る女性はいつも嘆いていた。

何か言っているが、彼は分からない。

それでも、泣いていることは理解できる。

また、彼を知らぬヒトが彼を呼ぶ。

その度に、彼は笑い、彼を知るヒトは嘆く。

何故、泣いているか彼は分からない。

あだ名で呼ばれることがどうして悲しいのだろうか。

彼は理解出来ない。

そして、呼ばれた後はいつだって、彼が鬼のゲーム。

いつも、いつも、彼と彼を知らぬヒトは追いかけっこをする。

彼は笑いながら、追いかける。

彼を知らぬヒトは嗤いながら、彼から逃げる。

そうして、この日常が過ぎ去っていく。

やがて、その日常が終わりを告げる。

彼は望む。

音だけでは足りない。

声も聞きたい。

彼は望む。

日々にその願いは強くなる。

やがて、看板が彼の目に留まる。

『なんでも叶えます』と書いてあった。

彼は疑わなかった。

ここなら、叶えてくれると。

そうして、彼は中へ入る。

そこには、一人の店長がいた。

両足が無く、耳の先がほんの少しとんがっている。

彼と同じ障碍者らしかった。

彼は店長に望んだ。

声を聞きたいと。

店長は何か言っているが、理解出来ない。

身振りからついて来いということがわかる。

彼は喜びながら店長についていく。

店長は嗤う。

実験が出来ると。

彼は催眠術にかけられたかのように、店長の怪しげな手術を受ける。

手術が終わった途端に彼の耳にいくつものの雑音が入ってくる。

突然の出来事。

彼は驚き、涙を流す。

音が、意味を持つようになった。

店長に感謝すると目が覚める。

誰かの音が聞こえる。

意味を持った音が聞こえてきた。

彼は夢でない事に大いに喜ぶ。

彼を知るヒトはほんの少しだけ喜ぶ。

今までが演技ではなかったのかと、疑念を抱いてしまう。

彼は知らない。

彼を知らぬヒトがあだ名で彼を呼ぶ。

その瞬間、彼は全てを理解した。

その次には、聴覚が異常に過敏になっていくのを感じる。

彼の周囲にいる彼を知るヒトの陰口が聞こえる。

聞きたくない意味のある音が聞こえてくる。

彼は突然狂う。

意味を持つ音が嫌な音が洪水のように耳に入ってくる。

耳を塞いでも、焼いても、千切っても聞こえてくる。

今までの音が堰を切ったように大量に流れ入る。

彼は狂った。

そのそばで両足が無く、耳の先がとんがっている店長が、立っている。

店長は嗤いながらメモをつけていた。


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