すてきなトナカイさん
「走れソリよ♪風のように__」
少し遅れてデスサンタが廃墟に侵入してきた。待ち構えていた四人を目撃したデスサンタは一瞬硬直する。
「お待ちしておりましたぜ、サンタの旦那ッ!」
デスサンタの前に四人が駆け寄って行儀よく整列し始めた。四人が身に纏っている茶色の服__全身タイツのようなトナカイの着ぐるみと角のカチューシャは根鎌が持ってきた衣装ボックスに入っていた、おそらくかつてこのデパートで使われていたイベント用の代物である。
「俺たち自分の使命にやっと気づきましたぁ!!」
「さぁ共にプレゼント配りに参りましょうぞ。」
「旦那のためなら地獄の果てまでついて行きますぜぇ!!」
トナカイ四人がまるで崇め奉るように腰を低くする。デスサンタはその様子をしばらくまじまじと見つめていた。
「…真っ赤なお鼻の、トナカイさんは♪」
不意にデスサンタが両手を海野の肩に手を乗せる。
「さ、サンタの旦那…!わかってくれたんですね__」
「いつもみんなの、わらいもの♪(海野を投げ上げて片足を掴む)」
「え?……うぎゃっ!!!?」
__ドドドドドドド
片足を掴まれた海野はそのまま何度も床に叩きつけられる。
「たす…!助けて!あれ!?居ない!!」
他の三人はその光景に目をくれることもなく無言で一目散に逃げ去っていた。
「…たく、あのサイコ野郎にこんなの通用するわけねえだろ。何がトナカイだよ。」
「フッ…マヌケがいると助かるな。今のうちに隠れる場所を探すぞ。」
生贄(海野)が痛めつけられている間に十文と佐渡はレジ台の裏に身を潜めた。
「うおおおおおお!!!お前らよくもぉ!!」
そこに自力で抜け出した海野が鼻を真っ赤にしながら走ってくる。
「チッ…もう来やがったか。」
「しっしっ…!あっち行け…バレるだろうが。」
「サンタさーん!!こっちです!!ここに二人居ます!!!」
「「おい!!!」」
すぐさまデスサンタのドロップキックがレジ台を破壊した。
「「ぎゃああああ!!!」」
二人が瓦礫と共に吹き飛ばされる。デスサンタはすかさず二人に向かって追撃を仕掛けようと歩み始めた。
__ピュウ!!
その時、鋭い音と共にロケット花火がデスサンタの頬を掠めた。
「チッ…外したか!」
「源ちゃん!!」
射線の元にいたのは、大量のロケット花火とライターを抱えた根鎌だった。
「オルァ!死に晒せぇ!!」
__カチッ!
根鎌がロケット花火に一斉点火すると複数に分かれた光の帯がデスサンタを襲った。そのうちの一つがデスサンタの顔面に直撃する。
「……!」
デスサンタはのけぞり、動きを止めた。
「しゃあっ!やっぱサンタは火属性に弱いぜ!」
「いや、大抵の人間そうだろ。」
次々とロケット花火がデスサンタに向けて放たれていく。デスサンタも怯んでいる様子を見せていた。
「ヒャーッヒャッヒャッ!!喰らえ喰らえ!!」
「……この世界から…淋しい人が…一人もいなくなりますように!!!」
デスサンタがロケット花火を受けながら何かを呟いた。
「あん?誰が淋しい人だって…うおわっ!?」
突如デスサンタの周囲から謎の突風が発せられ、ロケット花火の火を打ち消した。突風は徐々に勢いを増し、やがて衝撃波を帯びて廃デパートを破壊していく。
四人はすぐさま廃デパートを飛び出す。それとほぼ同時にデパートは衝撃波により倒壊した。
「ひぃ!?もうなんなんだよアイツ!人間辞めてるだろ!」
「あのデスサンタ、淋しい人がどうこう言っていたが!?」
「あ!そいや、なんか最初の方にも言ってたかも。たしか『この世から淋しい人がいなくなりますように』だったか?」
「“淋しい人”ってもしかして俺たちのことか!まさかそんな俺たちを文字通り抹消するために__」
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
廃墟の粉塵の中からデスサンタが追いかけてくる。もはやその脚は接地していない、何やら超常的な力で空中を浮遊しミサイルのように突進してきた。
「「「「ぎゃあああ!!!」」」」
◆
それはもう追跡というより追尾。宙を舞う人間魚雷と化したデスサンタは方向転換を繰り返して縦横無尽に四人を襲い始めた。
四人はすれすれで躱し続け、なんとか路地裏まで逃げ込む。
「ハッ…!ざまあないぜ。スピードが上がった分小回りが効かなくなってるみてえだ…!」
「フン、あそこまでくるともはや悪霊の類だな。」
「ちくしょう…なんで俺が祟られなきゃならねえんだ。俺はただカップルのムードをぶち壊すなどして普通にクリスマスを楽しんでただけなのに。」
「だいたいよ、淋しい人ってなんだよ。いちゃもんだろ。俺たちはクリスマスだろうと自分なりに懸命に生きてるだけなのに哀れまれる筋合いは__」
『“まりあさま”は言われました。この世界から淋しい人が一人もいなくなりますように。と。』
「「「「え?」」」」
路地裏に街宣車の声がこだまする。四人が物陰から恐る恐る顔を出すと、《コナー・雪の会》と書かれた白い街宣車が路駐しながらスピーカーで演説していた。
『この世界は不完全です。病や怪我、そして老い。生きているだけであらゆる不幸、悲しみが私たちを襲います。ですがそれも今日でおしまい。明日からはまりあさまによる奇跡が、それら一切を根絶していくことでしょう。世界は聖女・まりあさまによって救われるのです。我々はコナー・雪の会。まりあさまの元に集い守護する者。さあ我々と共にまりあさまに祈りを捧げるのです。さすれば、貴方に救済が__わっ!?なんです!?あなたたちは!?』
街宣車の前方をトナカイ四人が取り囲む。街宣車の中にいたのは男二人、いずれも慌てふためいていた。
「おにーさん、ちょっとお話いいかなぁ?」
「俺たちその“まりあさま”って人に会いたいんだけどさ。」
『あ…あはは、入会希望の方でしたか。でしたらまずこちらの用紙に記入を__』
「フン、これさえ書けばすぐまりあさまとやらに会えるのか?」
『い、いえ!それはいけません!厳粛な審査の後、会員の素質があると判断された者のみが__』
「ああん!?そんなに待ってられるか!!こっちはもう死活問題なんだよ!!」
『ひっ!?』
「あ、やべ!デスサンタ来てる!」
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
空中を飛び回っていたデスサンタがとうとう四人を発見し、こちらに向かっていた。
「げっ!!おい!降りろそこ!!」
「ちょ、何するんですか!?」
四人は街宣車のドアを開けて乗っていた二人を両サイドから引きずり降ろす。そして入れ替わるように街宣車に乗り込んだ。
__ブロロロロ!
会員の男二人を取り残して街宣車が発進する。
「ご、強盗です!警察!警察を呼びましょう!」
「ちょ、ちょ!待ってください!今警察はちょっと!」
◆
「あ、やっぱあった!《コナー・雪の会》本部!そんなに遠くない!」
海野が街宣車を運転しながらナビに登録してあった本部の位置情報をセットする。
「…おいおい、まだ追ってきてんぞ。」
空を飛ぶデスサンタは街宣車のスピードと拮抗していた。
「ぶっちゃけ勢いでここまで来ちまったけど、黒幕はその“まりあさま”って事で合ってんのかな?」
「主張があのデスサンタと一致していることが偶然とは思えん。おおかた、あやつはまりあさまとやらが自分たちに都合の悪い存在を消すために遣わせた殺し屋か使い魔的な何かなのだろう。」
「…あ、見えてきた!」
四人の目の前に真新しい宗教施設が現れた。
◆
ここはコナー・雪の会本部。ドーム状の部屋に中央にはクリスマスツリー。そして入り口から見て奥側に少女の眠るベッドがあるその光景はまるで生贄を奉る祭壇のようだった。
「まりあさま?寝つきがよろしくないようで?」
「ごめんなさい、わたし…明日がたのしみすぎて目が覚めてしまうのです。」
「ふふ、お気になさらないでください。そこのあなた__睡眠剤の用意を。」
__ブップー!!
その時、けたたましいクラクションの音が外で鳴り響いた。
「何事です!?」
「た、大変です!トナカイが…いや侵入者が…ひぃっ!!?」
街宣車が施設のドアをぶち破って部屋の中に入り込む。
『うおおおお!!まりあさま!まりあさまはいらっしゃいますかぁ!?』
「…はい?…トナカイ…さん?」
街宣車に乗っている珍妙な姿をした四人に少女が目を丸くした。
「もしかして、あの子がまりあさまか…!?」
「おい、どーする!?まだ子供だぞ!?」
「…とりあえず事情聴取だ!」
__キィィィ!
街宣車が部屋の外周をドリフト走行しながら少女に接近する。
「まりあさま!お隠れになっていてください!…ええい!まりあさまを付け狙う異端者どもが!!皆のもの!出会え!出会え!!」
別室から何やら巨大なナイフとフォーク状のスピアで武装した会員たちが押し寄せてきた。
__ズドーン!
そこに四人を追跡していたデスサンタまでもが現れる。
「ひっ!?今度はなんです!?」
「まぁ!サンタさんまで!」
「ジングルベル、ジングルベル、鈴がなる♪」
「げっ!!もう来た!!まりあさま!ちょっとゴメン!」
「わわっ!」
「ああっ!まりあさま!!」
会員たちが赤い怪人の存在に騒然としいるうちに海野が少女を抱えて膝の上に乗せた。
そのまま会員たちをそっちのけで室内での街宣車とデスサンタによるカーチェイスが再び始まる。
「トナカイさんたち、どうしてサンタさんに追われているの?」
「ああ、俺たち実はトナカイに変えられた人間なんだ。」
「そうなの?大変ね!」
「おい!変なこと吹き込むな!ややこしくなるでしょうが!」
「その子をどうするつもりだ海野?」
「まぁ、ちょっと待てって…まりあさま、『この世から淋しい人が居なくなりますように』って“サンタ”に願ったのはあんたか?」
「え…?は、はい。あのクリスマスツリーに向かって…トナカイさん、どうしてそれを?」
「あのサンタがよく口ずさんでるからさ。」
「サンタさんが?よかった!わたしの願い事、ちゃんと届いてたんだ!」
「…いやー、それがそうでもなくって。」
「え?」
「すると、なんだ?デスサンタはこのカルト団体の人間兵器とかじゃなくてまりあさまの願い事から生まれたってことか?」
「…らしいな。ま、どうせここは何もかもいい加減な異世界だ。そんなこともあるでしょ。」
「でも、だからってどうすりゃいいんだ?」
「へへ…心配すんな、そうならそうでいいこと思いついた。と、その前に…一応、全部説明しとかないとだな。なぁ、まりあさま。」
「なんでしょう?」
「あんたの“淋しい人が居なくなる”って願い事は素敵なもんだと思うけど、あそこにいるサンタはどうもその意味を履き違えちまったみたいなんだ。端的に言うと俺たち可哀想なクリスマスイブを過ごしてたってだけであいつに消されちゃうみたい。」
「そんな!わたしそなつもりじゃ…!」
「ああ、わかってる。でもだからこそお願いだ。その願い事、今だけ破っちゃってもいいかな?」
「…え?」
「あのサンタは俺たちじゃ到底敵わない。だから願い事の方をどうにかするんだ。そのためにはあんたの協力が必要だ。やってくれるか?」
「…はい、わかりました。でもどうやって…?」
「わかった!もっかいまりあさまに願い事して貰うんだろ?今度は『サンタが居なくなりますように』とか…。」
「…いっそ『クリスマスが無くなりますように』というのはどうだ?代わりに正月を増そう。」
「お前ちょっと黙ってろ。」
「…まりあさまの願い事だってあんなふうに捻じ曲げられちまったんだ。別の願い事してもどうせ碌なことにならねえよ。それに、あいつが仮にもサンタクロースなら…これは多分だけど一人の子供から二つの願い事を聞くようなことしないだろう。…それよりもっと“らしい”方法がある。」
「“らしい”…方法?」
「ああ、サンタが叶えるのは“いい子”の願いだけだろ?だったらまりあさまには“悪い子”になって貰えばいいんじゃねえの?」
「はぁ!?」
「フッ、なるほど。前提を崩し願い事そのものを破棄させるということだな。」
「いやいや、うまくいくかよそんなの。だいいち“悪い子”ってどうすりゃなれんの?」
海野が不敵な笑みを浮かべた。
「簡単だ、今は深夜11時!こんな時間にバカ騒ぎでもすれば問答無用で悪い子でしょうが!」
◆
「今日は〜楽しい〜クリスマス〜♪」
「くっ…なんですかこの化け物!?怯むなっ!かかれー!かかれー!!」
「「うわーっ!!(頭を掴まれ振り回される)」」
車外ではトナカイたちを追うデスサンタの前に会員たちが立ちはだかり勝手に争い合っていた。
その時__
『“転生者刑務所”からお送りする獄中ラジオ!今週もお別れの時間がやってきましたパコよ。ここまでのお相手はMCキューピットと__』
突如、街宣車のスピーカーから大音量でラジオ番組の音声が流れてくる。
『DJバンパイアである。それでは最後に一曲。娑婆で聖なる夜を謳歌する愚民どもにありったけの恨みと呪いを込めて、《メリークリスマス・オブ・ザ・デッド》。』
そして、EDM風にチューニングされたクリスマスソングが爆音で響き渡った。
「うるさっ!?今何時だと思っているのです!!」
街宣車から少女とトナカイたちが降りてくる。その手には大量のロケット花火が握られていた。
「…ったく、ほんとにうまくいくのかぁ?」
「これが俺たちの“くりすますぱーちー”ってやつだよ。散々痛い目見たんだ、派手にやって損はないでしょ。せっかくのクリスマスなんだしさ。ね、まりあさま?やれそう?」
「…はい!!」
「ええ!?まりあさま!?何をなされるのです!?」
「__わたし、“聖女”なので…この人たちのために“悪い子”になります!」
ロケット花火が一斉に発射される。そのうちの一つがプラネタリウムの投影機に直撃し、なんらかの不具合かリズムに合わせて虹色の光を投写し始めた。
「熱っ!?貴様らァ!!まりあさまに何を吹き込んだァ!!」
「うるせえ!文句あんならあの殺人サンタに言いやがれ!!」
「くっ…信徒のみなさん!あの者どもを捕らえるのです!!」
「「うおおおお!!」」
会員たちが次々とトナカイに襲い掛かってくる。
「「おらぁ!!」」
「「ぐぁー!!(トナカイの角に挟まれ持ち上げられる)」
「ヘアッ!舐められたもんだぜ。」
「ふん、人間がトナカイに勝てるわけなかろうが。」
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
会員たちを薙ぎ倒してデスサンタまでも接近してきた。
「来たか…!よし、まりあさま!踊ろう!」
「えぇ!?踊っ…きゃっ!」
海野が少女を抱えて大きく飛び上がる。
「待て!貴様ッ!まりあさまを__ギャーッ!!?」
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
海野たちを捕えようとした会員にデスサンタの飛び蹴りが直撃し吹っ飛ばされた。
すかさず、トナカイたちはデスサンタを取り囲み思い思いのダンスを踊り始める。
「フッ!ハッ!ダンスバトルで勝負だ、デスサンタ!!」
「言っておくが、踊ることと人の足を引っ張ることに関しては俺たちが異世界最強だぜ!!」
「アンド、ア、ハッピーニューイアー♪(ブンブン)」
デスサンタが両腕を地につけて下半身をぶん回し始める。言葉が通じたのかブレイクダンスのような動きである。
「「ぐぁーっ!!?(攻撃に巻き込まれる会員たち)」」
高速回転するデスサンタをトナカイたちは軽快なステップや奇妙な動きで掻い潜っていく。
「チェアーッ!!!覚悟ォ!!!」
根鎌の背後から一人の会員が襲いかかってきた。
「おっ、丁度いい!お前今から“ソリ”な!」
「…え?うわああ!!?」
会員は瞬く間に足をロープで縛られその場に寝かされる。
「まりあさま!こっちこっち!ほら、乗って!」
「え?はい!」
「グエッ!?」
根鎌は倒れた会員の足を折り曲げてハンドルのように掴み、もう片方の腕で少女を抱き留め__
「そんでトナカイはお前。」
輪っかにしたロープの端を海野の首元に投げつけた。
「グエッ、なんで俺…!?しょーがないな、もう!」
ロープに括り付けられた海野がソリを引いて走り出す。
「うおおおおお!!!」
「いだだだだだ!!まりあさま!おやめください!!死んでしまいます!!」
「オラっ!ソリが喋ってんじゃねえ!」
「きゃははは!!」
少女は思わず笑い出していた。海野の馬力でそれなりのスピードが出るソリは根鎌の操縦により何度もデスサンタの攻撃を掻い潜る。
「グエッ!」
「ギャッ!?」
「グワーッ!!」
「走れソリよ〜♪風のように〜♪」
同時にその巻き添えで次々と会員たちが倒れていった。
「う、嘘…でしょ…!?我々コナー・雪の会がこんな…こんなバカどもに…!!?」
「ジングルベル♪ジングルベル♪」
「グエッ!?(デスサンタの頭突きで吹っ飛ばされる)」
「だ…代表ーッ!!!」
◆
「__そろそろずらかるぞ!」
「はーい!!」
__ブロロロロロ
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
「ああ、いかないで!まりあさま…!!!」
しばらくして、少女とトナカイたちは街宣車に乗って施設を抜け出し、デスサンタもそれを追って消えていった。倒れた会員たちだけがその場に取り残される。
「フ…フフフ…!クハハハ!!どうやら“これ”を使う時が来たようですね!!」
「だ…!代表…!!それは…“念力誘導弾”!!?」
__ピコココココ
代表と呼ばれる女が血走った目でどこかから持ち出してきた兵器らしきものを起動した。
《念力誘導弾》、それは異世界の知識と技術を重ね合わせて作り出されたトンデモ兵器。マナを供給する限り対象をどこまでも追いかけるロケットランチャーであった。
「こんな時のために高い金を払って購入しておいたのです…!」
「しかし!それではまりあさままで…!!」
「心配いりません…!まりあさまの再生力ならば…時間はかかるでしょうがその程度の傷治せるはずです。今はそんなことよりあの異端者どもを皆殺しにしなければなりません!」
__ビキッ!
「我々は舐められてはならない!我々は聖女の威光を世に知らしめなければならない!!そう!我々は__こなあああああああゆきいいいいいいい!!!!!(突然倒れてきたクリスマスツリーの下敷きになる)」
◆◆◆
その転生者は、長い進化の中で“一つ”になり木の姿をとった人類__自らを《ユグドラシル》と名乗るようになった樹木の大きな枝の一本でした。ある日、雷に撃たれてこちらの世界へやってきてしまったみたいです。
怪しい組織に買われてしまった“彼”はそこで一人の少女に出会いました。聡明な頭脳を持つ彼は、たとえ姿が違っていても少女の置かれている状況がいかに非人道的で痛ましいものか理解しました。
義憤に駆られた彼はとある日、少女の抱いていた願いを叶えることにしたのです。
たとえどんな回りくどい手を使ってでも。
◆◆◆
__『この世界から淋しい人が一人もいなくなりますように。』
「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」
「おい!!全然消えねえじゃねえか!どうなってんだ!?」
「…おっかしいなぁ?いけると思ったんだけどなぁ。」
深夜の街を街宣車が走り、それを追うデスサンタが宙を飛ぶ。
「やはりBGMが悪い。これにしてみろ。」
『プワーーーーン(尺八の音)(正月によく流れるアレ)』
「せめてボーカルある曲にしろや!」
「きゃははは!きゃはは!」
言い合っているトナカイをよそに少女はとても楽しそうにしていた。
__『たすけて……たすけて……たすけて。』
「……アンド、ア、ハッピーニューイアー♪」
ふいにデスサンタがスピードを上げ始めた。
「げっ!やばっ!!」
デスサンタは車に追いつき並走しながら少女に微笑みかける。
「__メリークリスマス。」
「うん、メリークリスマス!サンタさん!」
短いやり取りを終えてデスサンタが空に上昇し始めた。その身体は次第に薄くなっていき、やがて消滅した。
「…あれ?デスサンタ消えた?うおおおお!よっしゃ!!なんか知らんが勝った!!」
少女とトナカイたちは車から出て空を仰ぐ。
「うひょー!ようやく自由を手に入れたぜ!」
「しゃあっ!舐めんなよ!トナカイを!」
「フッ…しかし解せんな。一体ヤツは何が条件で顕現し、何を目的としていたのだ?…まさかまた戻ってきたりしないだろうな?」
「おい!変なフラグ立てんな!!」
「まあ、まりあさまのおかげでひとまず助かったってことでいいでしょ。ありがとう、まりあさま。」
「え?…はい!」
「これからどうする?帰りたければ送っていくけど…。」
「……帰りたく、ない。」
少女が俯いてポツリと呟いた。
「…そっか。ま、なんかヤバそうなとこだったしな。……あっ!そうだ!ところでお前ら、今いくら持ってる?」
海野が手のひらに小銭を乗せて目の前に広げた。
「ああ?そんなに持ってねえよ?ほれ。」
__チャリンチャリンチャリン
「…861円、か。」
「大の大人が四人合わせてこれだけとはな。」
「いいや、こんだけありゃ大盛り一杯くらいいける!まりあさま、ラーメン食べに行こう!」
「らあめん!?」
その言葉を聞いて少女がパッと顔を輝かせた。
「ああ、深夜にラーメンを食べることはこの世で最も悪い事とされてるんだ。デスサンタがまた現れないとも限らない。“追い悪事”しとくに越したことはないだろう。どう?来る?」
「うん!!」
差し伸べられた手に少女が満面の笑みを浮かべ応える。
これからどうすればいいかなんてわからない。
それでも今はただただ、言葉でしか知らないラーメンのことで胸が躍っていたのであった。
-終-




