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すてきなサンタさん

 ここは異世界。数多の転生者を受け入れたことで文明が発達し(頼んでもいないのに)クリスマスだのバレンタインだの浮かれたイベントも毎年ちゃっかり開催される。そんな感じの異世界。


 そして、今日はクリスマスイブ。オリジナルとは違ってこの世界にとっては家族で集まってご馳走を食べたり大人が赤いジジイのコスプレをして子供にプレゼントを渡したりするだけのまぁ特に宗教的に強い意味はないイベントである。


「この世界から淋しい人が一人もいなくなりますように。」


 とある少女が室内に建てられた大きな白いクリスマスツリーに祈った。純白の服に身を包んだ明るい髪色の10歳くらいの少女だった。


「おお、まりあさまが祈りを捧げられたぞ!」


「なんと慈悲深い…!今の着メロとかにしたい…!」


 その様子を数名の大人たちが胸に手を当てながら見守っていた。大人たちはユニフォームのように同じ服を着ていてやはりそれらも白色で統一されていた。なんならドーム状のその部屋の一切、家具から部品に至るまで全て白色である。


__コナー・雪の会。


 彼らはある目的のもとに集まった非営利団体であった。


「まりあさま。このクリスマスツリーは異世界から流れ着いてきた特別なものでございます。その祈りは必ずや叶えられるでしょう。貴方の御身をもってして。」


「…はい!」


 まりあと呼ばれた少女は白い服を着た長身の女性の言葉に元気にうなづいた。

 クリスマスツリーの星の先で上方に発せられた妖しい光線に気付かぬまま。



「あっ100円みっけ!!やっほぅ!!!」


 そして、ここは夜の街。寒空の中、自販機の下から小銭をかき出し狂喜乱舞する男の姿がそこにあった。


 男の名前は海野物郎。開店しようとしていた異世界ケバブ屋のメニュー開発中に何故か爆発し屋台もろとも全てを失った既にボロボロの男である。


「…あと200円くらいあればラーメン一杯行けそうだなへへ。」


 そんな海野の周囲が急に影で覆われた。


「ん?」


 後方から何やら大きなものが月明かりを遮っているようだった。


「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪」


 野太い歌声に反応して振り返る。そこに居たのは赤い服を着た巨大な老人__サンタクロースだった。


「お、サンタさんじゃん!そういや今日クリスマスだったな。何?なんかくれんの?」


「ウィ、ウィシュ、ア、メリークリスマス♪(拳を握り振りかぶる)」


「へ?」


__ドゴォッ!!


「ぎゃーーーっ!!?」


 赤色の一閃。サンタの右拳が海野の頭を目掛けて撃ち込まれた。間一髪、海野は拳ひとつ分で避け切ったものの後ろにあった自販機は破壊され大きなクレーターができていた。


「アンド、ア、ハッピーニューイアー♪」


「え…エェーッ!!!?」


 悲鳴をあげると同時に海野は走り出していた。


「なになに!?俺なんかしました!?100円?もしかしてこの100円あんたのだった!?返す返す!返すから!まずは落ち着いて話し合いませんかぁ!!?」


 海野がサンタの顔色を伺うためにちらりと振り返る。しかし、そこには既に誰もいなかった。


__ザザッ


「メリークリスマス♪(海野の首根っこを掴む)」


 突如、死角から現れたサンタにより海野は吊り上げられた。


「ぎゃーーーっ!!!?なんで!?」


「…この世界から、淋しい人が、一人もいなくなりますように。」


「え!?…うぉあっ!!?」


 サンタはそのまま海野を端に面している川に投げ込もうとした。


__ガシッ


 その瞬間、海野が足に力を入れ、靴の裏で川の手すりを掴んだ。自分を掴むサンタの腕をぐっと引き込みその力を利用してサンタを逆に投げ返す。


「うおおお!!!!ぬぁにがメリークリスマスだこの野郎舐めんなよこの俺を!!!」


 サンタは頭から冬の川へ突っ込んでいった。しばらくしても浮かび上がってくる様子もない。


 海野が手すりにもたれかかって一息つける。


「はぁ…はぁ…なんだったんだ今の?」


「ジングルベル、ジングルベル、鈴が、なる♪」


 直後、その歌を歌いながら背後から現れたのはついさっき川に投げ込まれたはずのサンタだった。


「ひぃーーーっ!!?」



「そこのお兄さん!いかがですか!?サービスしますよ、サービス!」


「ああん!?おいおっさん、今何してんのかわかんねえのかぁ!?デート中だぞゴルァ!!」


「まぁまぁ、そう言わずに…ね?」


「ちょっと〜何このおっさん。」


 繁華街の隅でキャッチの男が何やら若いカップルと揉めている。


「いい娘、入ってるんですよぉ。どうです?ほらほら。」


「どうですってこれ“サーモン”じゃねえか!!」


 男が見せたパッドに写っていたのはオレンジに光輝く鮭の切身だった。


「よく見たらこのおっさん魚屋のキャッチじゃん。」


「ああん!?聖なる夜に紛らわしい事してんじゃねえぞこの野郎!!」


「「おりゃ!!」」


「ぐえーっ!」


 カップルによるWキックがキャッチの男に炸裂し、男は吹き飛んだ。

 そのままカップルは立ち去り、男だけがポツリと取り残されていた。


「やっぱ無理だよぉ!クリスマスに魚なんて売れるわけないじゃん!!」


 男の名前は十文小吉。クリスマスになんの予定もない侘しさに耐えかねてなんか変なバイトに応募してしまった男である。


「ちくしょう…やってられっかよぉ…!」


 小さくうずくまる十文に近寄る影があった。


「ん?」


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


 サンタだった。優しい瞳で十文を見つめている。


「あ、あんたは…!はっ…!?」


 十文がサンタの抱えているものに視線を送る。そこにあったのは巨大な冷凍された鮭だった。


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


「励ましてくれているのか…こんな俺を…。」


「アンド、ア、ハッピーニューイアー♪(冷凍サーモンを振りかぶる)」


 次の瞬間、冷凍サーモンによる高速のビンタが十文の両頬を襲った。


__ペシペシペシペシペシペシ


「あばばばばばばばば!」



「今日は、楽しかったです…先輩。」


「ええ。私もよ…。」


 ここはイルミネーションでライトアップされた街の公園。一日を共に過ごしていたであろう男女がいい雰囲気になっていた。


「あの、もしよかったら…これから時間ありますか?」


「どうしたの、急に?」


「話したいことがあるんです…それに、本当はもっと…。(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


「実は、私も…。(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


「先輩…!(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


「後輩くん…!!(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


「……やっぱり今日は帰りましょうか。(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


「……ええ。(視界の隅に下半身に突起についた雪だるまが映り込む)」


 公園のあちこちに乱造された下半身に立派な突起のある笑顔の雪だるまにムードをぶち壊された男女は気まずそうな顔をして帰っていった。


「ぶひゃひゃひゃひゃ!!!フヒィーッ!!!」


 その様子を見てワンカップの酒を片手に爆笑する人影があった。金髪碧眼の美少女のような姿をしたその“男”の名は根鎌源治。肉体が美少女である事以外はただの性格終わってる成人男性である。そして言うまでもなくこの猥褻な雪だるまの製作者だった。


「かーっ!今日も酒が美味え!!やっぱ酒の肴はこれに限るぜ!ガハハ!!」


__ズドーン!!


「ギャーッ!!?なんだ!?」


 突如、雪の塊が根鎌の近くで弾け飛んだ。


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


 サンタである。卑猥な雪だるまを構成していた巨大な雪玉を片手で握りながら次弾の狙いを定めている。


「なんだこの野郎!やるかジジイ!!」


 根鎌も対抗して雪だるまを解体し大玉を作り始めた。


「おらおらおらおら!!!!」


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


 真冬の公園に雪の塊が飛び交う。弾幕はしばらく拮抗していたものの徐々にサンタ側が勢いを増していく。


「ぐおおおお!くそったれがァァァ!!!」


「アンド、ア、ハッピーニューイアー♪」


 やがて根鎌は大量の雪の中に埋もれていった。



「ママ、サンタさん!」


「あらあら〜!」


 母親の手を引く子供が長い白髪と赤色の派手な格好をした男を指差してはしゃぎ出す。


「サンタ…だと?ククク…この姿がサンタに見えたか?」


「え?」


 男がマントを翻して振り返る。よく見ると羽織っているそれは紅白の垂れ幕であり、その下は袴、帽子のように頭に載せているのは鏡餅だった。


「謹!賀!新!年!」


「うわぁ!」


 男はどこからともなくメガホンを取り出して喋り始めた。


『いいか少年よ、クリスマスなどと言うものは堕落を生み出すだけの悪の催事だ!健全な日本男児(?)であるならば!家に帰って正月の準備に勤しむべし!!』


「ママ〜ッ!!」


 親子はすぐさま逃げていった。


「…ふん、嘆かわしい。よもやこの世界もあのような浮かれたイベントに毒されているとは。やはりここはこの俺が正月のありがたみを啓蒙していくしかないようだな…そう、この“正月大使”として!!フハハハハ!!!」


 男の名は佐渡一。クリスマスを忌み嫌うあまり正月の威を借りてクリスマス・キャンセルを試みる哀しき怪人である。


__ザザッ


「ん?」


 そんな佐渡の目の前に突如巨大な赤い影が現れた。


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


 サンタだ。笑顔はそのまま今度は右手にマチェットを装備している。


「き…貴様は…!!サンタクロース…!!」


「ウィ、ウィッシュ、ア、メリークリスマス♪」


「ククク…フハハハハ!!!まさか貴様の方からノコノコ現れるとはな!!この俺が貴様を倒してクリスマスを終わらせてやる!!」


 佐渡がどこかからともなく取り出した羽子板を両手に持って構える。サンタはニコニコしながらゆっくりと間合いを詰めていた。


「シェーッ!!覚悟ォ!!」


「アンド、ア、ハッピーニューイアー♪(スパッ)」


「……ん?(身につけているもの全てがバラバラになる)」


 目にも止まらぬ速さで振るわれたマチェットに一瞬にしてほぼ全裸にされた佐渡はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


「……。(無言で走り去る)」



「うおおおお!!なんだアイツ!?なんなんだアイツ!!?」


 雪の中をサンタに追われ続ける海野が全力疾走する。


「チクショー!!俺が何したってんだよ!!」


 並走する形で両頬を真っ赤に腫らした十文が現れる。


「うおわっ!!お前なんでマッパなんだよ!!?バカじゃねーの!!?」


「誰が好き好んでこんな真冬にマッパになるか!あのサンタに身ぐるみを剥がされたのだ!」


 続いて雪玉に胴体を突っ込んだままの根鎌と両手で胸を覆い隠す全裸の佐渡もやってきた。


「お前ら!?なんでここに!?」


「知らねえよ!俺はただ労働に勤しんでただけなのにあのサンタが襲いかかってきたんだ!」


「え、まさかお前らも!?」


「あれはもはやサンタではない…!死を呼ぶサンタ、《デスサンタ》だ!」


「うるせえよ!」


「フォッフォッフォッフォ!」


「「「「ひぃっ!!」」」」


 サンタ__もといデスサンタが腕を大きく振りながら障害物をものともせず笑顔で四人に突進してくる。


「「「「ぎゃああああああ!!!!」」」」



「まりあさま、“手術”の準備が整いました。」


「…ええ、とうとうその時が来たのですね!これで世界中の可哀想な人たちが救われる!」


「手術は日付の変更と共に始まります。今はどうかお眠りになってください。目が覚める頃にはまりあさまは天の国に迎えられている事でしょう。」


「はーい!たのしみ!」


 まりあが白いベッドの上に寝転がる。部屋は暗くなり小型のプラネタリウムが満点の星空を映し出した。


 その様子を会員たちが遠巻きに見つめている。


「…ああ。お労しや、まりあさま。“再生”の転生者能力を得たばかりにこのような使命を担うことになってしまうとは。」


「ええ。ですが幸いなことにまりあさまは赤子の時に保護されて外の世界を詳しくは知らされずに過ごしてきたのです。」


「そしてまりあさまにとっての幸福はその身体を世界に捧げることであると幼少の頃より繰り返し説いて参りました。今となってはその使命に恐怖を感じることもありますまい。」


「なに、心配することはございません。手術の際に特殊な処理を施し、まりあさまには永遠の夢を見ていただくのです。」


「まりあさまの“御身”は世界中に届けられ病魔に苦しむ人々を救うでしょう。そして“聖女”として未来永劫崇め奉られるのです。」



「ジングルベル、ジングルベル、鈴がなる♪」


「うおおおおお!!!」


 デスサンタから逃げ回る四人は経営難で閉鎖されたデパートの廃墟に転がり込んだ。


「今日は〜楽しい〜クリスマス〜♪(遠ざかる歌声)」


 四人を見失ったらしいデスサンタはそのまま廃墟を通り過ぎていく。


「撒いたか…!?」


「いや(ガクガク)…ヤツの追跡能力なら(ブルブル)…ここに来るのも時間の問題だろう……

それより何か着るものを探さないか!!?」


 全裸で寒さに震える佐渡が叫ぶ。


「うるせえよ、その辺の布でも巻いとけ!この変態野郎!」


「だから!好きでこんな格好してるわけでは__」


「お、おい!お前ら、これ見ろ!いいもんみっけた!」


 根鎌が奥の部屋から埃の被った衣装ボックスのようなものを取り出してきた。


「なんだよ源ちゃん。」


「ほら!これ!」


 根鎌が箱を開ける。


「こいつは…。」


「ふひひ…“ワンチャン”ありそうだろ?」


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