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人間と亡者の十二宮  作者: 漣 時雨


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三十七話目 誰そ彼

無量は一人残された。

みんなは雁瀬先生に言われるまま気を失った先生達を担いで行った。今頃はパソコン教室だろう。

いくら大きな館だとは言え、この通路では無量の巨体には自由な動きがとれない。

尾びれで走れない場木も一緒に残ろうとしたが、阿戸鳴に乗せてもらうよう頼んで追い返した。

クラスも違うし、別にそこまで仲が良い子じゃないけど。だからこそ、気を遣ってもらうのは気持ち悪い。同情なんて嫌い。

こつんととがった足で床を叩いた。


雁瀬先生が扉を閉めた後にはもうすでに日は姿を消していて、あっという間に辺りは暗くなった。もう夜だ。

無量は身体を旋回し、中庭をのぞき込んだ。

暗闇の中、煌々と明かりが灯っている扉の破れた教室。

「陽光が足りなくなったら、早く帰る」

自分に言い聞かせるように独り言は大きな声だった。

後ろの扉は謁見の部屋。開く気配どころか物音もせず、王様の気配はない。

かといって、王様が消えた瞬間を見たわけでもない。いつ後ろから襲ってくるかと考えると身体の中心が熱っぽくなる。


「ナア」

いきなり声をかけられ意識がはね飛びそうになったが、よく知った声なので驚きを隠すように身体の向きを変える。

「雁瀬先生ですか」

暗闇でいくら目をこらしても、目前にいるらしき人物の姿は分からない。

真っ黒な瞳をしばたかせても、無理なものは無理だ。

声をかけてきた人物は何も言わず、無量の頭の上に何かをのせた。

ひっくり返さないように条件反射でバランスをとる。

「何なのこれ」

するとじんわり視界が広がっていく。けれど、自分の影でほとんど足下が見えない部分的な視界にはかえって恐怖を感じる。。

うっすらと雁瀬先生らしき人物が見える。

「ランタンだ。使いなさい」

何故そんなものをいきなり人の頭に乗っけたのか、問いただしたい所だが先生はそれだけ言うと扉を開けて部屋の中に入っていった。

部屋というのは謁見の間。先ほどまで陰気な王様が変な紋様を描いていた部屋。

「早く教室に戻った方が良いヨ」

無量がのぞき込もうとすると、頭に乗せた光が届く前に内側から締め切られてしまった。

「先生?」

ハサミを外側にふり、ノックを試みる。応答の気配はない。

ランタンが重くなってくる。首が痛い。

「首?」

気がつくと人の身体を取り戻しつつあった。

「やば」

変身していない状態では暗闇に同化している影に襲われるかもしれない。

先生も早く戻れと言っていたことだ、無量は頭にのったランタンを手に持ち替え廊下を走った。


「あれ、もう平気なのか?」

教室に着くと、椅子に座ったまま伸びをした神部と一番最初に目があった。

掲げていたランタンを下げ、首を縦に振る。

「もう変身は治ったみたい」

教室内に入ると何か違和感を感じる。

それが何なのかよく分からない。阿戸鳴は運び疲れたのかぐったりしている。気絶した実習生二人は今度は床に転がっている。椅子に寝かせるまで手助けする力が残っていなかったのだろう。側の椅子には場木がやっぱり尾びれを床に垂らしていた。

一番奥には雁瀬先生が何かノートに書いている。

それだ。

「先生。謁見の部屋にいたんじゃないですか?」

声を荒げて近寄ると、鬱陶しそうな顔をされた。

「何を言っているのだね」

眉間にしわを寄せ、邪魔をするなと言いたそうだ。

言葉が見つからず口をぱくぱくさせる無量を尻目に、雁瀬先生は手元に視線を戻した。

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