久しぶりの笑顔
第49話「久しぶりの笑顔」
待ち合わせ場所は、京都市内の落ち着いた和食店だった。
梨花が少し早めに着くと、徳田薫はすでに店の前で待っていた。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
高校時代の面影を残しながらも、少し大人びた雰囲気。
梨花は少し緊張していた。
*
席に着き、料理が運ばれてくる。
最初は高校時代の話だった。
文化祭。
担任の先生。
試験前の教室。
懐かしい名前がいくつも出た。
そして、ふと梨花が聞いた。
「徳田くんは、恋人いるの?」
薫は少し笑った。
「まだ僕はフリーですけど?」
「そうなんや〜」
梨花は少し間を置いた。
「まぁ、うちもいろいろあってね」
薫は黙って聞いていた。
「結婚してたけど、旦那に裏切られてね」
「……」
「うちも今はフリーや」
無理に明るく言ったわけではない。
でも、昔より少し穏やかに話せた。
*
薫は深く踏み込まなかった。
ただ、静かにうなずいた。
「話してくれてありがとう」
その一言が、梨花にはありがたかった。
同情でも詮索でもない。
ただ受け止める言葉。
*
薫はグラスを持った。
「じゃあ、久しぶりの再会を祝って乾杯しますか」
「え?」
「梨花さんは、お酒大丈夫?」
「まぁ、大丈夫やけど?」
薫は少し笑った。
「じゃあ」
グラスを軽く掲げる。
「大人の再会に乾杯」
梨花も笑った。
「乾杯」
*
久しぶりに、食事が楽しかった。
料理の味をちゃんと感じた。
会話に身構えなくてよかった。
何を言われるか怖がらなくてよかった。
笑ったあとに、責められることもなかった。
*
帰り道。
薫は梨花を実家の旅館まで送ってくれた。
「今日はありがとう」
梨花が言うと、薫は首を振った。
「こちらこそ。楽しかった」
「私も」
その言葉を言えた自分に、梨花は少し驚いた。
*
旅館の前。
薫は穏やかに言った。
「また、よかったらご飯行こう」
梨花は少しだけ照れながらうなずいた。
「うん」
*
玄関を開けると、奥から麻里子の声がした。
「お姉ちゃーん、おかえりー」
声が完全にニヤけている。
梨花は思わず言った。
「ただいま。あと、うるさい」
麻里子の笑い声が響いた。
*
久しぶりの笑顔。
それは派手な恋の始まりではなかった。
でも、梨花にとっては大きな一歩だった。
誰かと安心して笑える。
その感覚が、ゆっくり戻ってきていた。
*
次回予告
第50話「笑えた日」
徳田薫との再会が、梨花の心に小さな灯りをともす。
一方、一絵は旅館で初めて自分の料理を客に褒められる。
麻里子は姉の変化を嬉しそうに見守る。
次回、
第50話「笑えた日」
笑える日は、ちゃんと戻ってくる。




