再出発の朝
第48話「再出発の朝」
麻里子と陽介の結婚式から二週間。
新婚旅行で訪れていた南太平洋の島国・ニューカレドニアから、二人が帰ってきた。
*
土曜日の昼。
篠田家の旅館。
玄関が開く。
「ただいまー!」
元気な声と共に入ってきたのは麻里子。
その後ろには大きなスーツケースを引く陽介。
「お帰り」
七海が笑顔で迎える。
「どうやった?」
「最高やった!」
麻里子は満面の笑みだった。
*
「はい、お土産」
「おぉー」
光博が目を細める。
「これはニューカレドニアのコーヒー」
「ほう」
「こっちはチョコレート」
「おぉ」
「こっちは陽介が値段見ずに買って震えてたやつ」
「言うなや!」
旅館中に笑い声が響いた。
*
そんな中。
二階から降りてきた梨花を見た麻里子が立ち止まった。
「ん?」
梨花は普段より少しおしゃれな服。
髪も丁寧に整えている。
薄く化粧もしていた。
バッグもいつもと違う。
*
麻里子はニヤッと笑った。
「お姉ちゃん」
「な、なに?」
「どっか行くん?」
「まぁ……ちょっと」
「ふーん」
麻里子の目が細くなる。
*
「お姉ちゃん」
「なに」
「なんかいいことあった?」
「は?」
「なんかいいことあった?」
「ない」
「絶対ある」
「ない」
「ある」
「ないって!」
*
麻里子はさらに近づく。
「もしかして」
「何よ」
「男?」
梨花の肩がビクッと動いた。
*
「図星や」
「違う!」
「図星や」
「違うって!」
「誰?」
「だから違うって!」
*
完全に挙動不審だった。
陽介が横で苦笑する。
「麻里子、やめたれ」
「いやいや、これは聞かなあかんやろ」
*
麻里子は腕を組んだ。
「お姉ちゃん」
「……」
「誰なん?」
梨花は顔を真っ赤にした。
「べっ……別に……」
「うん」
「なっ……何にもないわよ!」
盛大に噛んだ。
*
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「ぶははははは!!」
麻里子大爆笑。
陽介も吹き出した。
七海も笑いをこらえられない。
光博はお茶を吹きそうになった。
*
「お姉ちゃん正直やねぇ~」
「うるさい!」
「完全に何かあるやん」
「ない!」
「今までそんな慌て方したことないやろ!」
*
麻里子はニヤニヤしながら言った。
「徳田さん?」
梨花が固まる。
「…………」
「徳田さんやな」
「……」
「徳田さんや」
*
「何で知ってんのよ!」
ついに梨花が叫んだ。
麻里子は腹を抱えて笑う。
「わかりやすすぎる!」
*
七海も笑いながら言った。
「梨花」
「なによ」
「楽しんでおいで」
光博もうなずく。
「そうやな」
*
梨花は少し照れながら笑った。
「まだそんなのじゃないから」
「はいはい」
麻里子は全く信じていなかった。
*
玄関へ向かう梨花。
久しぶりだった。
誰かと会う約束が楽しみなのは。
不安がゼロなわけではない。
怖さも少しある。
でも。
それ以上に。
少しだけ胸が弾んでいた。
*
玄関を出る直前。
麻里子が後ろから叫ぶ。
「お姉ちゃーん!」
「なによ!」
「楽しんでこーい!」
「うるさい!」
*
その声を背中で聞きながら。
梨花は少し笑った。
再出発の朝は、思ったより明るかった。
*
次回予告
第49話「久しぶりの笑顔」
徳田薫との食事。
高校時代の思い出話。
仕事の話。
そして、それぞれが歩いてきた人生の話。
無理に恋をしなくていい。
でも、誰かと笑い合うことは悪くない。
次回、
第49話「久しぶりの笑顔」
笑顔は、忘れた頃に戻ってくる。




