麻里子の証言
第38話「麻里子の証言」
精神科医の前に、新たな資料が置かれた。
麻里子の証言。
梨花がどのように変わっていったのか。
笑い方が弱くなったこと。
声が細くなったこと。
何かにつけて謝るようになったこと。
「大丈夫」と言いながら、本当は壊れかけていたこと。
*
精神科医は、その証言をもとに治療方針を決めていった。
怒りの制御。
責任転嫁の修正。
他者の痛みを理解するための面接。
被害者視点を学ぶ心理教育。
自分がしたことを、都合よく薄めずに見つめ直す訓練。
*
診察室。
大輝は資料を見て、顔を歪めた。
「こいつが大事にした張本人や」
精神科医は静かに顔を上げた。
「違います」
大輝は黙る。
「それは、あなたが先に二人の女性の人権を踏みにじった結果です」
大輝の表情がこわばる。
*
医師は続けた。
「梨花さんを傷つけた」
「一絵さんを騙した」
「麻里子さんを侮辱した」
「生まれてくる命を軽んじた」
「その一つ一つが、今の結果につながっています」
*
大輝は唇を噛んだ。
「でも……」
「でも、ではありません」
精神科医の声は穏やかだったが、逃げ場はなかった。
「あなたが自分の罪を認めなければ、出所後も同じことを繰り返す可能性があります」
「……」
「そうなれば、再び厳しい措置が取られます」
*
医師は、最後に強く告げた。
「もうこれ以上、罪を重ねるのはやめなさい」
大輝は何も言えなかった。
麻里子の証言は、単なる告発ではなかった。
梨花が沈黙していた痛みに、名前を与えるものだった。
*
次回予告
第39話「父の怒り」
梨花の父・光博は、娘がどれほど傷ついていたかを改めて知る。
一方、大輝の父・俊也も、息子の罪と向き合い続けていた。
二人の父親は、それぞれ違う形で怒りと悲しみを抱える。
次回、
第39話「父の怒り」
父の怒りは、守れなかった悔しさでもある。




