録音された言葉
第37話「録音された言葉」
刑務所内の診察室。
大輝は精神科医の前に座っていた。
最初の診察では、まだこう言っていた。
「俺も追い詰められてたんです」
「俺だけが悪いわけじゃない」
「みんな大げさにしたんです」
だが、医師の前に並べられた記録は、その言葉を許さなかった。
*
録音された暴言。
梨花への侮辱。
看護師という仕事への偏見。
麻里子への嘲笑。
一絵への嘘。
妊娠を告げた一絵に向けた、命を軽んじる言葉。
SNSでの責任転嫁。
そのすべてが、診断資料として提示された。
*
医師は静かに言った。
「あなたは、自分の苦しさを理由に、他人を傷つけ続けています」
大輝は黙る。
「問題は、感情があったことではありません」
「……」
「感情を制御せず、他人を支配し、傷つけ、さらに責任を押しつけたことです」
*
診断は下った。
反省能力の乏しさ。
責任転嫁傾向。
自己中心的な認知の強さ。
他者への共感性の低さ。
怒りの制御不全。
治療と継続的な心理教育が必要。
精神科医は、大輝に告げた。
「あなたに必要なのは、自分がかわいそうだと訴えることではありません」
大輝は顔を上げる。
「自分が何を壊したのかを、逃げずに見ることです」
*
一方、梨花は実家で、かつての録音を聞き返していた。
《お前は何もできない》
《看護師なんて適当に――》
《妹に頼らな何もできへんな》
胸は痛んだ。
でも、今は違う。
あの言葉を聞いても、自分が悪いとは思わなかった。
*
梨花は録音を止めた。
そして小さく言った。
「私は、よく耐えてた」
七海がそばでうなずいた。
「うん。ほんまによく耐えた」
*
言葉は消えない。
傷つけた人間のもとへ、いつか必ず返ってくる。
大輝はその事実と、ようやく向き合わされ始めていた。
*
次回予告
第38話「麻里子の証言」
麻里子は改めて、姉がどれほど壊されかけていたかを語る。
姉を守るために記録を勧めた日。
探偵を使うと決めた日。
そして、梨花が初めて「大丈夫じゃない」と言えた日。
次回、
第38話「麻里子の証言」
誰かの証言が、沈黙していた痛みに名前を与える。




