↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の琵琶湖 ― 壊れた日常の向こうへ ―  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/56

録音された言葉

第37話「録音された言葉」


 刑務所内の診察室。


 大輝は精神科医の前に座っていた。


 最初の診察では、まだこう言っていた。


「俺も追い詰められてたんです」


「俺だけが悪いわけじゃない」


「みんな大げさにしたんです」


 だが、医師の前に並べられた記録は、その言葉を許さなかった。


     *


 録音された暴言。


 梨花への侮辱。


 看護師という仕事への偏見。


 麻里子への嘲笑。


 一絵への嘘。


 妊娠を告げた一絵に向けた、命を軽んじる言葉。


 SNSでの責任転嫁。


 そのすべてが、診断資料として提示された。


     *


 医師は静かに言った。


「あなたは、自分の苦しさを理由に、他人を傷つけ続けています」


 大輝は黙る。


「問題は、感情があったことではありません」


「……」


「感情を制御せず、他人を支配し、傷つけ、さらに責任を押しつけたことです」


     *


 診断は下った。


 反省能力の乏しさ。


 責任転嫁傾向。


 自己中心的な認知の強さ。


 他者への共感性の低さ。


 怒りの制御不全。


 治療と継続的な心理教育が必要。


 精神科医は、大輝に告げた。


「あなたに必要なのは、自分がかわいそうだと訴えることではありません」


 大輝は顔を上げる。


「自分が何を壊したのかを、逃げずに見ることです」


     *


 一方、梨花は実家で、かつての録音を聞き返していた。


《お前は何もできない》


《看護師なんて適当に――》


《妹に頼らな何もできへんな》


 胸は痛んだ。


 でも、今は違う。


 あの言葉を聞いても、自分が悪いとは思わなかった。


     *


 梨花は録音を止めた。


 そして小さく言った。


「私は、よく耐えてた」


 七海がそばでうなずいた。


「うん。ほんまによく耐えた」


     *


 言葉は消えない。


 傷つけた人間のもとへ、いつか必ず返ってくる。


 大輝はその事実と、ようやく向き合わされ始めていた。


     *


次回予告


第38話「麻里子の証言」


 麻里子は改めて、姉がどれほど壊されかけていたかを語る。


 姉を守るために記録を勧めた日。


 探偵を使うと決めた日。


 そして、梨花が初めて「大丈夫じゃない」と言えた日。


 次回、

第38話「麻里子の証言」


 誰かの証言が、沈黙していた痛みに名前を与える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。