証拠もないくせに
第28話「証拠もないくせに」
一幸が生まれた知らせは、弁護士を通じて大輝にも伝えられた。
男の子。
名前は、一幸。
その一文を読んだ大輝は、しばらく黙っていた。
*
塀の中。
大輝は初めて、自分に子どもが生まれた現実を知った。
しかし面会室で口にしたのは、またしても責任から逃げる言葉だった。
「本当に俺の子なんか」
弁護士は静かに言った。
「その発言は、さらに不利になります」
「でも証拠もないくせに」
「あります」
大輝は顔を上げた。
「親子関係の確認手続きも進められます。養育費の決定も出ています」
大輝は何も言えなくなった。
*
一方、京都の旅館では、一幸を囲む日々が始まっていた。
一絵は慣れない育児に戸惑いながらも、必死に母になろうとしていた。
菊江が抱っこを代わり、一也がミルクを作る。
七海は布団を整え、光博は一絵が食べやすい料理を用意する。
麻里子は一幸を見て笑った。
「この子、泣き声強いなぁ」
梨花もそっと頬を緩める。
「生きる力があるんやね」
*
一絵は、一幸を抱きながら梨花に言った。
「梨花さん、私、ちゃんと育てます」
梨花はうなずいた。
「一人で全部背負わなくていいよ」
「でも……」
「一幸くんは、みんなで守るって決めたやん」
一絵の目に涙が浮かぶ。
「はい」
*
夜。
梨花は一幸の寝顔を見ていた。
大輝の嘘から始まった痛み。
壊された結婚。
裏切られた日々。
それでも、この小さな命は、嘘より強かった。
梨花は静かにつぶやいた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
*
次回予告
第29話「家を出る準備」
一幸の誕生をきっかけに、一絵は新しい生活へ踏み出す準備を始める。
梨花もまた、実家に守られるだけではなく、自分の足で立つ道を考え始める。
次回、
第29話「家を出る準備」
守られた場所から、歩き出す日が来る。




