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沈黙の琵琶湖 ― 壊れた日常の向こうへ ―  作者: リンダ


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それぞれの明日

第25話「それぞれの明日」


 判決から数日後。


 京都の老舗旅館に、梨花、麻里子、一絵、そして両家の家族が集まった。


 名目は、お疲れ様会。


 けれど本当は、ここから先をどう生きていくかを、皆で確かめるための食事会だった。


     *


 料理長の光博が腕を振るった料理が並ぶ。


 七海は女将としてではなく、母として、一人ひとりにお茶を注いだ。


 一絵は少し緊張した表情で座っていた。


 その隣には父の一也、母の菊江。


 向かいには梨花と麻里子。


     *


 しばらくして、七海が静かに言った。


「一絵さん」


「はい」


「お腹の赤ちゃんは、私たちも一緒に育てていきましょう」


 一絵は目を見開いた。


「え……」


 七海は優しく笑った。


「もちろん、一絵さんのお父さんお母さんが一番近くで支える。でも、私らも他人事にはせえへん」


 菊江の目に涙が浮かぶ。


 一也も黙って頭を下げた。


     *


 光博が続けた。


「一絵さん、出産が終わって、体力が戻ったらな」


「はい」


「ここで仕事をするか?」


 一絵は驚いた。


「本当にいいんですか?」


 光博は即答した。


「いいに決まってる」


 七海もうなずく。


「赤ちゃんは宝やから」


 一絵は口元を押さえた。


 涙がこぼれる。


「私……梨花さんを傷つけたのに」


 梨花は首を振った。


「一絵さんも騙されてた」


 麻里子も言う。


「大事なのは、ここからどう生きるかやと思う」


     *


 一絵はお腹に手を当てた。


「ありがとうございます」


 菊江は泣きながら頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます」


 七海はその手を握った。


「泣かんでええ。これから忙しくなるよ。赤ちゃんがおったら、毎日てんやわんややから」


 麻里子が少し笑う。


「旅館に赤ちゃんいたら、絶対みんな甘やかすやつやん」


 光博が真顔で言う。


「俺は甘やかさん」


 七海が即答した。


「嘘つき」


 その場に、小さな笑いが起きた。


     *


 梨花はその笑い声を聞いていた。


 傷は消えていない。


 でも、食卓には温かさが戻っていた。


 壊されたものはある。


 戻らないものもある。


 それでも、これから作れるものもある。


     *


 食事会の終わり。


 一絵は梨花に頭を下げた。


「梨花さん、本当にありがとうございます」


 梨花は静かに答えた。


「一緒に、生き直しましょう」


 一絵は泣きながらうなずいた。


     *


 裁きのあとにも、朝は来る。


 そしてその朝は、誰かと支え合うことで、少しだけ優しくなる。


     *


次回予告


第26話「心が決まる日」


 梨花は正式な離婚手続きへ進む。


 もう迷わない。


 一絵は出産に向けて準備を始め、麻里子は姉の再出発を支える。


 次回、

第26話「心が決まる日」


 終わらせることは、前へ進むことでもある。

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