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沈黙の琵琶湖 ― 壊れた日常の向こうへ ―  作者: リンダ


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夏の琵琶湖後編→論告求刑→判決へ

第23話後半〜第24話「夏の琵琶湖」再構成


論告求刑、そして判決へ


 法廷は静まり返っていた。


 検察官が立ち上がる。


 大輝は被告席でうつむいていた。


 梨花、一絵、麻里子。


 三人は傍聴席に並んで座っている。


 その後ろには、光博、七海、一也、菊江、俊也、祥子。


 誰も声を発しない。


     *


 検察官は、淡々と事件の経緯を述べた。


「被告人は、妻である葛城梨花さんに対し、長期間にわたり侮辱的発言、威圧的言動を繰り返しました」


「さらに、独身であると偽り、立花一絵さんと交際関係を持ち、結婚を約束しました」


「発覚後も、被害者らへ謝罪するどころか、SNS上で責任を転嫁し、名誉を傷つける投稿を重ねました」


 梨花は膝の上で手を握った。


 言葉として整理されるたび、あの日々がもう一度胸に刺さる。


     *


 検察官は続けた。


「被告人の言動には、真摯な反省が見られません」


「むしろ、責任を妻に押しつけ、妊娠した女性に対しても極めて冷淡な発言を行いました」


 一絵はお腹に手を置いた。


 菊江がそっと肩を抱く。


     *


 そして検察官は、求刑を述べた。


「以上を踏まえ、被告人に対し、懲役三年を求刑します」


 法廷に、重い沈黙が落ちた。


 大輝の肩が小さく震える。


     *


 その後、民事の審理も進んだ。


 会社からは、重大な信用毀損と業務上の混乱に対する損害賠償として、一億二千万円が請求された。


 そして梨花、麻里子、一絵の三人に対しては、精神的苦痛、名誉毀損、侮辱、調査費用、弁護士費用などを含めた賠償金が認められ、それを三人で三分の一ずつ分け合う形となる。


 大輝は、数字を聞いて呆然としていた。


 金額の重さ。


 刑罰の重さ。


 社会的責任の重さ。


 ようやく、それらが自分の前に壁となって立ちはだかっていた。


     *


 判決の日。


 裁判長は大輝に向かって告げた。


「被告人を懲役三年に処する」


 大輝は顔を上げた。


「執行猶予は付さない」


 その瞬間、大輝の表情が崩れた。


     *


 続いて民事判決。


「被告は、勤務先会社に対し、損害賠償金一億二千万円を支払え」


「また、梨花さん、麻里子さん、一絵さんに対し、それぞれ認定された損害について支払いを命じる」


 梨花は目を閉じた。


 勝った、とは思わなかった。


 ただ、ようやく自分たちの傷が「なかったこと」にはされなかった。


 そう思った。


     *


 裁判長は最後に、大輝へ説諭した。


「あなたは、人を裏切ることの重さを理解していませんでした」


「妻の尊厳を傷つけ、別の女性を騙し、さらに生まれようとする命までも軽んじようとしました」


 大輝はうつむく。


「信頼を壊すことは、人生を壊すことです」


「言葉は、人を深く傷つけます」


「命は、あなたの都合で扱ってよいものではありません」


     *


 裁判長は静かに言った。


「刑務所の中で、自らの行いと真摯に向き合いなさい」


「控訴によって責任から逃げることを考える前に、まず反省することです」


 大輝は何も言えなかった。


     *


 閉廷後。


 梨花は法廷を出て、琵琶湖へ向かった。


 夏の風が吹いていた。


 水面がきらきら光っている。


 傷は消えない。


 でも、沈んだままではない。


 梨花は湖を見つめ、小さく息を吐いた。


「私は、ここから生き直す」


 風が、前から吹いていた。


⸻


次回予告


第25話「それぞれの明日」


 判決は下った。


 だが、梨花、一絵、麻里子の人生は続いていく。


 傷を抱えながら、それぞれが新しい日常へ踏み出す。


 次回、

第25話「それぞれの明日」


 裁きのあとにも、朝は来る。

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