↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の琵琶湖 ― 壊れた日常の向こうへ ―  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/56

父たちの怒り

第12話「父たちの怒り」


 マンション前。


 重苦しい空気が流れていた。


 一絵の妊娠。


 大輝の嘘。


 梨花への裏切り。


 すべてが明るみに出た。


 だが。


 大輝はまだ、自分が何をしたのか理解していなかった。


     *


「妊娠三ヶ月です」


 一絵は涙を流しながら言った。


「病院でも確認しました」


 その言葉に、大輝は青ざめた。


 しかし次に出た言葉は、誰も予想しなかったものだった。


「……本当に俺の子なんか?」


 一瞬。


 全員が固まった。


「他にも男おるかもしれんし」


     *


 パンッ!!


 乾いた音が響いた。


 一絵の父・一也の平手だった。


 大輝の顔が横へ弾かれる。


「お前!!」


 一也の顔は怒りで真っ赤になっていた。


「人の娘を何やと思っとるんや!!」


 大輝は頬を押さえる。


「いや、俺は……」


「ふざけるな!」


 一也の声が響く。


「独身やと騙して近づいて!」


「……」


「結婚する言うて!」


「……」


「妊娠したら今度は疑うんか!!」


 一也の肩は震えていた。


「お前、人として最低やぞ!」


     *


 一絵は泣いていた。


 父の後ろで。


 大輝を見ていた。


 好きだった男。


 信じていた男。


 結婚すると思っていた男。


 その男が今、自分のお腹の子まで疑った。


「大輝……」


 一絵の声は震えていた。


「そんな人やったん……」


     *


 大輝は何も言えない。


 だが。


 さらに厳しい視線が向けられていた。


 梨花の父・光博だった。


     *


 光博は静かに前へ出た。


 怒鳴らない。


 だがその静けさが、かえって恐ろしかった。


「大輝くん」


 大輝は顔を上げた。


「……」


「結婚する時、何て言ったか覚えとるか」


 大輝は答えない。


 光博は続けた。


「うちへ挨拶に来た時」


「……」


「梨花さんを幸せにします」


 光博の声は低かった。


「そう言ったよな」


 大輝は黙ったままだった。


「答えろ」


「……はい」


「幸せにできたんか?」


 大輝は何も言えない。


     *


 光博は探偵から受け取ったファイルを開いた。


「これ、見たことあるか」


 テーブル代わりに使われた車のボンネットの上に並べられる。


 写真。


 報告書。


 録音記録。


 スクリーンショット。


     *


「残業と言いながらホテルへ行った日」


 写真が置かれる。


「休日出勤と言いながら京都で会っていた日」


 写真が置かれる。


「梨花に暴言を吐いた録音」


 音声データ。


「看護師の仕事を侮辱した記録」


 文字起こし。


「手を上げようとした映像」


 動画。


     *


 光博は一枚ずつ並べていく。


「これ全部、嘘か?」


 大輝は答えられない。


「これも嘘か?」


 答えられない。


「これもか?」


 答えられない。


     *


 七海は涙を浮かべていた。


「梨花はな」


 七海の声が震える。


「ずっと待ってたんや」


 大輝は顔を伏せる。


「夜遅くまで」


「……」


「ご飯作って」


「……」


「心配して」


「……」


「それをお前は何した」


     *


 祥子も涙を流していた。


 自分の息子だった。


 信じていた。


 ちゃんと育ったと思っていた。


 それが今。


 妻を傷つけ。


 別の女性を騙し。


 生まれてくる子まで疑っている。


     *


「大輝」


 祥子の声は震えていた。


「お母さん、本当に情けない」


 大輝は顔を上げられない。


「こんなことする子に育てた覚えない」


     *


 俊也も口を開いた。


「お前」


 その声には怒りが滲んでいた。


「今まで何回、謝る機会あった」


 大輝は黙る。


「梨花さんが聞いた時」


「……」


「親に話した時」


「……」


「今日ここで問いかけられた時」


「……」


「全部捨てたんやぞ」


     *


 大輝は唇を噛んだ。


 逃げ場はない。


 証拠はある。


 家族もいる。


 一絵の両親もいる。


 それでも。


 まだ認めたくない気持ちが残っていた。


     *


 梨花はそんな大輝を見ていた。


 涙はもう出なかった。


 代わりに残っていたのは。


 静かな失望だった。


「大輝」


 梨花が呼ぶ。


 大輝は顔を上げた。


「私はもう決めた」


 その言葉に。


 大輝は初めて嫌な予感を覚えた。


     *


 梨花の中で。


 何かが完全に終わろうとしていた。


     *


次回予告


第13話「もう戻れない」


 梨花はついに離婚の意思を告げる。


 だが大輝はなおも責任から逃げようとする。


 一方、一絵はお腹の命を守る決意を固める。


 そして探偵が提出した決定的な証拠が、大輝をさらに追い詰める。


 次回、


第13話「もう戻れない」


 失った信用は、謝罪だけでは戻らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。