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暗殺の魔女は、若菜を摘む。  作者: 彩奈杏
03.職人街編
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3-3 醜い争い


 ヒーアリックが大変な思いをしながらラウールの護衛をしているその一方、王都の一等地にある邸宅ではーー。


「ふわぁ……。ふかふかのベッド、最&高……」

 ナズナがパジャマ姿のまま、広いベッドの上でゴロゴロと転がっていた。


 サイドテーブルの上には、ヒーアリックが手配した出来立ての温かい料理と、山盛りの焼き菓子。

 その横では、小さな白ネズミが器用にクッキーを両手で持ち、満足げにサクサクと齧っている。


「ご飯の心配もしなくていいなんて……。王都、天国すぎるなぁ……」

 ナズナは至福の表情で再び目を閉じた。


「ねぇねぇ、ナズナ~。なんで王都なんか来たのぉ~?」

「そうよ、ご主人様!こんな綺麗なとこいたら、全っ然、猛獣食べれないじゃない!」


 白ネズミと、窓際にいた黒猫がナズナに文句を言いつけた。


「猛獣って……あれ、調理するの大変じゃぁん……」

「もー!ご主人様、あれがアタシの主食!あの森の狂暴な魔獣の肉は引き締まってて最高だったんだから!ここにあるご飯も美味しいけど……やっぱり野生の血が足りない!」

 黒猫のミーシャは、可愛らしい見た目とその声に反して随分とワイルドな不満を漏らし、不機嫌そうに尻尾をパタパタと振った。


「ぼくも同意見だよぉ~」

 白ネズミのレオンも、クッキーを咀嚼し終えるとごろん、と机に寝転がりながら眠そうな幼い少年声で続ける。


「あのカッコイイ騎士さんにホイホイついてくるなんて、本当に警戒心がないよぉ~。……クッキー美味しい~。むにゃむにゃ」

「クッキーはあの森では食べれませーん!」

 ナズナは枕をぎゅっと抱きしめながら反論した。


「部屋は適温だし、ベッドはふかふか……!これ以上の楽園があるわけないでしょ。ご飯をくれるヒーアリックさん様々だよ」

「はぁ。ご主人様はこれだから……」


 ミーシャが呆れたようにため息をつき、窓から差し込む王都の賑やかな景色を眺める。


「早くあの騎士様に、この街で一番美味しいお肉がどこで買えるか吐かせなきゃ!」

 ミーシャがふんっと鼻を鳴らし、窓辺から軽やかにベッドへと飛び降りてきた。


「だからご主人様、猛獣の肉がどこで売ってるか、またあの騎士様に聞きなさい!」

「えぇ〜〜……」


 ナズナが嫌そうな顔を浮かべて駄々をこねようとすると、開いていたリビングの大きめな窓から聞き馴染みのある声が飛び込んできた。


「よっ」


 その声の主は、灰色のローブ深く被った青年ーーアッシュだ。

 ナズナは、アッシュの突然の押しかけに、嫌そうな顔をする。


「冷やかしですかぁ?」

「なんのだよ」


 アッシュは軽々と窓から部屋の中へ入ってくると、当然のような顔で近くの椅子に深く腰掛けた。


「……聞いたか?王宮内での話」

「なにそれ」

「殿下の殺害予告だよ」

「へぇ、知らない話だ」

 

 ナズナは興味を示したのか体を起こすと、サイドテーブルに置かれた山盛りの菓子を頬張る。

 

「……やっぱり、外までは広まってないんだな」

「殿下の殺害予告よやらが広まってたら、国中大パニックでしょ」

 どうやら、ナズナ曰くラウールに殺害予告が出された話は王宮外には漏れておらず、王都の住民にも伝わっていないらしい。


「まぁ、本題はそこじゃないんだが……」

 アッシュはゴホンと大袈裟に咳払いをすると、声をひそめて重々しく呟いた。


「……頑丈なはずのシャンデリアが、突然、殿下に向かって落ちた」

「へー。まあそういう日だったんじゃない?」

 ナズナは山盛りのクッキーから一枚をつまみ上げ、口に放り投げながら、鼻笑いを浮かべた。

 

「明らさまに興味ないのやめろ」

 

 アッシュは気を取り直したように姿勢を正すと、眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。

「……あれで、王宮の人間は犯人を探してる。そこまで大事になってないみたいだが」

「ただでさえ探されてる人に、なんて可哀想な仕打ちをするクソ男なの……。うっ、うっ……」

 アッシュのその言葉に、ナズナは目元を拭うフリをしてわかりやすく嫌みを言う。


 が、アッシュは身を乗り出しては揚々とした低い声を出し、わざとらしく大げさに胸に手を当てた。

「くっ、仕方ないだろう!そうでもしなければ殿下を生かす方法がなかったんだ……っ!」

「……その無駄に声がいい演技、どこで覚えてきたの?」


 呆れ顔のナズナを無視して、アッシュは真面目な顔に戻る。


「まぁいい。俺はお前に釘を刺しにきたんだよ」

「釘をさすとは、失礼な」

「警戒心を持っておけってことだ。お前が目立てば、俺にまで火の粉が飛んでくる」

「私が目立たなくても、あんたは勝手にそのうち撃沈するでしょ」

 ナズナは膝に乗ってきたミーシャを抱き抱え、頭を撫でながら鼻で笑う。


「誰が撃沈だ。……ったく。重要だからよく聞いとけよ?」

「はいはーい」


「今、殿下は職人街に赴いてる。本来ならあそこで刺客と会うはずだった」

「なるほど。本来ならそこで死んでいた……だけど?」

「あぁ。だけど恐らく死ぬことはない」 


 窓の外の景色に目を向けるアッシュがそう言い張ると、ナズナは身を乗り出して尋ねる。


「なになに!どんな魔法かけたの〜?」

「……いや、普通に手を回して護衛の数を増やさせただけだ」

 

 アッシュの大したことのない回答にナズナは嫌そうな目を彼に向けた。


「わ〜、雑。ワンチャン死ぬんじゃない?」

「心配するな。あのヒーアリック・アダルバートもついている」

「おぉ、一気に信憑性出てきた!」


 ナズナはパチパチとわざとらしく乾いた拍手を送り、首を傾げながらアッシュに尋ねた。


「ていうか、なんで殿下が死にそうなのに国は何もしないの?」

「知るか。聖女様が信託を授からなかったんじゃねーか?」


 アッシュはまた椅子に深く腰をかけながら、つまらなそうに続ける。


「……至高の星階の権力は大きい。王家に次ぐ絶大な政治権力は持ってやがるし、国の方針はアイツ等と陛下の9人で決めるのがほとんど。そんな国が、ルナリア・エドワード以外の予言を信じるか?」

「うーん……それはそうだけど。じゃあ、なんでルナリアさんは信託授かってないの?」


 ナズナの純粋な疑問に、アッシュは眉間にしわを寄せて、静かに続ける。


「……これは悪魔で俺の憶測の域を出ないが、ルナリア・エドワードは特定の個人の未来は見えない」

「え、欠陥じゃん」

「そうか?俺は、特定の個人を見る必要はないと思うが」

「でも、だから殿下は今日死ぬかもしれないんでしょ?」


「……信託を授からなかったってことは、なんらかの形で国は続いているってことだ」

 アッシュが吐き捨てるように言い放ったその言葉に、ナズナは思わず目を見開いた。

「ラウール・フォン・ルミエールが死んでも、国は滅ばない。……国王ってのは、いくらでも代えが効くんだよ」


「……一人ぐらい死のうが、いなくなろが、国さえ滅ばなきゃいい。だからこそ、第一王子の未来が見えなくても、国の未来さえ見えればそれで十分」


「……っと、余計な話はここで終わりだ」


 アッシュは我に帰ったのか、姿勢を正すと、わざとらしく大げさに肩をすくめてた。


「とにかく、お前は今の時間は無駄に外出するなよ。街中で怪しまれたら面倒だ」

「出ませんよ〜、ここにいれば美味しいご飯が届くんだから」


 ナズナは、まるで先程までの話を忘れたかのように、いつも通りに振舞った。

 お陰で、アッシュはナズナのそのだらしなさに盛大なため息をつく。


「……ったく、このヒモ女が」

「はい、悪口〜!今の、完っ全に悪口〜!」

 アッシュのその言葉を聞いて、ナズナはベッドからガバッと立ち上がり、彼の鼻先にビシッと指を突きつけた。


「事実だろ。一番だらしない生活してるの誰だと思ってやがる?」

「え、私じゃないし〜?ていうか、あんたさっさと働いてこいや!」

「働いてるわ!その空き時間を使ってわざわざ情報届けてやってんだろ、金払え!」

「う〜わ、出た!銭ゲバ!」

「『働かざる者食うべからず』って言葉を知らんのか、このヒモ女!」

「あーうるさっ!聞こえなーい」


 二人の怒声が部屋中に響き渡る中、レオンはそんな醜い争いを子守唄代わりに、満足げなあくびをしてクッションの奥へと沈み込んでいくのだった。


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