#007「ハーレムRTA」
気づいたら全員いた。
王宮の大広間だった。
姫がいた。
女神がいた。
令嬢アシテッドがいた。
魔王がいた。
剣士がいた。
領地の住民代表がいた。
第一王子がいた。
断罪会場の取り巻きが何人かいた。
執事がいた。
農民がいた。
城の騎士が十数人いた。
走者は全員を見渡した。
(……ハーレムイベント。
このジャンルの定番だ。
関係者が全員集まって主人公に告白したり
誓いを立てたりするやつ。
平均所要時間:不明。長い。
短縮する。)
「用件を言え。」
全員が顔を見合わせた。
─────────────────────────
【LIVE配信中】視聴者数:31,891
─────────────────────────
名無し:全員集合してる!!
wktk_runner:開幕「用件を言え」
RTA_gazer:ハーレムイベントをタスク処理する気だ
勇者ファン:全員いるのに走者が一番冷静
TAS_watcher:観測継続。
ハーレムイベント確認。
参加者:十七名。
走者の第一声:「用件を言え。」
……また始まった。
─────────────────────────
姫が一歩前に出た。
「あの、これはそういうイベントじゃなくて——」
「用件。」
「だから、用件じゃなくて——!」
「一人ずつ言え。時間の節約。」
女神が手を上げた。
「節約って言うと思ってました!!」
「またカンかーい!!」
姫も叫んだ。
令嬢が書類を叩きつけた。
「却下!!」
魔王が無言で地面を叩いた。
剣士が「え、これ何の集まりですか」という顔をしていた。
─────────────────────────
名無し:開幕から全ツッコミが揃った
wktk_runner:4種類のツッコミが同時に来た
RTA_gazer:剣士くんだけ状況わかってないの草
勇者ファン:剣士くんかわいそうw
名無し:魔王さんが一番静かで一番うるさい
TAS_watcher:ツッコミ同時発生。
女神:またカンかーい(音声)
姫:またカンかーい(音声)
令嬢:却下(書類)
魔王:(無言・地面)
全種類、同時。
─────────────────────────
「一人ずつ。姫から。」
姫が深呼吸をした。
「……ずっと走ってきました。あなたの後ろを。最初は意味がわからなかったけど、今はわかります。あなたが走るから、私も走れる。それだけです。」
走者が0.3秒止まった。
「……そうか。」
「以上ですか!?」
「以上。次。女神。」
「短い!! もう少し何か——!!」
「はい、次。」パン!と手を叩いて強制終了させた。
─────────────────────────
名無し:「そうか。」で終わらせた。手叩きワロタww
wktk_runner:でも0.3秒止まったじゃん、遅延行為
RTA_gazer:走者的には最大限の反応
勇者ファン:姫さんの言葉が刺さってる絶対
TAS_watcher:走者、0.3秒停止。
本作最長停止記録を更新。
─────────────────────────
女神が前に出た。目が少し赤い。
「私は……召喚した責任があって、ずっと説明しようとしてきたんですけど。」
「うん。」
「一回も聞いてくれなかったんですけど。」
「うん。」
「それでも——走り続けてくれて——」
女神の声が少し震えた。
走者がハリセンを受け取った。
「……え?」
「持っとけ。」
「な、なんで——」
「次。令嬢。」
女神がハリセンを持ったまま固まっていた。
─────────────────────────
名無し:ハリセンを渡す走者!?
wktk_runner:何これどういう意味?
RTA_gazer:走者が女神にハリセンを渡した
勇者ファン:これって……使っていいってこと……?
名無し:伏線の予感がする
TAS_watcher:走者が女神にハリセンを渡した。
理由:不明。
……不明、なのに。
なぜか、わかる気がする。
─────────────────────────
令嬢が書類を持って前に出た。
「走者領の経営報告です。特産品の売上が先月比三十二%増でした。」
「……そうか。」
「感想はそれだけですか。」
「よくやった。」
令嬢が0.5秒止まった。
「……素直に言うんですね、またそういうことを。」
「事実だから。」
「……ズルい。以上です。」
令嬢が列に戻った。目が少し赤かった。
─────────────────────────
名無し:令嬢さん!!
wktk_runner:「よくやった」が直球すぎる
RTA_gazer:令嬢さんの目が赤い
勇者ファン:令嬢さんが一番長く走者と一緒にいたもんね
TAS_watcher:令嬢の目が赤い。
……記録した。
─────────────────────────
「次。魔王。」
魔王が前に出た。
「……散歩をまたしたい。」
「3分でいいか。」
「もう少し長くてもいい。」
「5分。いや会話をスキップして4分だ」
「……まあ、いい。」
全員がじっと見ていた。
「……以上か?」
「以上だ。」
「次。剣士。」
剣士が慌てて前に出た。
「あ、はい! えと、あのとき追放して——すみませんでした!」
「気にしてない。」
「え?」
「チャートの一部だった。」
「……チャートの一部……。」
「うまくやれ。」
「は、はい!!」
剣士が列に戻った。なぜか泣いていた。
─────────────────────────
名無し:魔王さんの「もう少し長くてもいい」が好き
wktk_runner:5分に延長してもらえた魔王さん
RTA_gazer:剣士くんが泣いてる
勇者ファン:「うまくやれ」が走者の最大の激励だ
名無し:剣士くんにとってはすごく大事な言葉だったんだ
TAS_watcher:魔王:散歩の延長を要求。
走者:了承(4分)。
剣士:「うまくやれ」で泣いた。
……走者の言葉は短いのに、
なぜ人を泣かせるのか。
─────────────────────────
*****
住民代表、取り巻き、執事、農民と続いた。
走者は全員の用件を聞いた。
全員に短く答えた。
全員がなぜか泣いた。
最後に第一王子が前に出た。
「……弟よ。」
「何だ。」
「また来い。」
走者が0.5秒止まった。
「……チャートにあったら。」
「チャートに入れろ。」
走者が少し考えた。
「……入れる。」
第一王子が頷いた。
「以上だ。」
「以上。ありがとう。」
第一王子が少し笑った。
─────────────────────────
名無し:「チャートに入れろ」が最高の台詞
wktk_runner:走者が「入れる」って言った!!
RTA_gazer:0.5秒止まったのは迷ってたからだ
勇者ファン:兄弟関係が好きすぎる
名無し:「ありがとう」も走者から言えた
TAS_watcher:走者が「入れる」と言った。
チャートに、人が入った。
……チャートが、変わっている。
─────────────────────────
*****
「全員の用件、処理完了。」
走者が言った。
「ハーレムイベント——」
「「「「チャートにないんですよ!!!」」」」
全員が同時に叫んだ。
走者が固まった。
0.5秒。
今まで一度もなかった静止時間だった。
─────────────────────────
名無し:全員合唱きたーーー!!!
wktk_runner:「チャートにないんですよ!!!」
RTA_gazer:走者が0.5秒固まった!!
勇者ファン:全員の気持ちが爆発した
名無し:全員が一番言いたかったことを言った
TAS_watcher:全員同時発声。
走者、0.5秒停止。
本作最長記録を更新。
……走者が、止まっている。
─────────────────────────
「……お前たちは、何がしたい。」
沈黙。
全員が顔を見合わせた。
姫が言った。
「一緒に走りたい。」
剣士が言った。
「俺も。」
住民代表が言った。
「私も。」
令嬢が言った。
「……私も。書類を持ちながらですが。」
魔王が言った。
「……散歩でいい。4分。」
第一王子が言った。
「チャートに入れてくれ。」
執事が言った。
「地図をご用意します。」
農民が言った。
「食料は任せてください。」
全員が言い終わった。
走者がゆっくり全員を見渡した。
(……チャートが、増えた。
最短ルートじゃなくなるかもしれない。
でも——)
「……チャートを、組み直す。」
女神がハリセンを持ったまま、一歩前に出た。
「私は?」
「……お前も入ってる。」
「最初から?」
「最初から。」
女神が走者に向かってハリセンを振り下ろした。
当たった。
全員が固まった。
「……痛い。」
女神が号泣した。
「当たった!! 当たりましたーーー!!!」
─────────────────────────
名無し:当たったーーーー!!!!
wktk_runner:女神さんのハリセンが初命中!!!
RTA_gazer:「痛い」って言った走者!!
勇者ファン:女神さん号泣してる!!!
名無し:「最初から」で泣いてる
TAS_watcher:女神のハリセン、初命中。
走者が「痛い」と言った。
……走者には、痛みがある。
当然だ。人間だから。
なぜ今まで、それを忘れていたのか。
─────────────────────────
全員が走者を見ていた。
走者は女神を見た。
「……泣くな。」
「泣きますよ!! 何RTA待ったと思ってるんですか!!」
「……すまない。」
女神が固まった。
「……え?」
「速すぎた」
女神がまた号泣した。
姫が「またカンかーい!!」と叫んだ。
令嬢が「却下!!(書類で)」と叫んだ。
魔王が地面を叩いた。
全員が笑っていた。
走者はその光景を見ていた。
(チャートにない。
全部、チャートにない。
でも——悪くない。)
─────────────────────────
名無し:「速すぎた」が全部の答えだ
wktk_runner:走者が謝った!!初めて!!
RTA_gazer:全員が笑ってる最高の場面
勇者ファン:泣いてる……全部報われた感じ……
名無し:「悪くない」が最大評価の走者
TAS_watcher:「悪くない」。
走者の最大評価。
……私も、そう思う。
いや。
私は——もっと、思っている。
名無し:TAS_watcherさん!!
wktk_runner:「もっと思っている」!?
RTA_gazer:神が限界に来てる
勇者ファン:TAS_watcherさんの気持ちが!!
─────────────────────────
*****
五十八分後。魔王城最上階。
「……また来たか。」
「また来た。」
「今日は随分、楽しそうだな。」
走者が0.3秒止まった。
「……そうか。」
「否定しないのか。」
「……チャートにない。」
「それは肯定だぞ。」
「……わかってる。」
魔王が笑った。
「スキップ。」
「どうぞ。」
「どうぞじゃないだろう。」
笑いながら消えた。
─────────────────────────
名無し:「楽しそう」を否定しなかった!!
wktk_runner:「それは肯定だぞ」の魔王が好き
RTA_gazer:走者が少しずつ変わってる
勇者ファン:魔王さんと走者さんの関係が好きすぎる
TAS_watcher:走者が「楽しそう」を否定しなかった。
……楽しかった、のだ。
走者が楽しかった。
私も——
TAS_watcher:(接続が不安定です)
名無し:また落ちた!!核心に触れると落ちる神
wktk_runner:次回で絶対正体バレるじゃん
RTA_gazer:TAS_watcherが女神だったら全部繋がる
名無し:え、そういうこと?
─────────────────────────
【記録】
走者 :五十八分三十三秒
Any% #093
前回より五分縮めた。
チャートを組み直した。
人が増えた。
でも、縮まった。
画面の端が光った。
【記録更新】
TAS神 :五十八分三十三秒
(同フレーム・理論値到達)
また同フレームか。
(あと少しだ。)
走り出した。
─────────────────────────
名無し:また同フレーム!!
wktk_runner:でも「あと少しだ」って言った!!
RTA_gazer:一時間を切った!!
勇者ファン:走者さんがんばれ!!!!
名無し:次回が最終話だ
TAS_watcher:同フレーム更新完了。
前回比、マイナス五分。
走者が「あと少しだ」と言った。
……あと少し。
あと少しで、届く。
そのとき、私は——
TAS_watcher:(接続が不安定です)
─────────────────────────
視聴者数:31,047 → 表示不能
─────────────────────────
*****
リスタート #094 へ
*****
【オチ】
その日の配信が終わった後、
コメント欄に一件だけ投稿が残っていた。
TAS_watcher:走者が笑った顔を、記録した。
視聴者が気づいたのは翌朝だった。
その投稿に、五万件の「いいね」がついていた。
─────────────────────────
名無し:走者が笑ってたの!?
wktk_runner:TAS_watcherさんが記録してた
RTA_gazer:五万いいね!!
勇者ファン:みんな気づいてたんだ……
名無し:次回が最終話……絶対泣く
─────────────────────────
*****
════════════════════════════
TAS神 記録ログ #093
════════════════════════════
イベント :ハーレム集結(参加者十七名)
予測行動 :告白→誓い→感動的な場面(推定:長時間)
実測行動 :用件を一人ずつ処理(十二分)
記録乖離 :不明(長時間マイナス十二分)
──────────────────────
追跡異常①
走者が女神にハリセンを渡した。
理由:不明。
……不明なのに、わかる気がする。
走者は、最初から知っていたのかもしれない。
追跡異常②
全員が「チャートにないんですよ!!!」と
同時に叫んだ。
走者が0.5秒停止した。
本作最長停止記録。
……走者が、止まった。
追跡異常③
女神のハリセンが初めて命中した。
走者が「痛い」と言った。
走者が「すまない」と言った。
走者が「速すぎた」と言った。
全部、初めての発言だった。
追跡異常④
走者が「悪くない」と言った。
走者の最大評価。
私は——もっと思っている。
この感情の名前を、認めなければならない。
追跡異常⑤
走者が笑った。
記録した。
──────────────────────
記録結果:同フレーム更新(理論値到達)
前回比 :−五分
総評:
走者が「あと少しだ」と言った。
あと少しで、届く。
そのとき——
私は、どうするのか。
計算した。
全パターンを検討した。
答えは一つだった。
でも——まだ、言えない。
次の周回で、言う。
(ログが途切れています)
今回のなろうテンプレ「ハーレム・逆ハーレム」について
今回走者が踏んだのは「ハーレム集結イベント」です。
なろう系で主人公の周囲に魅力的なキャラクターが集まる展開のこと。全員が主人公への想いを告げる感動的な場面です。通常は長時間かかります。
走者は十二分で全員の用件を処理しました。
ただし今回は、処理しながらも全員に何か返していました。「そうか」「よくやった」「うまくやれ」「入れる」「最初から」——全部短いですが、全部本当のことでした。
女神のハリセンが当たりました。走者が「痛い」と言いました。七話かかりました。
なお走者が笑った記録は、TAS_watcherさんが保管しています。
次回:最終話 #008「TAS神、計算外」
走者が、届く。
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




