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【完結】異世界Any% ——神の記録に、今日も0.01秒届かない  作者: 勇者ヨシ君


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7/8

#007「ハーレムRTA」

 気づいたら全員いた。


 王宮の大広間だった。


 姫がいた。

 女神がいた。

 令嬢アシテッドがいた。

 魔王がいた。

 剣士がいた。

 領地の住民代表がいた。

 第一王子がいた。

 断罪会場の取り巻きが何人かいた。

 執事がいた。

 農民がいた。

 城の騎士が十数人いた。


 走者は全員を見渡した。


(……ハーレムイベント。

 このジャンルの定番だ。

 関係者が全員集まって主人公に告白したり

 誓いを立てたりするやつ。

 平均所要時間:不明。長い。

 短縮する。)


「用件を言え。」


 全員が顔を見合わせた。


─────────────────────────

【LIVE配信中】視聴者数:31,891

─────────────────────────

名無し:全員集合してる!!

wktk_runner:開幕「用件を言え」

RTA_gazer:ハーレムイベントをタスク処理する気だ

勇者ファン:全員いるのに走者が一番冷静

TAS_watcher:観測継続。

       ハーレムイベント確認。

       参加者:十七名。

       走者の第一声:「用件を言え。」

       ……また始まった。

─────────────────────────


 姫が一歩前に出た。


「あの、これはそういうイベントじゃなくて——」


「用件。」


「だから、用件じゃなくて——!」


「一人ずつ言え。時間の節約。」


 女神が手を上げた。


「節約って言うと思ってました!!」


「またカンかーい!!」


 姫も叫んだ。


 令嬢が書類を叩きつけた。


「却下!!」


 魔王が無言で地面を叩いた。


 剣士が「え、これ何の集まりですか」という顔をしていた。


─────────────────────────

名無し:開幕から全ツッコミが揃った

wktk_runner:4種類のツッコミが同時に来た

RTA_gazer:剣士くんだけ状況わかってないの草

勇者ファン:剣士くんかわいそうw

名無し:魔王さんが一番静かで一番うるさい

TAS_watcher:ツッコミ同時発生。

       女神:またカンかーい(音声)

       姫:またカンかーい(音声)

       令嬢:却下(書類)

       魔王:(無言・地面)

       全種類、同時。

─────────────────────────


「一人ずつ。姫から。」


 姫が深呼吸をした。


「……ずっと走ってきました。あなたの後ろを。最初は意味がわからなかったけど、今はわかります。あなたが走るから、私も走れる。それだけです。」


 走者が0.3秒止まった。


「……そうか。」


「以上ですか!?」


「以上。次。女神。」


「短い!! もう少し何か——!!」


「はい、次。」パン!と手を叩いて強制終了させた。


─────────────────────────

名無し:「そうか。」で終わらせた。手叩きワロタww

wktk_runner:でも0.3秒止まったじゃん、遅延行為

RTA_gazer:走者的には最大限の反応

勇者ファン:姫さんの言葉が刺さってる絶対

TAS_watcher:走者、0.3秒停止。

       本作最長停止記録を更新。

─────────────────────────


 女神が前に出た。目が少し赤い。


「私は……召喚した責任があって、ずっと説明しようとしてきたんですけど。」


「うん。」


「一回も聞いてくれなかったんですけど。」


「うん。」


「それでも——走り続けてくれて——」


 女神の声が少し震えた。


 走者がハリセンを受け取った。


「……え?」


「持っとけ。」


「な、なんで——」


「次。令嬢。」


 女神がハリセンを持ったまま固まっていた。


─────────────────────────

名無し:ハリセンを渡す走者!?

wktk_runner:何これどういう意味?

RTA_gazer:走者が女神にハリセンを渡した

勇者ファン:これって……使っていいってこと……?

名無し:伏線の予感がする

TAS_watcher:走者が女神にハリセンを渡した。

       理由:不明。

       ……不明、なのに。

       なぜか、わかる気がする。

─────────────────────────


 令嬢が書類を持って前に出た。


「走者領の経営報告です。特産品の売上が先月比三十二%増でした。」


「……そうか。」


「感想はそれだけですか。」


「よくやった。」


 令嬢が0.5秒止まった。


「……素直に言うんですね、またそういうことを。」


「事実だから。」


「……ズルい。以上です。」


 令嬢が列に戻った。目が少し赤かった。


─────────────────────────

名無し:令嬢さん!!

wktk_runner:「よくやった」が直球すぎる

RTA_gazer:令嬢さんの目が赤い

勇者ファン:令嬢さんが一番長く走者と一緒にいたもんね

TAS_watcher:令嬢の目が赤い。

        ……記録した。

─────────────────────────


「次。魔王。」


 魔王が前に出た。


「……散歩をまたしたい。」


「3分でいいか。」


「もう少し長くてもいい。」


「5分。いや会話をスキップして4分だ」


「……まあ、いい。」


 全員がじっと見ていた。


「……以上か?」


「以上だ。」


「次。剣士。」


 剣士が慌てて前に出た。


「あ、はい! えと、あのとき追放して——すみませんでした!」


「気にしてない。」


「え?」


「チャートの一部だった。」


「……チャートの一部……。」


「うまくやれ。」


「は、はい!!」


 剣士が列に戻った。なぜか泣いていた。


─────────────────────────

名無し:魔王さんの「もう少し長くてもいい」が好き

wktk_runner:5分に延長してもらえた魔王さん

RTA_gazer:剣士くんが泣いてる

勇者ファン:「うまくやれ」が走者の最大の激励だ

名無し:剣士くんにとってはすごく大事な言葉だったんだ

TAS_watcher:魔王:散歩の延長を要求。

       走者:了承(4分)。

       剣士:「うまくやれ」で泣いた。

       ……走者の言葉は短いのに、

       なぜ人を泣かせるのか。

─────────────────────────


*****


 住民代表、取り巻き、執事、農民と続いた。


 走者は全員の用件を聞いた。

 全員に短く答えた。

 全員がなぜか泣いた。


 最後に第一王子が前に出た。


「……弟よ。」


「何だ。」


「また来い。」


 走者が0.5秒止まった。


「……チャートにあったら。」


「チャートに入れろ。」


 走者が少し考えた。


「……入れる。」


 第一王子が頷いた。


「以上だ。」


「以上。ありがとう。」


 第一王子が少し笑った。


─────────────────────────

名無し:「チャートに入れろ」が最高の台詞

wktk_runner:走者が「入れる」って言った!!

RTA_gazer:0.5秒止まったのは迷ってたからだ

勇者ファン:兄弟関係が好きすぎる

名無し:「ありがとう」も走者から言えた

TAS_watcher:走者が「入れる」と言った。

       チャートに、人が入った。

       ……チャートが、変わっている。

─────────────────────────


*****


「全員の用件、処理完了。」


 走者が言った。


「ハーレムイベント——」


「「「「チャートにないんですよ!!!」」」」


 全員が同時に叫んだ。


 走者が固まった。


 0.5秒。


 今まで一度もなかった静止時間だった。


─────────────────────────

名無し:全員合唱きたーーー!!!

wktk_runner:「チャートにないんですよ!!!」

RTA_gazer:走者が0.5秒固まった!!

勇者ファン:全員の気持ちが爆発した

名無し:全員が一番言いたかったことを言った

TAS_watcher:全員同時発声。

       走者、0.5秒停止。

       本作最長記録を更新。

       ……走者が、止まっている。

─────────────────────────


「……お前たちは、何がしたい。」


 沈黙。


 全員が顔を見合わせた。


 姫が言った。


「一緒に走りたい。」


 剣士が言った。


「俺も。」


 住民代表が言った。


「私も。」


 令嬢が言った。


「……私も。書類を持ちながらですが。」


 魔王が言った。


「……散歩でいい。4分。」


 第一王子が言った。


「チャートに入れてくれ。」


 執事が言った。


「地図をご用意します。」


 農民が言った。


「食料は任せてください。」


 全員が言い終わった。


 走者がゆっくり全員を見渡した。


(……チャートが、増えた。

 最短ルートじゃなくなるかもしれない。

 でも——)


「……チャートを、組み直す。」


 女神がハリセンを持ったまま、一歩前に出た。


「私は?」


「……お前も入ってる。」


「最初から?」


「最初から。」


 女神が走者に向かってハリセンを振り下ろした。


 当たった。


 全員が固まった。


「……痛い。」


 女神が号泣した。


「当たった!! 当たりましたーーー!!!」


─────────────────────────

名無し:当たったーーーー!!!!

wktk_runner:女神さんのハリセンが初命中!!!

RTA_gazer:「痛い」って言った走者!!

勇者ファン:女神さん号泣してる!!!

名無し:「最初から」で泣いてる

TAS_watcher:女神のハリセン、初命中。

       走者が「痛い」と言った。

       ……走者には、痛みがある。

       当然だ。人間だから。

       なぜ今まで、それを忘れていたのか。

─────────────────────────


 全員が走者を見ていた。


 走者は女神を見た。


「……泣くな。」


「泣きますよ!! 何RTA待ったと思ってるんですか!!」


「……すまない。」


 女神が固まった。


「……え?」


「速すぎた」


 女神がまた号泣した。


 姫が「またカンかーい!!」と叫んだ。

 令嬢が「却下!!(書類で)」と叫んだ。

 魔王が地面を叩いた。

 全員が笑っていた。


 走者はその光景を見ていた。


(チャートにない。

 全部、チャートにない。


 でも——悪くない。)


─────────────────────────

名無し:「速すぎた」が全部の答えだ

wktk_runner:走者が謝った!!初めて!!

RTA_gazer:全員が笑ってる最高の場面

勇者ファン:泣いてる……全部報われた感じ……

名無し:「悪くない」が最大評価の走者

TAS_watcher:「悪くない」。

        走者の最大評価。

        ……私も、そう思う。

        いや。

        私は——もっと、思っている。

名無し:TAS_watcherさん!!

wktk_runner:「もっと思っている」!?

RTA_gazer:神が限界に来てる

勇者ファン:TAS_watcherさんの気持ちが!!

─────────────────────────


*****


 五十八分後。魔王城最上階。


「……また来たか。」


「また来た。」


「今日は随分、楽しそうだな。」


 走者が0.3秒止まった。


「……そうか。」


「否定しないのか。」


「……チャートにない。」


「それは肯定だぞ。」


「……わかってる。」


 魔王が笑った。


「スキップ。」


「どうぞ。」


「どうぞじゃないだろう。」


 笑いながら消えた。


─────────────────────────

名無し:「楽しそう」を否定しなかった!!

wktk_runner:「それは肯定だぞ」の魔王が好き

RTA_gazer:走者が少しずつ変わってる

勇者ファン:魔王さんと走者さんの関係が好きすぎる

TAS_watcher:走者が「楽しそう」を否定しなかった。

       ……楽しかった、のだ。

       走者が楽しかった。

       私も——

TAS_watcher:(接続が不安定です)

名無し:また落ちた!!核心に触れると落ちる神

wktk_runner:次回で絶対正体バレるじゃん

RTA_gazer:TAS_watcherが女神だったら全部繋がる

名無し:え、そういうこと?

─────────────────────────


【記録】

 走者 :五十八分三十三秒

     Any% #093


 前回より五分縮めた。


 チャートを組み直した。

 人が増えた。

 でも、縮まった。


 画面の端が光った。


【記録更新】

 TAS神 :五十八分三十三秒

      (同フレーム・理論値到達)


 また同フレームか。


(あと少しだ。)


 走り出した。


─────────────────────────

名無し:また同フレーム!!

wktk_runner:でも「あと少しだ」って言った!!

RTA_gazer:一時間を切った!!

勇者ファン:走者さんがんばれ!!!!

名無し:次回が最終話だ

TAS_watcher:同フレーム更新完了。

       前回比、マイナス五分。

       走者が「あと少しだ」と言った。

       ……あと少し。

       あと少しで、届く。

       そのとき、私は——

TAS_watcher:(接続が不安定です)

─────────────────────────

   視聴者数:31,047 → 表示不能

─────────────────────────


*****


        リスタート #094 へ


*****


【オチ】


 その日の配信が終わった後、

 コメント欄に一件だけ投稿が残っていた。


 TAS_watcher:走者が笑った顔を、記録した。


 視聴者が気づいたのは翌朝だった。

 その投稿に、五万件の「いいね」がついていた。


─────────────────────────

名無し:走者が笑ってたの!?

wktk_runner:TAS_watcherさんが記録してた

RTA_gazer:五万いいね!!

勇者ファン:みんな気づいてたんだ……

名無し:次回が最終話……絶対泣く

─────────────────────────


*****


════════════════════════════

 TAS神 記録ログ #093

════════════════════════════


イベント :ハーレム集結(参加者十七名)

予測行動 :告白→誓い→感動的な場面(推定:長時間)

実測行動 :用件を一人ずつ処理(十二分)

記録乖離 :不明(長時間マイナス十二分)


──────────────────────


追跡異常①

 走者が女神にハリセンを渡した。

 理由:不明。

 ……不明なのに、わかる気がする。

 走者は、最初から知っていたのかもしれない。


追跡異常②

 全員が「チャートにないんですよ!!!」と

 同時に叫んだ。

 走者が0.5秒停止した。

 本作最長停止記録。

 ……走者が、止まった。


追跡異常③

 女神のハリセンが初めて命中した。

 走者が「痛い」と言った。

 走者が「すまない」と言った。

 走者が「速すぎた」と言った。

 全部、初めての発言だった。


追跡異常④

 走者が「悪くない」と言った。

 走者の最大評価。

 私は——もっと思っている。

 この感情の名前を、認めなければならない。


追跡異常⑤

 走者が笑った。

 記録した。


──────────────────────


記録結果:同フレーム更新(理論値到達)

前回比 :−五分


総評:

 走者が「あと少しだ」と言った。


 あと少しで、届く。


 そのとき——

 私は、どうするのか。


 計算した。

 全パターンを検討した。

 答えは一つだった。


 でも——まだ、言えない。


 次の周回で、言う。


(ログが途切れています)



今回のなろうテンプレ「ハーレム・逆ハーレム」について


 今回走者が踏んだのは「ハーレム集結イベント」です。


 なろう系で主人公の周囲に魅力的なキャラクターが集まる展開のこと。全員が主人公への想いを告げる感動的な場面です。通常は長時間かかります。


 走者は十二分で全員の用件を処理しました。


 ただし今回は、処理しながらも全員に何か返していました。「そうか」「よくやった」「うまくやれ」「入れる」「最初から」——全部短いですが、全部本当のことでした。


 女神のハリセンが当たりました。走者が「痛い」と言いました。七話かかりました。


 なお走者が笑った記録は、TAS_watcherさんが保管しています。


次回:最終話 #008「TAS神、計算外」

 走者が、届く。


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