表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界Any% ——神の記録に、今日も0.01秒届かない  作者: 勇者ヨシ君


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

#008「TAS神、計算外RTA」

最後のランが始まった。

 召喚から3秒。


(経過タイム、3秒。

 今回も同じだ。

 チャートを確認する。

 #001から数えて何回目かはもう数えていない。

 でも覚えている。全部覚えている。

 今回が、最後になる気がする。)


 走者は、走り出した。


─────────────────────────

【LIVE配信中】視聴者数:表示不能

─────────────────────────

名無し:来たーーー!!

wktk_runner:最終ランだ!!

RTA_gazer:記録、今回こそ届くか

勇者ファン:走者さんがんばれ!!

TAS_watcher:観測継続。

       最終ランの可能性:検出。

       ……見ている。

─────────────────────────


 城を出た。森を抜けた。


 スライムが出た。0.6秒で消した。


 令嬢が走りながら書類を書いていた。

 姫が走りながら「またカンかーい!!」の練習をしていた。

 女神が走りながら「説明を——」と言いかけて黙った。


(今日は説明しなくていい。

 全部、知ってる。)


「……今日は速いですね。」


 女神が静かに言った。


「うん。」


「……いつもと、違う気がします。」


「うん。」


 女神が0.3秒止まった。


「……終わらせるつもりですか。」


「うん。」


 沈黙。


 女神がまた走り出した。


「……わかりました。」


─────────────────────────

名無し:女神さんが気づいてる

wktk_runner:「わかりました」の意味が重い

RTA_gazer:女神さんがいつもと違う

勇者ファン:女神さん……

TAS_watcher:女神が「わかりました」と言った。

       ……私も、わかっている。

─────────────────────────


*****


 断罪会場を通過した。


 令嬢アシテッドが書類を片手に走りながら言った。


「……終わったら、走者領に寄ってください。」


「チャートに入れる。」


「約束ですよ。」


「約束。」


 令嬢が少し笑った。


「……初めてそれを言いましたね。」


「うん。」


「いうのが遅い。」


「……そうだな。」


─────────────────────────

名無し:「約束」を初めて言った走者!!

wktk_runner:令嬢さんが「遅い」って言った

RTA_gazer:でも走者が「そうだな」って認めた

勇者ファン:令嬢さんと走者さん……

TAS_watcher:走者が「約束」と言った。

       チャートに、約束が入った。

─────────────────────────


*****


 王宮を通過した。


 第一王子が廊下の端に立っていた。


「来ると思っていた。」


「うん。」


「今日が最後か。」


「たぶん。」


 第一王子が頷いた。


「……また来い。チャートに入れてあるんだろう。」


「入れてある。」


「なら、行ってこい。」


 走者が走り出した。


 第一王子が小さく言った。


「……弟よ。」


 走者は振り返らなかった。


 でも、0.2秒だけ、速度が落ちた。


─────────────────────────

名無し:「弟よ」……泣く

wktk_runner:0.2秒だけ速度が落ちた!!

RTA_gazer:走者が聞こえてた

勇者ファン:ちゃんと聞こえてたんだ……

TAS_watcher:走者の速度、0.2秒低下。

       ……聞こえていた。

       走者には、聞こえていた。

─────────────────────────


*****


 魔王城最上階。


 魔王が振り返った。


「……また来たか。」


「最後かもしれない。」


 魔王が0.5秒止まった。


「……そうか。」


「散歩、4分。約束してた。」


「……今日じゃなくていい。」


「次があるかわからない。」


 魔王が少し考えた。


「……なら、今度こそ散歩らしい散歩をしよう。」


「4分で。」


「……そこは譲れないのか。」


「4分で全力で散歩する。」


「全力で散歩する意味がわからないぞ。」


「俺にはこれしかできない。」


 魔王が笑った。


「……そうだな。お前はそういう奴だ。」


 4分散歩した。


「スキップ。」


「……ああ。」


 魔王が消える前に、一度だけ振り返った。


「——走者。」


「何だ。」


「お前と話せて、よかった。」


 走者が0.5秒止まった。


「……俺もだ。」


 魔王が笑いながら消えた。


─────────────────────────

名無し:魔王さんとの別れ……泣いてる

wktk_runner:「お前と話せて、よかった」

RTA_gazer:走者が「俺もだ」って言えた

勇者ファン:魔王さんが一番走者の友達だった気がする

名無し:「全力で散歩する」は走者すぎる

TAS_watcher:魔王が消えた。

       走者が「俺もだ」と言った。

       ……走者に、友がいた。

─────────────────────────


*****


【記録】

 走者 :四十七分十二秒

     Any% #094


 縮まった。


 画面の端を見た。


 光が、来なかった。


─────────────────────────

名無し:え?

wktk_runner:光が来ない!?

RTA_gazer:同フレーム更新が来ない!!

勇者ファン:どういうこと……?

TAS_watcher:……。

─────────────────────────


 十秒。


 二十秒。


 三十秒。


 更新されなかった。


(……何が起きてる。)


 走者の前に、光が集まった。


 人の形になった。


 金色に輝く何かが立っていた。翼がある。


 女神だった。


 でも違った。


 いつもと、目が違った。


「……お疲れ様でした。」


 静かな声だった。


「……お前、TAS神か。」


 女神が0.8秒固まった。


「……知っていたんですか。」


「コメント欄。文体が同じだった。」


 長い沈黙。


「……いつから。」


「#003くらいから。」


「……なんで言わなかったんですか!!」


「チャートにない。」

 

 女神(バレてたーーーーー!!)


─────────────────────────

名無し:知ってたーーー!!!

wktk_runner:#003から気づいてたの!?

RTA_gazer:「文体が同じ」で見抜く走者

勇者ファン:「チャートにない」で言わなかったの笑う

名無し:でも言わなかった理由が「チャートにない」

     なのが走者すぎる

TAS_watcher:……。

TAS_watcher:「チャートにない」。

TAS_watcher:……それが、答えですか。

─────────────────────────


 女神が深呼吸をした。


「私が……TAS神です。この世界の管理者です。

 あなたを召喚したのも、私です。

 記録を塗り替え続けたのも、私です。」


「知ってた。」


「……全部知ってたんですか。」


「全部。」


 女神が頭を抱えた。


「……なぜ走り続けたんですか。管理者に塗り替えられると

 わかっていて。」


 走者が少し考えた。


「お前が、見てたから。」


 女神が顔を上げた。


「……え?」


「コメント欄。毎回見てた。

 TAS_watcherが、毎回いた。

 塗り替えてるくせに、見てた。」


「……それが、理由ですか。」


「走る理由は記録のためだ。

 でも、止まらなかった理由は——お前が見てたから。」


 沈黙。


 女神の目に涙が溜まっていた。


「……ずるいです。」


「事実だから。」


「……令嬢と同じことを言わないでください。」


─────────────────────────

名無し:「お前が見てたから」!!!!

wktk_runner:止まらなかった理由がそれか……

RTA_gazer:TAS_watcherがずっと見てたから走れた

勇者ファン:泣いてる……泣いてる……

名無し:「事実だから」を女神にも言った走者

名無し:令嬢と同じ言葉!!

TAS_watcher:「お前が見てたから」。

        ……計算外だった。

        ずっと、計算外だった。

─────────────────────────


「……なぜ、今回は塗り替えなかった?」


 走者が聞いた。


 女神が涙をぬぐった。


「負けたからです。」


「何に。」


「……あなたが、楽しそうだったことに。」


 走者が0.8秒固まった。


 今まで一度もなかった沈黙だった。


「……楽しかったのか、俺が。」


「楽しそうでした。ずっと。

 記録のためだと言いながら、

 令嬢に助かると言って、

 魔王と散歩の約束をして、

 兄に会いに行くルートをチャートに入れて——

 全部、楽しそうでした。」


(…………。

 楽しかった。

 チャートにない、と言い続けた。

 でも——全部、覚えている。

 令嬢が笑った顔。

 魔王が地面を叩いた音。

 姫の「またカンかーい!!」。

 女神のハリセンが当たった痛さ。

 兄の声。

 全部——)


「……チャートにあった。」


 女神が泣きながら笑った。


「……最初からそう言えばよかったじゃないですか。」


「言い方がわからなかった。」


「……不器用すぎます。」


「そうかもしれない。」


─────────────────────────

名無し:「チャートにあった」!!!!

wktk_runner:走者が認めた!!全部認めた!!

RTA_gazer:「言い方がわからなかった」で泣いてる

勇者ファン:女神さんが泣きながら笑ってる

名無し:走者が不器用すぎるけど全部伝わってたんだ

TAS_watcher:「チャートにあった」。

        走者が、認めた。

        全部、チャートにあった。

        ……私の負けだ。

        計算外だった。

        あなたが——

─────────────────────────


 女神が一歩前に出た。


「……一つだけ、聞かせてください。」


「何だ。」


「これからも——走りますか。」


 走者が少し考えた。


「走る。」


「……私も、見ていていいですか。」


「コメント欄にいろ。」


「そこじゃなくて——!!」


「チャートにない。」


 走者が走り出した。


「走者!!」


 振り返らない。


「私も——」


「チャートにない。」


「またそれかーい!!」


 女神が泣きながら叫んだ。


 ハリセンを振り下ろした。


 空を切った。


 走者はもういなかった。


 女神がゆっくり膝をついた。


 泣きながら、笑っていた。


─────────────────────────

名無し:最後も空を切った!!

wktk_runner:でも泣きながら笑ってる女神さん!!

RTA_gazer:走者は走り続ける

勇者ファン:「またそれかーい!!」が最後の言葉

名無し:全部繋がった……

名無し:#001の「またカンかーい!!」から全部

TAS_watcher:女神のハリセン、空振り。

        走者は、また走り出した。

        ……。

        私も——走る。

名無し:TAS_watcherさん!!

wktk_runner:神が走り出した!!!

RTA_gazer:追いかけるんだ!!

勇者ファン:走者さんも全部わかってて走ってるんだ

─────────────────────────


*****


【最終記録】

 走者 :更新中

 TAS神 :———


*****


 配信コメント欄に、一行だけ残っていた。


 TAS_watcher:また明日も走るんだろう。見ている。


 視聴者数:表示不能。


─────────────────────────

   (接続が安定しています)

─────────────────────────


*****


【オチ】


 翌日の配信が始まった。


 視聴者数:表示不能のまま。


 走者が召喚された。


「装備。地図。」


 王が固まった。


 コメント欄が動いた。


 TAS_watcher:また始まった。

 TAS_watcher:(今日は隣にいる)


─────────────────────────

名無し:また始まったーーー!!

wktk_runner:「今日は隣にいる」!!!!

RTA_gazer:女神が隣で走ってる!!

勇者ファン:TAS_watcherさんが横にいる!!

名無し:王様がまた固まってる

名無し:これが続くんだ

名無し:ずっと続くんだ

wktk_runner:最高すぎる

RTA_gazer:ありがとう走者

勇者ファン:ありがとう走者さん

TAS_watcher:ありがとう。

─────────────────────────


*****


════════════════════════════

 TAS神 最終ログ

════════════════════════════


記録を塗り替えなかった理由を、

正直に書く。


走者が楽しそうだったから。


それだけだ。


「なぜ走るのか」と聞いた。

「記録のため」と言った。

「なぜ止まらないのか」と聞いた。

「止まったら負けだ」と言った。


計算した。

全パターンを検討した。


どのパターンでも、走者は走り続けた。


どのパターンでも、私は見続けた。


計算外だったのは——

走者が楽しそうだったことではない。


私が、それを見たかったことだ。


この感情の名前を、

今日、認める。


好きになった。


理由は、計算できない。


でも——


走者が走るなら、私も走る。


隣で。





後書き:今回のなろうテンプレ「ループもの」について


 今回走者が踏んでいたのは「ループもの」です。


 なろう系でも人気が高いテンプレートのひとつ。何度も同じ時間を繰り返しながら、少しずつ前進していく構造です。記憶を持ったまま繰り返すこと、少しずつ変わっていくこと、それでも止まらないこと——これが「仕様」です。


 走者は何度ループしても走り続けました。


 TAS神は何度塗り替えても見続けました。


 どちらも、たぶん、最初からそうするつもりだったのだと思います。


 全8話、読んでいただきありがとうございました。


 走者はまだ走っています。女神は隣にいます。令嬢は書類を持って走っています。魔王は散歩の約束を待っています。姫は今日もどこかで「またカンかーい!!」と叫んでいます。


 それでいいと思います。


「たぶん、これが一番はやいと思います。」


少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ