#004「異世界チートRTA」
走者にスキル授与の儀式が行われた。女神が「好きなものを選んでください!」と言った。走者が「全部。」と言った。儀式が崩壊した。
神殿の中央に、光の柱が立っていた。
白く輝く石畳。天井まで続く彫刻の柱。荘厳な空間の中央に、無数のスキルが光の粒子となって浮かんでいる。ひとつひとつが宝石のように輝き、選ばれるのを待っていた。本来ならば、勇者が人生をかけて選ぶ一瞬のはずだった。
女神が両手を広げた。その表情は誇らしげで、晴れやかだった。
「どうぞ! 勇者様のご希望のスキルを!
こちらが最強の【神滅覇王剣】、
こちらが【無限魔力】、こちらが【時間停止】、
こちらが——」
「全部。」
女神の説明が止まった。
「……え?」
「全部もらう。」
「選ぶものです!!」
「節約。」
「何を節約してるんですか!!」
「時間。はーやーく!」
─────────────────────────
【LIVE配信中】視聴者数:12,041
─────────────────────────
wktk_runner:全部は草
名無し:節約の使い方が違う
RTA_gazer:スキル全取得、前例あるの?
勇者ファン:女神さんの顔が……
TAS_watcher:観測継続。
スキル全取得の試みは
過去0件。
─────────────────────────
姫が走者の袖を引いた。
「あの……スキルって、相性とか、バランスとか——」
「全部。」
「その発想、もう没収!!」
走者が0.2秒止まった。
「……没収とは。」
「この際なんでもいいんです!!」
女神が涙目で姫の手を握った。
「成長しましたね……」
「ありがとうございます!!」
二人が感動の握手を交わしている横で、走者はすでに光の柱に手を突っ込んでいた。
─────────────────────────
名無し:姫さんの新技きたw
wktk_runner:「その発想、もう没収!!」
RTA_gazer:女神と姫が感動してる間に動いてる
勇者ファン:二人の絆が深まってる!!
名無し:走者は止まらない
TAS_watcher:姫のツッコミ、新パターン確認。
命中率:0%(物理)
走者は0.2秒止まった。
……0.2秒、止まった。
─────────────────────────
*****
スキルを全取得した。
走者の周囲に光の粒子が渦巻いた。神殿の床が揺れ、天井の彫刻からほこりが落ちた。女神が「ちょっと待って!?」と叫びながら後退した。
光が収まった後、走者の頭上にステータス画面が展開された。
════════════════════
ステータス異常
════════════════════
スキル取得数:2,847
干渉数 :2,846件
有効スキル :1件
【走る】
════════════════════
沈黙。
「……走る。」
「全スキルが干渉し合っています!!」
女神が叫んだ。神殿中に声が響いた。
「最強と最弱が打ち消し合って、
残ったのが基礎動作の【走る】だけです!!
何をやってるんですか!!」
「問題ない。」
「問題しかありません!!」
走者が試しに拳を壁に当てた。
壁が砕けた。
「……走る、で十分。」
女神がその場に崩れ落ちた。
─────────────────────────
名無し:有効スキルが「走る」のみwww
wktk_runner:でも壁砕けたじゃん
RTA_gazer:素の身体能力が最強って何
勇者ファン:女神さん床に手ついてる……
名無し:姫さんどんな顔してるの
TAS_watcher:スキルが干渉し合い有効数1。
それでも壁が砕けた。
……この矛盾が、
今日はなぜか気にならない。
─────────────────────────
姫が恐る恐る走者を見た。
「……あの。強いんですか、弱いんですか。」
「強い。」
「根拠は。」
「壁。」(壁が砕けたから)
「……そうですね。」
姫が納得した顔をしていた。令嬢だったら「その発想、却下!!」と書類を出していたかもしれない。姫はただ、小さく頷いた。
─────────────────────────
名無し:「壁。」で納得する姫さん好き
wktk_runner:姫さんが染まってきてる
RTA_gazer:もう誰もツッコまなくなってきた
勇者ファン:それでいいのか…?
名無し:いいんじゃないかな
TAS_watcher:姫が「壁」で納得した。
……妥当だと思った自分がいる。
これは——
TAS_watcher:(接続が不安定です)
─────────────────────────
*****
チャートを再開した。
一時間二十一分後。魔王城最上階。
魔王が振り返り、走者を見て、壁の穴を見て、また走者を見た。
「……また来たか。」
「また来た。」
「……壁に穴が開いてるが。」
「最短ルート。」
「壁を突き破ったのか。」
「有効スキルが【走る】しかなかった。」
「………………。」
魔王が0.7秒固まった。今までで一番長い沈黙だった。
「……それで最短になったのか。」
「なった。」
「……そうか。」
魔王が少し笑った。
「スキップ。」
「……今日は俺からそう言う気分だった。」
「どうぞ。」
「どうぞじゃないだろう。」
笑いながら消えた。
女神「いやもう倒すことすらしてないやんかー!!せめて、倒されろ、魔王!」
そのツッコミは、むなしく魔王城中をエコーした。
─────────────────────────
名無し:壁を突き破ってきた走者に魔王が動揺してる
wktk_runner:「スキップ」を魔王から言い出したww
RTA_gazer:魔王との関係が対等になってきた
勇者ファン:魔王さんが楽しそう!!
TAS_watcher:魔王が先にスキップを言った。
変化している。
走者が変えている。
名無し:神が「走者が変えている」って言った
wktk_runner:TAS_watcherさんわかってきてる……
─────────────────────────
【記録】
走者 :一時間二十一分五十五秒
Any% #090
前回より十七分縮めた。壁を突き破ったルートが最短だった。スキル2,847個の干渉によって生まれた結果だ。チャートにない展開だった。
でも、縮まった。
画面の端が光った。
【記録更新】
TAS神 :一時間二十一分五十五秒
(同フレーム・理論値到達)
また同フレームか。
走り出した。
─────────────────────────
名無し:また同フレームー!
wktk_runner:でもまた縮まってるじゃん
RTA_gazer:壁ルートがチャートに組み込まれた
勇者ファン:走者さんがんばれ!!
名無し:そういえば今日の配信めちゃ鮮明じゃない?
wktk_runner:言われてみれば!
RTA_gazer:3D化してる?
名無し:ゴーグルで見たら最高なんだが
TAS_watcher:同フレーム更新完了。
前回比、マイナス十七分。
……。
配信の画質向上について:
理由は言わない。
名無し:TAS_watcherさんが画質上げた!?
wktk_runner:なんで!?
名無し:見やすくしたかったの!?
TAS_watcher:(接続が不安定です)
─────────────────────────
視聴者数:11,847 → 18,203
─────────────────────────
*****
リスタート #091 へ
*****
【オチ】
後日、スキル図鑑に新しい項目が追加された。
════════════════════
スキル図鑑 特記事項
════════════════════
【全スキル同時取得】
取得者 :走者(勇者)
取得結果 :全干渉により有効スキル「走る」のみ残存
最終戦力評価:最強
備考:非推奨。
ただし壁は突き破れる。
════════════════════
図鑑の管理者は「非推奨」の下に小さく書き足した。
「よい子のみんなは、真似しないでください。」
─────────────────────────
名無し:図鑑の管理者が限界になってる
wktk_runner:「真似しないでください」www
RTA_gazer:でも最強評価なの笑う
勇者ファン:走者さんの伝説が記録された!!
─────────────────────────
*****
════════════════════════════
TAS神 記録ログ #090
════════════════════════════
イベント :スキル授与(任意選択・一択推奨)
予測行動 :厳選→一スキル取得→感動(推定十分)
実測行動 :「全部。」(一秒)
記録乖離 :九分五十九秒
──────────────────────
追跡異常①
スキル2,847個を同時取得した。
全スキルが干渉し合い、有効スキルが「走る」のみ残存。
それでも壁を突き破って最短ルートを開拓した。
「走る」で壁を砕ける理由:解析中(進捗0%)
追跡異常②
姫の新ツッコミ「その発想、もう没収!!」を確認。
走者が0.2秒止まった。
姫のツッコミで走者が止まったのは初。
……姫は学習し続けている。
追跡異常③
魔王が先に「スキップ」と言った。
走者の語彙が、魔王に伝播している。
令嬢には書類文化が伝播した。
走者の影響が、この世界を変えている。
追跡異常④
配信の画質を向上させた。
理由を自己解析した結果:
「見やすくしたかった。」
……この感情の名前が、
まだわからない。
──────────────────────
記録結果:同フレーム更新(理論値到達)
前回比 :−十七分
総評:
縮まっている。
壁を突き破るルートは理論上存在しなかった。走者が、理論を書き換えた。
……私の計算が、また一つ、追いつかなかった。
(ログが途切れています)
後書き:今回のなろうテンプレ「チート・スキル授与」について
今回走者が踏んだのは「チートスキル授与」です。
なろう系で最も読者が期待するシーンのひとつ。神様や女神からとんでもないスキルをもらって無双する、これが「仕様」です。どのスキルを選ぶかは勇者の個性が出る重要な場面です。
走者は「全部。」と言いました。
全部もらった結果、有効スキルが「走る」のみになりました。それでも最強でした。図鑑の管理者が「真似しないでください」と書き足しました。正しい判断だと思います。
なお今回から配信画質が向上しています。理由は不明です。TAS_watcherさんが「理由は言わない」と言っていました。
次回:#005「領地経営RTA」
走者、誰も使っていない荒廃した領地を押しつけられる。
(3日で発展させた)
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




