表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界Any% ——神の記録に、今日も0.01秒届かない  作者: 勇者ヨシ君


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

#004「異世界チートRTA」

 走者にスキル授与の儀式が行われた。女神が「好きなものを選んでください!」と言った。走者が「全部。」と言った。儀式が崩壊した。


 神殿の中央に、光の柱が立っていた。


 白く輝く石畳。天井まで続く彫刻の柱。荘厳な空間の中央に、無数のスキルが光の粒子となって浮かんでいる。ひとつひとつが宝石のように輝き、選ばれるのを待っていた。本来ならば、勇者が人生をかけて選ぶ一瞬のはずだった。


 女神が両手を広げた。その表情は誇らしげで、晴れやかだった。


「どうぞ! 勇者様のご希望のスキルを!

 こちらが最強の【神滅覇王剣しんめつはおうけん】、

 こちらが【無限魔力(エターナルマナ)】、こちらが【時間停止(ザ・ワールド)】、

 こちらが——」


「全部。」


 女神の説明が止まった。


「……え?」


「全部もらう。」


「選ぶものです!!」


「節約。」


「何を節約してるんですか!!」

「時間。はーやーく!」


─────────────────────────

【LIVE配信中】視聴者数:12,041

─────────────────────────

wktk_runner:全部は草

名無し:節約の使い方が違う

RTA_gazer:スキル全取得、前例あるの?

勇者ファン:女神さんの顔が……

TAS_watcher:観測継続。

        スキル全取得の試みは

        過去0件。

─────────────────────────


 姫が走者の袖を引いた。


「あの……スキルって、相性とか、バランスとか——」


「全部。」


「その発想、もう没収!!」


 走者が0.2秒止まった。


「……没収とは。」


「この際なんでもいいんです!!」


 女神が涙目で姫の手を握った。


「成長しましたね……」


「ありがとうございます!!」


 二人が感動の握手を交わしている横で、走者はすでに光の柱に手を突っ込んでいた。


─────────────────────────

名無し:姫さんの新技きたw

wktk_runner:「その発想、もう没収!!」

RTA_gazer:女神と姫が感動してる間に動いてる

勇者ファン:二人の絆が深まってる!!

名無し:走者は止まらない

TAS_watcher:姫のツッコミ、新パターン確認。

        命中率:0%(物理)

        走者は0.2秒止まった。

        ……0.2秒、止まった。

─────────────────────────


*****


 スキルを全取得した。


 走者の周囲に光の粒子が渦巻いた。神殿の床が揺れ、天井の彫刻からほこりが落ちた。女神が「ちょっと待って!?」と叫びながら後退した。


 光が収まった後、走者の頭上にステータス画面が展開された。


════════════════════

 ステータス異常

════════════════════

スキル取得数:2,847

干渉数   :2,846件

有効スキル :1件


 【走る】


════════════════════


 沈黙。


「……走る。」


「全スキルが干渉し合っています!!」


 女神が叫んだ。神殿中に声が響いた。


「最強と最弱が打ち消し合って、

 残ったのが基礎動作の【走る】だけです!!

 何をやってるんですか!!」


「問題ない。」


「問題しかありません!!」


 走者が試しに拳を壁に当てた。


 壁が砕けた。


「……走る、で十分。」


 女神がその場に崩れ落ちた。


─────────────────────────

名無し:有効スキルが「走る」のみwww

wktk_runner:でも壁砕けたじゃん

RTA_gazer:素の身体能力が最強って何

勇者ファン:女神さん床に手ついてる……

名無し:姫さんどんな顔してるの

TAS_watcher:スキルが干渉し合い有効数1。

        それでも壁が砕けた。

        ……この矛盾が、

        今日はなぜか気にならない。

─────────────────────────


 姫が恐る恐る走者を見た。


「……あの。強いんですか、弱いんですか。」


「強い。」


「根拠は。」


「壁。」(壁が砕けたから)


「……そうですね。」


 姫が納得した顔をしていた。令嬢だったら「その発想、却下!!」と書類を出していたかもしれない。姫はただ、小さく頷いた。


─────────────────────────

名無し:「壁。」で納得する姫さん好き

wktk_runner:姫さんが染まってきてる

RTA_gazer:もう誰もツッコまなくなってきた

勇者ファン:それでいいのか…?

名無し:いいんじゃないかな

TAS_watcher:姫が「壁」で納得した。

        ……妥当だと思った自分がいる。

        これは——

TAS_watcher:(接続が不安定です)

─────────────────────────


*****


 チャートを再開した。


 一時間二十一分後。魔王城まおうじょう最上階。


 魔王が振り返り、走者を見て、壁の穴を見て、また走者を見た。


「……また来たか。」


「また来た。」


「……壁に穴が開いてるが。」


「最短ルート。」


「壁を突き破ったのか。」


「有効スキルが【走る】しかなかった。」


「………………。」


 魔王が0.7秒固まった。今までで一番長い沈黙だった。


「……それで最短になったのか。」


「なった。」


「……そうか。」


 魔王が少し笑った。


「スキップ。」


「……今日は俺からそう言う気分だった。」


「どうぞ。」


「どうぞじゃないだろう。」


 笑いながら消えた。


 女神「いやもう倒すことすらしてないやんかー!!せめて、倒されろ、魔王!」

 そのツッコミは、むなしく魔王城中をエコーした。


─────────────────────────

名無し:壁を突き破ってきた走者に魔王が動揺してる

wktk_runner:「スキップ」を魔王から言い出したww

RTA_gazer:魔王との関係が対等になってきた

勇者ファン:魔王さんが楽しそう!!

TAS_watcher:魔王が先にスキップを言った。

       変化している。

       走者が変えている。

名無し:神が「走者が変えている」って言った

wktk_runner:TAS_watcherさんわかってきてる……

─────────────────────────


【記録】

 走者 :一時間二十一分五十五秒

     Any% #090


 前回より十七分縮めた。壁を突き破ったルートが最短だった。スキル2,847個の干渉によって生まれた結果だ。チャートにない展開だった。


 でも、縮まった。


 画面の端が光った。


【記録更新】

 TAS神 :一時間二十一分五十五秒

      (同フレーム・理論値到達)


 また同フレームか。


 走り出した。


─────────────────────────

名無し:また同フレームー!

wktk_runner:でもまた縮まってるじゃん

RTA_gazer:壁ルートがチャートに組み込まれた

勇者ファン:走者さんがんばれ!!

名無し:そういえば今日の配信めちゃ鮮明じゃない?

wktk_runner:言われてみれば!

RTA_gazer:3D化してる?

名無し:ゴーグルで見たら最高なんだが

TAS_watcher:同フレーム更新完了。

       前回比、マイナス十七分。

       ……。

       配信の画質向上について:

       理由は言わない。

名無し:TAS_watcherさんが画質上げた!?

wktk_runner:なんで!?

名無し:見やすくしたかったの!?

TAS_watcher:(接続が不安定です)

─────────────────────────

   視聴者数:11,847 → 18,203

─────────────────────────


*****


        リスタート #091 へ


*****


【オチ】


 後日、スキル図鑑に新しい項目が追加された。


════════════════════

 スキル図鑑 特記事項

════════════════════

【全スキル同時取得】


取得者  :走者(勇者)

取得結果 :全干渉により有効スキル「走る」のみ残存

最終戦力評価:最強


備考:非推奨。

   ただし壁は突き破れる。

════════════════════


 図鑑の管理者は「非推奨」の下に小さく書き足した。


よい子のみんな(異世界チート転生者)は、真似しないでください。」


─────────────────────────

名無し:図鑑の管理者が限界になってる

wktk_runner:「真似しないでください」www

RTA_gazer:でも最強評価なの笑う

勇者ファン:走者さんの伝説が記録された!!

─────────────────────────


*****


════════════════════════════

 TAS神 記録ログ #090

════════════════════════════


イベント :スキル授与(任意選択・一択推奨)

予測行動 :厳選→一スキル取得→感動(推定十分)

実測行動 :「全部。」(一秒)

記録乖離 :九分五十九秒


──────────────────────


追跡異常①

 スキル2,847個を同時取得した。

 全スキルが干渉し合い、有効スキルが「走る」のみ残存。

 それでも壁を突き破って最短ルートを開拓した。

 「走る」で壁を砕ける理由:解析中(進捗0%)


追跡異常②

 姫の新ツッコミ「その発想、もう没収!!」を確認。

 走者が0.2秒止まった。

 姫のツッコミで走者が止まったのは初。

 ……姫は学習し続けている。


追跡異常③

 魔王が先に「スキップ」と言った。

 走者の語彙が、魔王に伝播している。

 令嬢には書類文化が伝播した。

 走者の影響が、この世界を変えている。


追跡異常④

 配信の画質を向上させた。

 理由を自己解析した結果:


 「見やすくしたかった。」


 ……この感情の名前が、

 まだわからない。


──────────────────────


記録結果:同フレーム更新(理論値到達)

前回比 :−十七分


総評:

 縮まっている。


 壁を突き破るルートは理論上存在しなかった。走者が、理論を書き換えた。


 ……私の計算が、また一つ、追いつかなかった。


(ログが途切れています)




後書き:今回のなろうテンプレ「チート・スキル授与」について


 今回走者が踏んだのは「チートスキル授与」です。


 なろう系で最も読者が期待するシーンのひとつ。神様や女神からとんでもないスキルをもらって無双する、これが「仕様」です。どのスキルを選ぶかは勇者の個性が出る重要な場面です。


 走者は「全部。」と言いました。


 全部もらった結果、有効スキルが「走る」のみになりました。それでも最強でした。図鑑の管理者が「真似しないでください」と書き足しました。正しい判断だと思います。


 なお今回から配信画質が向上しています。理由は不明です。TAS_watcherさんが「理由は言わない」と言っていました。


次回:#005「領地経営RTA」

 走者、誰も使っていない荒廃した領地を押しつけられる。

 (3日で発展させた)


少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ