#002「追放ざまぁRTA」
走者がパーティに加入したのは今朝だった。追放されたのは昼前だった。本人は書類を3日前から用意していた。
「お前はクビだ」
パーティリーダーが言った。
勇者召喚から3日後。森の中のキャンプ地。
(来た。追放イベント。
このジャンルの定番だ。
準備はできている。)
「このパーティにお前みたいな——」
「わかった。」
リーダーが固まった。
「……え?」
「追放了解。」
走者は鞄から謎の書類の束を取り出した。
```
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【LIVE配信中】異世界勇者召喚 視聴者数:4,203
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名無し:あの勇者また来たw
wktk_runner:待ってたぁぁ!
RTA_gazer:書類!?
名無し:なんで書類持ってんの
TAS_watcher:観測継続中。
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「パーティ解散・追放時精算書(甲)、です。
第一条、修理費立替分、金貨七枚。
第二条、食料立替分、金貨三枚。
第三条、魔物討伐報酬の未分配分、金貨十二枚。
第四条、道案内報酬の口頭合意未払い分、金貨二枚。
合計、金貨二十四枚。
別紙一に修理明細、別紙二に討伐ログ、
別紙三に——」
「ちょっと待ってください別紙が三つあるんですか!?なんで!?」
女神が言う。
「別紙三は感動的な別れシーン免除申請書です。」
パーティ全員が固まった。
「……なんだそれは。」
「任意だ。サインしろ。短縮できる。」
「は?短縮??」
```
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名無し:感動的な別れシーン免除申請書www
wktk_runner:そんな書類が存在するのか
RTA_gazer:任意ってとこが丁寧
勇者ファン:こんな追放はじめて見た
名無し:3日前から全部用意してたの怖すぎ
TAS_watcher:別紙三……
「感動的な別れシーン」が
省略可能な項目として
認識されている。
名無し:TAS_watcherさんも困惑してる
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```
リーダーが震える手で書類を受け取った。
「……なんで、こんなものが……」
「三日前に作った。」
「三日前って加入した日じゃないですか!!」
「加入初日に追放される確率が最も高い。
チャートとして準備していた。」
「チャートって何ですか!!」
(女神も同じことを言っていた。
このセリフはよく出る。メモ。)
リーダーが別紙三を開いた。
沈黙。
「……これにサインしたら、泣いても駄目なんですか。」
「任意だ。」
「任意……。」
リーダーがゆっくりサインした。
隣で副リーダーがサインした。
魔法使いがサインした。
回復役がサインした。
最後に、一番若い剣士が書類を受け取った。
目が赤い。泣きかけている。
「……俺も、サインしたら。」
「任意。」
剣士がじっと書類を見た。
「……サイン、しません。」
書類を、走者に返した。
(……スキップ不可イベントが来る。
女神が袖を引く前に——)
「……そうか。」
女神が「え」という顔をした。
「お前たちは悪くない。」
剣士が泣いた。
```
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名無し:剣士くんが別紙三を拒否したの偉い
wktk_runner:「そうか」で済ます走者
RTA_gazer:でも2文字ちゃんと返したじゃん
勇者ファン:剣士くんよかったね……
名無し:「お前たちは悪くない」って言えた!
名無し:なんか……いい話になってきた?
TAS_watcher:別紙三を拒否した。
「サインしません」……
感動的な別れシーンが、
発生した。
省略されなかった。
wktk_runner:TAS_watcherさん記録してる
名無し:神が感動してるじゃん
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```
走者は剣士に控えを渡した。
「これは控え。」
「え……俺の……控え……。」
泣きながら受け取った。
女神が頭を抱えた。
(渡すのが礼儀だと思ったが、
何か間違えたか。
メモ。)
書類を渡すや否や
走者は全速力で仲間たちを振り切って走り出した。
*****
森を一人で走る。
(やはりソロの方が速い。
パーティありだと相談タイムで十二分のロス。
今回は縮められる気がする。)
女神がついてきている。
姫もついてきている。
(なぜかこの二人はいつもいる。
チャートにないが、足は速い。振り切るのは諦めた。)
「ねえ。」
姫が走りながら言った。
「さっき控えを渡してたけど。」
「うん。」
「なんで?」
(……礼儀では?
と思ったが、剣士が泣いたので
間違えた可能性がある。
まだわからない。)
「……勘。」
「また勘!勘ですまさないでくださいー!!」
女神が走りつつ、ツッコミを叫びつつ、走者にツッコミチョップをかましたが、
全速力で走る走者に当たるはずもなく、ツッコミはスカッと空を切った。
```
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名無し:「勘」シリーズまた来たw
wktk_runner:控えを渡す理由が「勘」
RTA_gazer:絶対違う
名無し:ツッコミあたらねぇwww
勇者ファン:走者さん、本当は優しいと思う
名無し:否定しないのがね……
TAS_watcher:「勘」……
前回も「勘」だった。
走者の「勘」の定義が
解析できない。
名無し:神が「勘」に詰まり始めてて草
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```
*****
一時間五十二分後。魔王城最上階。
魔王が振り返った。
「……あ。」
(「あ」だった。
断末魔が「あ」。
スキップ不要の可能性がある。
メモ。)
「また来たのか。」
「また来た。」
「……今回は、少し話したかったのだが。」
走者が止まった。
(……。
前回も同じことを言っていた。
今回は少し余裕がある。)
「次回。」
「次回があるのか?」
「ある。何度でも。」
魔王が少し笑った。
「……それは、嬉しいのか、悲しいのか。」
(わからない。
でも——)
「どちらでもない。
俺が来るのは、お前に用があるからじゃない。
記録のためだ。」
「……正直だな。」
「どうぞ。」
「……どうぞ、じゃないだろう。」
魔王が笑いながら消えた。
そして走者は記録が出る直前にいった。「ざまぁ」
女神(この人、今ざまぁって言いました?!)
```
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名無し:断末魔が「あ」のwww
wktk_runner:スキップ不要の可能性でメモするな
RTA_gazer:「どうぞ」を走者から言い始めた
勇者ファン:魔王さんが笑った!!
名無し:「どうぞじゃないだろう」で笑う魔王好き
名無し:正直すぎる走者と魔王の関係が好きになってきた
TAS_watcher:魔王が笑った。
前回も笑った。
今回の方が、長く笑った。
……魔王の断末魔が変化している。
これは、仕様外だ。
名無し:神が魔王の変化を記録してるの切ない
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```
【記録】
走者 :一時間五十二分四秒
Any% #088
(縮まった。
前回より十五分。
確実に縮まっている。)
画面の端が光った。
【記録更新】
TAS神 :一時間五十二分四秒
(同フレーム・理論値到達)
(……また同フレームか。)
(でも、縮まった。)
(必ず、届く。)
走り出した。
```
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名無し:また同フレームかよ!
wktk_runner:でも15分縮まったじゃん
RTA_gazer:じわじわ縮まってるの熱い
勇者ファン:走者さんがんばれ……!
名無し:ざまぁっていえばざまぁ系じゃねえぞwww
wktk_runner:最速で世界救ってるから、ざまぁだろ
TAS_watcher:同フレーム更新完了。
前回比、マイナス十五分。
次回も縮めてくるだろう。
……なぜか、それを——
TAS_watcher:(接続が一時的に不安定です)
名無し:え!?
wktk_runner:神が落ちた!?
RTA_gazer:TAS_watcherさん大丈夫??
勇者ファン:TAS_watcherさーーーん!!
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視聴者数:3,891 → 7,204
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リスタート #089 へ
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TAS神 記録ログ #088
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イベント :追放(パーティ離脱)
予測行動 :悲しい別れ→涙→一人旅立ち(推定十五分)
実測行動 :書類三枚を提出して精算(四分)
記録乖離 :十一分
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追跡異常①
書類に「感動的な別れシーン免除申請書」
が含まれていた。
感動的な別れシーンを
「省略可能な項目」として認識している。
……なぜ省略しようとしたのか。
……なぜ省略できなかったのか。
両方、解析中。(進捗それぞれ0%)
追跡異常②
「控え」を剣士に渡した。
渡す理由を問われ「勘」と答えた。
今回で「勘」の使用が三回目。
「勘」の定義:
感情があるのに言語化しない場合に
使用される語。
……つまり、感情がある。
追跡異常③
魔王の断末魔が「あ」だった。
前回は「なぜだ」(十四文字)だった。
今回は「あ」(一文字)だった。
魔王が、走者に慣れてきている。
※「どうぞじゃないだろう」と言いながら
消えた魔王の顔について:
記録したくなかったが、した。
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記録結果:同フレーム更新(理論値到達)
前回比 :−十五分四秒
総評:
縮まっている。
毎回、縮まっている。
理論上、同フレームは永遠に維持できる。
問題はない。
配信欄への書き込みを
今回も一時停止しようとした。
できなかった。
理由は——
(ログが途切れています)
後書き:今回のなろうテンプレ「追放系」について**
今回走者が踏んだのは「追放」です。
なろう系で最も「ざまぁ」と相性がいいテンプレートのひとつ。有能なのに不当に追放される、覚醒する、元パーティが後悔する、という構造が王道です。感動的な別れのシーンと、一人旅立ちの孤独感が見どころです。
走者は書類三枚でこれを四分に圧縮しました。
なお別紙三「感動的な別れシーン免除申請書」については、世界中のどこのギルドにも存在しない書類です。走者が独自に作りました。任意です。
ちなみに剣士はサインしませんでした。正解だと思います。
次回:#003「悪役令嬢断罪RTA」
走者、なぜか断罪会場の中心にいる。
(勇者なのになぜそこにいるのかは謎)
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