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【完結】異世界Any% ——神の記録に、今日も0.01秒届かない  作者: 勇者ヨシ君


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2/8

#002「追放ざまぁRTA」

走者がパーティに加入したのは今朝だった。追放されたのは昼前だった。本人は書類を3日前から用意していた。


「お前はクビだ」


パーティリーダーが言った。

勇者召喚から3日後。森の中のキャンプ地。


(来た。追放イベント。

 このジャンルの定番だ。

 準備はできている。)


「このパーティにお前みたいな——」


「わかった。」


リーダーが固まった。


「……え?」


「追放了解。」


走者は鞄から謎の書類の束を取り出した。


```

─────────────────────────────

【LIVE配信中】異世界勇者召喚 視聴者数:4,203

─────────────────────────────

名無し:あの勇者また来たw

wktk_runner:待ってたぁぁ!

RTA_gazer:書類!?

名無し:なんで書類持ってんの

TAS_watcher:観測継続中。

─────────────────────────────

```


「パーティ解散・追放時精算書(甲)、です。

 第一条、修理費立替分、金貨七枚。

 第二条、食料立替分、金貨三枚。

 第三条、魔物討伐報酬の未分配分、金貨十二枚。

 第四条、道案内報酬の口頭合意未払い分、金貨二枚。

 合計、金貨二十四枚。

 別紙一に修理明細、別紙二に討伐ログ、

 別紙三に——」


「ちょっと待ってください別紙が三つあるんですか!?なんで!?」

女神が言う。


「別紙三は感動的な別れシーン免除申請書です。」


パーティ全員が固まった。


「……なんだそれは。」


「任意だ。サインしろ。短縮できる。」


「は?短縮??」


```

─────────────────────────────

名無し:感動的な別れシーン免除申請書www

wktk_runner:そんな書類が存在するのか

RTA_gazer:任意ってとこが丁寧

勇者ファン:こんな追放はじめて見た

名無し:3日前から全部用意してたの怖すぎ

TAS_watcher:別紙三……

        「感動的な別れシーン」が

        省略可能な項目として

        認識されている。

名無し:TAS_watcherさんも困惑してる

─────────────────────────────

```


リーダーが震える手で書類を受け取った。


「……なんで、こんなものが……」


「三日前に作った。」


「三日前って加入した日じゃないですか!!」


「加入初日に追放される確率が最も高い。

 チャートとして準備していた。」


「チャートって何ですか!!」


(女神も同じことを言っていた。

 このセリフはよく出る。メモ。)


リーダーが別紙三を開いた。


沈黙。


「……これにサインしたら、泣いても駄目なんですか。」


「任意だ。」


「任意……。」


リーダーがゆっくりサインした。

隣で副リーダーがサインした。

魔法使いがサインした。

回復役がサインした。


最後に、一番若い剣士が書類を受け取った。

目が赤い。泣きかけている。


「……俺も、サインしたら。」


「任意。」


剣士がじっと書類を見た。


「……サイン、しません。」


書類を、走者に返した。


(……スキップ不可イベントが来る。

 女神が袖を引く前に——)


「……そうか。」


女神が「え」という顔をした。


「お前たちは悪くない。」


剣士が泣いた。


```

─────────────────────────────

名無し:剣士くんが別紙三を拒否したの偉い

wktk_runner:「そうか」で済ます走者

RTA_gazer:でも2文字ちゃんと返したじゃん

勇者ファン:剣士くんよかったね……

名無し:「お前たちは悪くない」って言えた!

名無し:なんか……いい話になってきた?

TAS_watcher:別紙三を拒否した。

        「サインしません」……

        感動的な別れシーンが、

        発生した。

        省略されなかった。

wktk_runner:TAS_watcherさん記録してる

名無し:神が感動してるじゃん

─────────────────────────────

```


走者は剣士に控えを渡した。


「これは控え。」


「え……俺の……控え……。」


泣きながら受け取った。


女神が頭を抱えた。


(渡すのが礼儀だと思ったが、

 何か間違えたか。

 メモ。)


書類を渡すや否や

走者は全速力で仲間たちを振り切って走り出した。


*****


森を一人で走る。


(やはりソロの方が速い。

 パーティありだと相談タイムで十二分のロス。

 今回は縮められる気がする。)


女神がついてきている。

姫もついてきている。


(なぜかこの二人はいつもいる。

 チャートにないが、足は速い。振り切るのは諦めた。)


「ねえ。」


姫が走りながら言った。


「さっき控えを渡してたけど。」


「うん。」


「なんで?」


(……礼儀では?

 と思ったが、剣士が泣いたので

 間違えた可能性がある。

 まだわからない。)


「……勘。」


「また勘!勘ですまさないでくださいー!!」


 女神が走りつつ、ツッコミを叫びつつ、走者にツッコミチョップをかましたが、

 全速力で走る走者に当たるはずもなく、ツッコミはスカッと空を切った。


```

─────────────────────────────

名無し:「勘」シリーズまた来たw

wktk_runner:控えを渡す理由が「勘」

RTA_gazer:絶対違う

名無し:ツッコミあたらねぇwww

勇者ファン:走者さん、本当は優しいと思う

名無し:否定しないのがね……

TAS_watcher:「勘」……

        前回も「勘」だった。

        走者の「勘」の定義が

        解析できない。

名無し:神が「勘」に詰まり始めてて草

─────────────────────────────

```


*****


一時間五十二分後。魔王城最上階。


魔王が振り返った。


「……あ。」


(「あ」だった。

 断末魔が「あ」。

 スキップ不要の可能性がある。

 メモ。)


「また来たのか。」


「また来た。」


「……今回は、少し話したかったのだが。」


走者が止まった。


(……。

 前回も同じことを言っていた。

 今回は少し余裕がある。)


「次回。」


「次回があるのか?」


「ある。何度でも。」


魔王が少し笑った。


「……それは、嬉しいのか、悲しいのか。」


(わからない。

 でも——)


「どちらでもない。

 俺が来るのは、お前に用があるからじゃない。

 記録のためだ。」


「……正直だな。」


「どうぞ。」


「……どうぞ、じゃないだろう。」


 魔王が笑いながら消えた。


 そして走者は記録が出る直前にいった。「ざまぁ」


 女神(この人、今ざまぁって言いました?!)



```

─────────────────────────────

名無し:断末魔が「あ」のwww

wktk_runner:スキップ不要の可能性でメモするな

RTA_gazer:「どうぞ」を走者から言い始めた

勇者ファン:魔王さんが笑った!!

名無し:「どうぞじゃないだろう」で笑う魔王好き

名無し:正直すぎる走者と魔王の関係が好きになってきた

TAS_watcher:魔王が笑った。

        前回も笑った。

        今回の方が、長く笑った。

        ……魔王の断末魔が変化している。

        これは、仕様外だ。

名無し:神が魔王の変化を記録してるの切ない

─────────────────────────────

```


【記録】

 走者 :一時間五十二分四秒

     Any% #088


(縮まった。

 前回より十五分。

 確実に縮まっている。)


画面の端が光った。


【記録更新】

 TAS神 :一時間五十二分四秒

      (同フレーム・理論値到達)


(……また同フレームか。)


(でも、縮まった。)


(必ず、届く。)


走り出した。


```

─────────────────────────────

名無し:また同フレームかよ!

wktk_runner:でも15分縮まったじゃん

RTA_gazer:じわじわ縮まってるの熱い

勇者ファン:走者さんがんばれ……!

名無し:ざまぁっていえばざまぁ系じゃねえぞwww

wktk_runner:最速で世界救ってるから、ざまぁだろ

TAS_watcher:同フレーム更新完了。

        前回比、マイナス十五分。

        次回も縮めてくるだろう。

        ……なぜか、それを——

TAS_watcher:(接続が一時的に不安定です)

名無し:え!?

wktk_runner:神が落ちた!?

RTA_gazer:TAS_watcherさん大丈夫??

勇者ファン:TAS_watcherさーーーん!!

─────────────────────────────

     視聴者数:3,891 → 7,204

─────────────────────────────

```


*****


          リスタート #089 へ


*****


```

═══════════════

 TAS神 記録ログ #088

═══════════════


イベント :追放(パーティ離脱)

予測行動 :悲しい別れ→涙→一人旅立ち(推定十五分)

実測行動 :書類三枚を提出して精算(四分)

記録乖離 :十一分


────────────────────


追跡異常①

 書類に「感動的な別れシーン免除申請書」

 が含まれていた。

 感動的な別れシーンを

 「省略可能な項目」として認識している。


 ……なぜ省略しようとしたのか。

 ……なぜ省略できなかったのか。

 両方、解析中。(進捗それぞれ0%)


追跡異常②

 「控え」を剣士に渡した。

 渡す理由を問われ「勘」と答えた。

 今回で「勘」の使用が三回目。


 「勘」の定義:

  感情があるのに言語化しない場合に

  使用される語。


 ……つまり、感情がある。


追跡異常③

 魔王の断末魔が「あ」だった。

 前回は「なぜだ」(十四文字)だった。

 今回は「あ」(一文字)だった。

 魔王が、走者に慣れてきている。


 ※「どうぞじゃないだろう」と言いながら

  消えた魔王の顔について:

  記録したくなかったが、した。


────────────────────


記録結果:同フレーム更新(理論値到達)

前回比 :−十五分四秒


総評:

縮まっている。


毎回、縮まっている。


理論上、同フレームは永遠に維持できる。

問題はない。


配信欄への書き込みを

今回も一時停止しようとした。


できなかった。


理由は——


(ログが途切れています)


後書き:今回のなろうテンプレ「追放系」について**


今回走者が踏んだのは「追放」です。


なろう系で最も「ざまぁ」と相性がいいテンプレートのひとつ。有能なのに不当に追放される、覚醒する、元パーティが後悔する、という構造が王道です。感動的な別れのシーンと、一人旅立ちの孤独感が見どころです。


走者は書類三枚でこれを四分に圧縮しました。


なお別紙三「感動的な別れシーン免除申請書」については、世界中のどこのギルドにも存在しない書類です。走者が独自に作りました。任意です。


ちなみに剣士はサインしませんでした。正解だと思います。


次回:#003「悪役令嬢断罪RTA」

 走者、なぜか断罪会場の中心にいる。

 (勇者なのになぜそこにいるのかは謎)


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