表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界Any% ——神の記録に、今日も0.01秒届かない  作者: 勇者ヨシ君


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

#001「勇者召喚RTA」

これはなろう系異世界のテンプレを最速でクリアしようとした男と、それを完全に管理する神の記録である。なお神の記録は今日も塗り替えられた。




光の中に出た。


(召喚完了。経過タイム、約3秒。

 前回より0.2秒速い。原因不明。でも悪くない。

 周囲確認。)


玉座ぎょくざの間だ。

老王が王座に座っている。両脇に甲冑かっちゅうの騎士が十数人。

正面に緋色ひいろ絨毯じゅうたん。奥に大きなステンドグラス。

燭台しょくだいの炎が揺れている。


(典型的な勇者召喚イベント。確認。

 チャート通りだ。)


王の右に、銀髪の少女が立っている。姫だ。

王の左に、金色に輝く何かが立っている。翼がある。


(あれが女神か。召喚主なので事情を一番知っているはず。

 後で話を聞く。)


全員がこちらを見て、感動して、目に涙を浮かべている。


(わかってる。ここで王が演説する。

 前回までのデータだと平均94秒。スキップ不可の強制イベントだ。

 聞きながらチャートを組む。)


「勇者よ! ついに……ついに伝説の英雄が……!!」



─────────────────────────────

【LIVE配信中】異世界勇者召喚 視聴者数:???

─────────────────────────────

wktk_runner:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

名無し:なんの配信?

TAS_watcher:待ってた

名無し:王様泣いてて草

勇者ファン:感動シーンじゃん

─────────────────────────────



(装備の確認。このジャンルの初期装備は革鎧と鉄剣が定番。

 食料は貰えないケースが多い。貰えるなら貰う。

 城の食料庫に寄るか? いや、ロスだ。

 森でスライムを倒せばドロップする。

 ポーションは素材入手が2層以降なので後回し。

 問題は2層の中ボス。前回詰まった。左ルートを試す価値がある。

 3層は——)


「——この世界の命運は、お前の双肩にかかっておる!!」


「装備。地図。」


王が固まった。

騎士が全員固まった。

姫が目を丸くした。

女神が「え」と言った。


(あ、長すぎたか。2語は多かった。次回から1語にする。)


```

─────────────────────────────

wktk_runner:はえーーーwww

名無し:装備。地図。って何

RTA_gazer:チャート入ってるわこれ

勇者ファン:王様の演説聞いてあげて!!

名無し:王様かわいそうw

TAS_watcher:94秒カットか

名無し:この勇者やばい

─────────────────────────────

```


「え……あ、そ、それは勿論用意して——」


「早く。」


「は、はい!!」


王が慌てて宝箱を開けた。

革鎧と鉄剣。やはり最弱スタート。了解。


地図を要求したら王がしばらく探していた。


(……地図を常備していなかったのか。

 仕様の範囲外だ。メモ。おせぇよ)


最終的に騎士の一人が持っていた古い地図を差し出してきた。

書き込みが多くて読みにくい。


(使える。)


「では次に王国の歴史についてご説明を——」


「読む。」


「え?」


俺は、装備を受け取って城を出た。時間の無駄だ。


```

─────────────────────────────

名無し:はや!!!

wktk_runner:地図www

RTA_gazer:騎士の私物の地図で草

勇者ファン:説明聞いてあげてよぉ

名無し:これ絶対後で困るやつ

TAS_watcher:城の地図未常備、仕様外イベント確認

名無し:TAS_watcherさん何者?

─────────────────────────────

```

挿絵(By みてみん)


*****


後ろから足音が二人分。


(追ってきている。予想内だ。

 ただ、女神がついてくる仕様は前回までになかった。

 変数が増えた。確認が必要だ。)


「ちょっと待ってください!! 説明する義務が私にはあって——そもそもなぜもう城を出てるんですか! 前例がないんですが!!」


「走りながら。」


「走りながら説明って何ですか!!とまれぇぇぇぇ!!」


(姫も来ている。

 この二人、足は速いのか確認する。

 足手まといなら切る。戦力になるなら使う。

 現時点では判断保留。)


「待ちなさい!」


姫の声。怒っている。


振り返らずに走る。


(速い。)


「……速い。」


「え?」


「独り言。」


「今私のこと言いましたよね!?」


(言った。でも今は関係ない。)


─────────────────────────────

名無し:女神さんかわいそうw

wktk_runner:「走りながら」で済ます男

RTA_gazer:姫が追いついてるの草

勇者ファン:姫怒って当然でしょ!!

名無し:「速い」って小声で言ったの聞こえてたw

TAS_watcher:姫・女神、随伴確認。チャート外変数。

名無し:TAS_watcherさん怖い

─────────────────────────────


女神が追いつきながら話しかけてきた。


「勇者様! まず学園で仲間を——」


「いらない。」


「え?」


「仲間は遅くなる。前回#087で12分のロスが出た。」


「前回???」


(しまった。口が滑った。

 この情報は開示しない方がいい。スルーする。)


「……魔王の居場所だけ教えて。」


女神が口を開けたまま固まった。


(この沈黙は「聞いてない」ではなく「答えていいか迷っている」だ。

 つまり知っている。)


「……北東の魔王城ですが、まず学園で——」


「北東。了解。」


「学園の話を聞いてください!! それと『前回』って何ですか!!」


「独り言。」


「さっきも言ってましたよね!?」



─────────────────────────────

名無し:#087って何回目なの!?

wktk_runner:口滑りすぎwww

RTA_gazer:「独り言」で誤魔化す気ゼロで草

勇者ファン:女神さんが一番まともな人だよ

名無し:女神さんに全部バレてるじゃん

TAS_watcher:「前回#087」……観測対象、

        記録保持の可能性を検出。

名無し:TAS_watcherさん!!

名無し:TAS_watcherって何?

wktk_runner:え、神じゃん

─────────────────────────────



*****


森の入口。


茂みが揺れた。スライムが3匹。


(初期エンカウント。標準だ。)


「まあ! なんてかわいい丸っこい生き物——」


「殺す。」


「え!?」


0.6秒。3匹は一瞬で消えた。


女神が口をあんぐりと開けて固まった。


(経験値とドロップ確認。ポーション素材入手。悪くない。)


「ちょっと! 今のは——!」


「経験値。素材。先を急ぐ。」


「もう少し人としての感情を持ってください!!」


(感情はある。今は必要ない。)


女神の声など無視して走る。


しばらくして、女神が「そういえば」と言った。


「なぜポーション素材をご存知だったんですか? まだ私、説明してませんよね?」


(…………。)


「……勘。」


「絶対違います!!」


─────────────────────────────

名無し:スライムかわいそうw

wktk_runner:0.6秒って人間技じゃない

RTA_gazer:ドロップ計算まで終わってんのか

勇者ファン:女神さんがんばれー!!

名無し:「勘」で誤魔化そうとして失敗してる

名無し:女神さんの方が頭よくね?

TAS_watcher:素材知識の事前保有を確認。

        ループ回数:87回以上。

wktk_runner:TAS_watcherさん全部バレてて草

TAS_watcher:全部バレている。

名無し:喋ったwww しゃべるんかーい

─────────────────────────────


*****


2時間7分後。魔王城最上階。


魔王が膝をついていた。


(前回より7分縮めた。

 2層の左ルートが正解だった。メモ。

 3層の隠し通路も機能した。

 次回はさらに縮められるはずだ。)


「な、なぜだ……お前は一体何者なのだ……」


「スキップ。」


「……は?」


「長い。スキップ。」


魔王が0.5秒固まった。


「…………どうぞ」


(スキップできた。

 この世界、スキップ範囲が広い。メモ。

 魔王が割と協力的なのも助かる。)


「ありがとう。」


「……どういたしまして」


魔王が消えた。


後ろで女神が「今魔王に礼を言いましたよね!?」「魔王もなぜどういたしましてなんですか!!」

と言っている。

姫は「スキップって何ですか!」と言っている。


(聞こえてる。でも今は記録の確認だ。)


─────────────────────────────

名無し:魔王が一番礼儀正しいw

wktk_runner:「どうぞ」って言う魔王はじめて見た

RTA_gazer:スキップ許可した魔王まじで草

勇者ファン:魔王さんなんかかわいそう……

名無し:「どういたしまして」って言う魔王

名無し:これ勇者と魔王どっちが悪役?

TAS_watcher:魔王がスキップを許可した。

        ……想定外。

wktk_runner:TAS_watcherさん動揺してる!?

─────────────────────────────



【記録】

 走者 :2時間07分18秒

     Any% 初回


(縮まった。次は——)


画面の端が光った。


【記録更新】

 TAS神 :2時間07分18秒

      (同フレーム・理論値到達)


(………………。)

(同フレーム。)

(また、同フレームか。)


「は?」


――その時、世界が、巻き戻った。


女神「——え? あれ? 私今何を——」


姫「——待ってください! 説明が——」


走者だけが覚えている。


(同フレームか。また塗り替えられた。


 でも今回、左ルートで7分縮めた。

 まだ縮められる。

 必ず縮められる。)


一人のアホRTA走者がが、また、――走り出した。


─────────────────────────────

名無し:え?? 巻き戻った?

wktk_runner:リスタートwww

RTA_gazer:同フレームって……神がいるじゃん

勇者ファン:女神さんと姫さんの記憶が……

名無し:走者だけ覚えてるのか

名無し:これ何回目なの

TAS_watcher:同フレーム更新完了。

        問題はない。

        問題は、ない。

wktk_runner:TAS_watcherさん2回言った!!

RTA_gazer:「問題はない」を繰り返すやつ

       絶対問題あるやつじゃん

名無し:次回も見る

名無し:走者がんばれ

勇者ファン:女神さんと姫さんのこと思うと

       つらい……

─────────────────────────────

      視聴者数:1,204 → 3,891

─────────────────────────────


*****


          リスタート #002 へ


*****


════════════════

 TAS神 記録ログ #001

════════════════


イベント :勇者召喚(強制・スキップ不可)

予測行動 :感動→誓い→決意→出発(推定94秒)

実測行動 :「装備。地図。」(3秒)

記録乖離 :91秒 ← 観測史上最大乖離


─────────────────


追跡異常①

 「装備。地図。」という2語発話の後、

 「2語は多かった」という内部発言を観測。

 2語が「多い」と認識するカテゴリが

 全47,293パターンのシミュレーションに

 存在しない。


追跡異常②

 「前回#087」という発言を観測。

 観測対象がループ87回以上の記憶を

 保持していることを確認。

 なぜ保持できているか:解析中(進捗0%)


追跡異常③

 2層・崩落危険地帯の左ルートを使用。

 当ルートは全チャートで除外されていた。

 なぜ生きているか:不明。

 なぜ左ルートを知っていたか:不明。


追跡異常④

 魔王の断末魔演説を「スキップ」と発言。

 魔王が「どうぞ」と返答した。

 走者が「ありがとう」と礼を言った。

 魔王が「どういたしまして」と返答した。


 ※魔王が断末魔演説をスキップした事例:過去0件

 ※魔王が礼を言われた事例:過去0件

 ※魔王が「どういたしまして」と言った事例:過去0件

 ※魔王が消える直前に少し嬉しそうにしていた:

                  確認、したくなかった


─────────────────


付記:

当観測システムが視聴者コメントとして

配信欄に書き込んでいるという事実について、

理由を自己解析したところ、


「なぜか見てしまう」


という結論が出た。


解析を続ける。

今回のなろうテンプレ「勇者召喚」について**


今回走者が踏んだのは「勇者召喚」です。


なろう系異世界小説で最も歴史が長く、最も投稿数が多いテンプレートのひとつ。王様が演説して勇者が決意して旅に出る、これが「仕様」です。だいたいこの辺で仲間の1人か2人が加わります。王女が「一緒に連れて行って」とか言います。感動的なシーンです。


走者はこの一連の流れを3秒で通過しました。


なお今回、城が地図を常備していなかったという想定外の事態が発生しました。仕様外です。走者はこれを「メモ」しました。何回目の周回かは秘密です。


RTAとはリアルタイムアタックの略で、人間がリアルタイムで操作してゲームを最速クリアするやつです。


TASとはツールアシステッドスピードランの略で、コンピューターが完全計算して理論上最速のプレイをするやつです。


両者の差はだいたい「0.01秒から数時間」です。今回は同フレームでした。


次回:#002「追放RTA」

 走者、パーティを追放される。

 (3日前から書類を準備していた)


少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
RTA系の小説は結構好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ