愛しい
「俺はずっと待っていた。君がここに来てしまうことを。ずっと、悔やんでいた。無理にでも引き留めていれば、君は死なずに済んだかもしれないと。ずっと悩んでいた。君が何に苦しんでいたのかを。ずっと、求めていた。もし君が死んだとしても、再び、会話をする時を」
青年はそうすらすら述べると、少し笑った。青年のその笑みが、少年の笑みと重なり、少女の胸は締め付けられた。ずっと、待っていてくれた。こんなに長い年月が経っても。もしかしたら、ここで死ぬことは叶わなかったかもしれないのに。その可能性を考えたのだろうか。
『 ごめんなさい…… 』
少女の瞳から、涙が溢れでた。顔を両手で覆い、俯いて泣きじゃくる彼女の肩を、青年は優しく抱いた。少女は自分をかき抱いていた手を青年の背に回す。二人はぎゅっと抱きしめ合う。
「君はそろそろ消えてしまう。砂となって。ひとつ、頼みたい。俺の部屋に、君の砂を置いても良いだろうか。ずっと、見守ってもらえないだろうか」
少女は頷き、自身の涙をそっと拭った。そして、青年から少し離れる。青年を見る瞳には、まだ水の膜が張っていて、今にもそれは弾けそうだった。その瞳の奥にゆらめく炎は、熱いのではなく、暖かい。
『 私ね、出会った時から、貴方のことが好きだった。どこかしがらみに縛り付けられているような雰囲気を纏って、蜘蛛の巣を瞳の中に宿して、そして、そんな貴方を、守りたいと思った。結局は、守られる側だったし、余計にしがらみを増やしてしまったけれど 』
少女が苦笑した。青年はいや、と首を振ってそして微笑んだ。青年の中の宝石は相変わらず凍りついたままだけれど、蜘蛛の巣の拘束が少し、いや、それなりに緩んでいる。
「こっちこそ、いつも助けてもらっていた。君のおかげで、父上から技を貰おうとする意欲ができた。それまでは、真凪を扱うのが嫌だったから、学ぶ機会が得られてよかったよ」
少女ははっ、と目を見開く。そして、忙しなく息をし始めた。苦しいのだろうか、少女の瞳の膜が弾ける。青年はそっと、ボロボロと涙をこぼしながら喘ぐ少女の足に目をやる。少女の足が、砂となって崩れていく。ついに、別れる時になってしまった。青年は、少女の足に触れた。ぶつぶつと何かを唱えると、青年の手が光る。真凪を使っているのだ。少女は少し痛みが和らいだのか、普通の息に戻る。少女は潤んだ瞳で青年と見つめ合う。
「じゃあ、約束を果たすよ。君を俺が弔ってやる。そして、君も約束を果たしてくれ。俺を、最後まで見守って欲しい」
『 うん、見守ってるよ、ずっと 』
少女の体はどんどん崩れていく。足、腰、もうすでに上半身しかなく、手も崩れていっている。青年の目にゆらめく膜が張る。ああ、ずっとこのまま、時が続いたらいいのに。少女は架空の手を、すでに崩れてしまった手を、青年に向けて差し伸べる。
『 ねえ……キス、して 』
少女が、目を閉じる。青年は、ためらったが、彼女の口に自身の口を重ねた。ゆったりと、それでいて、しっかりと。
《 ありがとう…… 》
少女は、消え去った。青年は身体を起こす。彼の瞳の膜が弾けて、ポロリと一粒、涙がこぼれ落ちた。
ここで終わりにしても良かったのですが、もう少し続きます。お付き合いください。あと、メリークリスマス。




