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影添いの契 余白録 ―雨夜綴り―  作者:


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6/7

影の距離

雨が、やわらかく降っている。


森の奥。


白と黒は、いつものように並んでいた。


変わらない距離。

変わらない在り方。


けれど。


その夜は、ほんのわずかに違っていた。


黒が、ふと視線を横に向ける。


白は、すぐ隣にいる。


近い。


けれど——触れられない距離。


「……なあ」


珍しく、黒が口を開く。


白は、静かに視線を向ける。


応える準備だけが、そこにある。


「お前は」


少しだけ、言葉を探すように間が空く。


「それで、いいのか」


曖昧な問い。


けれど。


何を指しているのかは、伝わっている。


白は、すぐには答えない。


雨音が、間を満たす。


やがて。


「いい、と定めている」


静かな声。


揺らぎのない響き。


黒は、小さく息を吐く。


「……定め、か」


その言葉をなぞるように。


どこか、納得しきれない色が混じる。


しばらくの沈黙。


そして。


黒が、ほんのわずかに——距離を詰める。


本来なら、変わらないはずの間合い。


それが、ほんの少しだけ近づく。


触れる、直前。


白の気配が、微かに揺れる。


拒まない。

だが、踏み込まない。


その均衡。


その、ぎりぎりの場所。


黒は、そこで止まる。


「……あと少しで」


呟きが、雨に溶ける。


白は、目を伏せる。


「越えれば、形が変わる」


それは、警告ではない。


ただの事実。


黒は、苦笑に似た気配を落とす。


「変わるのは、悪いことか」


白は、答えない。


代わりに——


ほんの、わずかだけ。


今度は白が、距離を詰める。


同じだけ。


同じ分だけ。


互いに踏み込んだ、その位置。


触れない。


けれど、もう“いつも通り”ではない。


黒の瞳が、わずかに揺れる。


「……ずるいな」


白は、何も言わない。


ただ、そこにいる。


その在り方のまま。


黒が、静かに笑う気配。


「それ以上は、来ないんだろ」


白は、わずかに首を傾ける。


否定でも、肯定でもない。


だが。


その沈黙が、答えだった。


黒は、目を閉じる。


「……それでいい」


そう言いながらも。


ほんの一瞬だけ。


その距離を、惜しむように。


そして。


ゆっくりと、元の位置へ戻る。


白もまた、同じように。


再び並ぶ、いつものかたち。


触れずに。

離れずに。


けれど——


その夜を境に。


“触れられなかった距離”は、少しだけ意味を変えた。


雨は、やまない。


森の奥。


誰も知らないその場所で。


白と黒は、今日も寄り添っている。


決して交わらないまま。


それでも。


ほんの少しだけ、近づいた記憶を残して。


それは——


形にはならない、静かなぬくもり


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