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影添いの契 余白録 ―雨夜綴り―  作者:


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2/7

影の残響

雨が、降り続いている。


音は途切れない。

止むこともない。


ただ、同じように落ちては、消えていく。


黒は、その中に立っていた。


隣には、白。


何も言わない存在。

けれど、離れることはない。


その静けさの中で。


黒は、時折——


“思い出す”。


断片。


形にならない、過去の欠片。


それは、名前のない記憶。


誰のものかも、わからない。


だが。


確かに、“自分の中にある”。


――手。


誰かの、手を取ろうとしていた。


届かない。


あと少しで触れられるはずの距離で。


その手は、離れていく。


「……待って」


声が出たのかどうかも、わからない。


ただ、掴めなかったという感覚だけが残る。


雨が、強くなる。


視界が滲む。


それが雨のせいなのか。


それとも——


別の何かなのかは、もう区別がつかない。


――諦めるしかなかった。


そうしなければ、壊れてしまうほどに。


何かを、手放した。


その“結果”だけが、ここにある。


黒は、ゆっくりと目を伏せる。


「……これで、よかった」


誰に向けた言葉でもない。


ただ、残ってしまった響き。


白が、わずかに動く。


黒のすぐ隣へ。


変わらない距離。


触れない。

けれど、離れない。


その在り方は、あまりにも静かで。


だからこそ。


消えかけた何かを、繋ぎ止める。


黒は、目を開く。


その瞳は、深い闇の色をしている。


だが。


その奥に、微かな光がある。


それは、かつての記憶の名残。


あるいは——


手放したはずの“願い”。


「……まだ」


言葉が、零れる。


雨に溶けるような、かすかな声。


「消えていない」


何が、なのか。


黒自身にも、はっきりとはわからない。


それでも。


完全には、失われていない何かがある。


だから。


ここに、在り続けている。


白が、わずかに視線を向ける。


問いかけはない。

肯定もない。


ただ、そこにいる。


それだけで。


黒は、ひとつ息を落とす。


それは、安堵に近いものだった。


記憶は、戻らない。


過去も、もう手の届かない場所にある。


それでも——


残っているものがあるのなら。


それはきっと。


失われたものの“代わり”ではなく。


ここに在る理由なのだと。


雨は、やまない。


森の奥。


誰も知らないその場所で。


白と黒は、今日も並んでいる。


触れずに。


離れずに。


ただ、影を重ねるように。


黒の瞳に宿る、わずかな優しさは。


遠い昔。


確かに存在していた“誰か”の、残響。


そしてそれは——


今も、消えずに在り続けている。


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