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【第24話】それぞれの空の下。最後のクラス入れ替え戦開幕

年の瀬が近づくグラン・フォリア王国のある日。


その同じ空の下で、3つの大きな出来事が同時に進行していた。


1つは、同盟国ファルシア公国へ向けて出兵した王国騎士団の動向である。


数週間前に王都を出発した、国の9割に近い戦力は、すでにファルシアとゼルディア帝国を隔てる国境の大河に到着していた。


冷たい冬の風が吹き荒れ、大河はすでに分厚い氷の橋を作り始めている。


ファルシア軍と合流し、強固な連合軍の陣営を構築したグラン・フォリアの騎士たちは、対岸に広がる帝国の前線基地を鋭く見据えていた。


張り詰めた緊張感の中、彼らは間もなく訪れる開戦の時を、ただじっと待ち続けている。



ーー



もう1つの出来事は王都の巨大タルタロス、『エテルニス』前で起きていた。


普段は観光客や冒険者で賑わうタルタロスタウンの広場だが、今日は不気味なほど静まり返り、まるでゴーストタウンのように人影がない。


国王の命により、周辺住民の避難がすでに完了していたからだ。


そびえ立つ高さ50メートルの『魔獣の檻』の前には、シエルたち第十騎士団が厳重な警備態勢を敷いていた。


そこへ、豪奢な馬車が何台も乗り付けてくる。


馬車から降りてきたのは、金糸で刺繍が施された贅沢なローブを羽織ったマギア協会の重鎮たちと、彼らが引き連れてきた王国最高峰のエリートクラフターたちだ。


重鎮の男は、広場を囲む物々しい騎士たちの姿を見て、忌々しそうに鼻を鳴らした。


「住民の避難に、騎士団の厳重な警備。まるで我々の修復作業が信用できないとでも言いたげだね」


不満を隠そうともしない重鎮に対し、シエルはプラチナブロンドの髪を揺らし、毅然とした態度で答えた。


「万が一に備えてのことであり、これは国王様からのお達しです。ご不満がおありなら、直接王城へ申し立ててください」


シエルの正論に、重鎮はふんっと鼻で笑い、しぶしぶクラフターたちに準備の指示を出し始めた。


巨大な足場が組み上げられ、エリートクラフターたちがコンバーターのルーンを光らせながらエテルニスへ近づいていく。


その様子を、シエル、エリシア、セレン、ウィリーの4人は、鋭い視線で見つめていた。


シエルは愛する弟アルノの言葉を何度も思い返していた。


『ルーンは精度がすべてなんだよ、シエル姉ちゃん。たったコンマ数ミリの線の乱れが、魔力の流れを歪めて、性能を低下させるんだ』


現代の技術では完全な解析すらできていない、巨大なロストテクノロジー。


それに安易に手を加える大人たちの慢心に、シエルの胸の奥では警鐘が鳴り響いている。



(どうか、何も起きないで……)



シエルたちの強い祈りと不安が交錯する中、ついにエテルニスのルーン修復作業が開始された。



ーー



そして最後の1つが、王立グラン・フォリア魔導学園で幕を開けようとしていた。


温暖ではあるが肌寒さを感じるグラン・フォリアの冬を、夏に巻き戻すかのような、全校生徒が発する異様な熱気。


巨大な結界に覆われた野外闘技場の中央に、威厳ある学園長が立っていた。


「これより、3年生の『クラス入れ替え戦』を開催する!」


拡声マギアを通した学園長の声に、会場から割れんばかりの歓声が上がる。


「1年、2年の入れ替え戦は春の学年末に行われるが、3年生のみはこの年の瀬に行われる。なぜなら、この結果こそが諸君らの『卒業時の最終ランク』となるからだ!」


生徒たちの顔つきが一気に引き締まる。


この世界において、学園をどのクラスで卒業するかは、今後の進路や国家機関への就職、さらには一生のステータスに直結する。


まさに人生を左右する大一番なのだ。


「対戦のルールは規定通り。入れ替えの権利を持つのは、隣り合う階級のみ。つまり『AクラスとBクラス』、そして『CクラスとDクラス』の代表チーム同士による直接対決とする!」


学園長の挨拶が終わり、進行役であるAクラス担任のギルベルトが闘技場の中央へ進み出た。


「2年の『クラス総入れ替え戦』の際に伝えたが、もう一度試合について説明をしておく。試合は4対4のチーム戦だ。各参加者は、支給された『護身用マギア』を両腕に装着すること。この腕輪型のマギアは、致命傷を感知した瞬間、体の表面をオーラの様にバリアが包み込み保護、その後砕け散る。これが一つでも砕けた時点で『戦闘不能』とみなし、失格とする」


ギルベルトは以前と同じく、自分の手首の魔石がはまった銀色の腕輪を掲げて見せた。


「2つめの腕輪は、万が一1つめの腕輪で吸収しきれなかった威力を逃がす安全装置だ。闘技場の場外へ落下した場合も失格となる。チーム全員が失格となった時点で決着だ。……説明は以上だ、質問は受け付けない」


2年の時に聞いた説明と同じ内容を聞いた3年生たちは、いよいよ人生を左右する試合が始まることに緊張が最大限に高まる。


「第一試合、3年Cクラス代表対、3年Dクラス代表。両チーム、前へ」


ギルベルトの固い声とともに、両クラスの代表チームが闘技場へ足を踏み入れる。


Dクラスの生徒たちの目には、下克上を果たして少しでも良い進路を掴み取ろうとする執念が燃えていた。



「試合開始!」



合図とともに、Dクラスが奇襲を仕掛ける。


だが、Cクラスの代表チームは冷静だった。


Cクラスのガーディアンが展開した強固な結界がDクラスの攻撃をあっさりと弾き返し、その隙を突いてマジックキャスターが闘技場を舐めるように炎を放つ。


その後も地力と連携力に勝るCクラスが、終始試合のペースを握り続けた。



パリィンッ!、パキィンッ!



Dクラスチームの腕輪が砕け散る音が連続して響き、10分もたたず決着がついた。


「勝者、3年Cクラス!」


ギルベルトの宣言に、Cクラスの観客席から歓喜の声が爆発する。


「よっしゃああっ!よくやったお前ら!」


観客席の最前列で、Cクラス担任のバルガスが安堵と喜びで大げさにガッツポーズを取っていた。


Dクラスでは、夏休み明けに急遽担任となった、ベルナードという名の若い教師が明るく慰める様子が見られたが、当然そこにセリアの姿は見当たらなかった。


結果、CクラスとDクラスの入れ替えは発生せず、彼らの卒業クラスが確定した。




ーー



闘技場がCクラス勝利の余韻に包まれる中、次に控える最終試合への期待が、会場の熱気をさらに一段階引き上げていた。


いよいよ、学園最強のAクラス代表『チームグラン・フォリア』と、Bクラス代表『チームガレオス』が激突するのだ。


闘技場へと続く薄暗い待機通路では、アルノたち4人が静かにその時を待っていた。


緊張感からか、いつもは強気なミラもポンチョの裾をギュッと握りしめ、杖の唐草模様を見つめて無言になっている。


カイルは漆黒の大盾のグリップを何度も握り直し、極限まで集中力を高めていた。


アルノはというと親指の指輪を外し、内側のルーンを見つめながら考え事をしている。


そしてシルフィアもハルモニアを通じて、精霊と「ぶつぶつ」と何か会話を続けていた。



「おい、アルノ・ガレオス!、みんなっ!」



突然通路の奥から荒々しくも温かい声が響き、アルノたちが顔を上げる。


そこに立っていたのは、ダグラスをはじめとする、元Dクラス時代からのクラスメイトたちだった。



「ダグラス!みんなも。…観客席にいたんじゃないの?!」


「ばか、最後くらい見送らせろ!お前らは俺たち底辺からの星なんだ。絶対に勝って……いや、結果なんてどうでもいいさ!ただ悔いが残らないようにな!」



ダグラスが歩み寄り、力強くアルノの背中を叩く。


かつて落ちこぼれの吹き溜まりと言われ、嘲笑の的だったDクラス。


そこから数々の常識を覆し、仲間を信じて這い上がってきたアルノたちは、彼らにとって確かな誇りであり、誰よりも輝く希望だった。



「ふふっ、そんなガチガチに緊張した顔で、まさか逃げ出そうなんて考えてないでしょうね?」



凛とした、少し高飛車な声が通路に響く。


ダグラスの奥に目をやると、そこには華やかな深いピンクの巻髪ツインテールを揺らす、ディアナの姿があった。


その後ろには、ユリウス、ニコラス、テレサの姿も見える。


「勘違いしないでよね。ただの見学よ。でも……ファルシア代表の私たちと肩を並べたチームなんだから、無様な真似をして恥をかかせないでよね」


ディアナは腕を組み、ふいっとそっぽを向きながらも、その言葉には確かな信頼と強い激励が込められていた。


「ルイス殿下のチームは強敵だけど、君たちならきっとやれるさ。僕たちも、全力で応援しているよ」


ユリウスからの熱い檄をもらい、チームクラークの面々がそれぞれ温かい笑顔で4人を送り出す。


ニコラスはミラとシルフィアにウインクを飛ばし、テレサも無言で深く頷き、両手で小さなガッツポーズを作ってみせた。



「みんなありがとう!ルイスたちに勝てるかは分からないけど、ボクたちに出来る最高の仕立てをしてくるよ!」



アルノはいつも通りの涼しい笑顔に戻り、そんなアルノを見た3人も急に緊張が解けていった。



「ははっ、なんかオレたちさっきまで、らしくなかったなぁ!」


「そうね、あんまり賢くないのに、深く考えちゃった。あ、賢くないのはワタシじゃなくてカイルのことね」


「ミラ、おまえ!試合が終わったらメシ抜きだからな!」


「ふふっ、なんかみんないつも通りになって、ウチも気持ちが軽くなってきたわ」



仲間たちの熱い想いを受け取り、4人の顔から先ほどの重苦しい緊張はすっかり消え去り、戦いに向かう闘志へと変わっていた。


そんな彼らの賑やかなやり取りを、少し離れた通路の暗がりからそっと見つめる人物がいた。


「どうやら今回俺は、おじゃま虫のようだな……」


ロイドは教え子たちの輪には入らず、壁に背を預けたまま少し嬉しそうに口角を上げていた。



「……さぁ、行こうか」



アルノの言葉に、カイル、ミラ、シルフィアの3人が力強く頷いた。


その時、闘技場からギルベルトのよく通る鋭い声が響き渡った。


「これより、本日の最終試合、3年Aクラスと3年Bクラスの入れ替え戦を開始する。……両チーム、入場!」


割れんばかりの大歓声が、地鳴りのように通路の奥まで響いてくる。


アルノたちチームガレオスの4人は、互いの顔を見合わせて頷き合うと、四角く切り取られた眩い光の差す通路の奥へと、迷いのない力強い足取りで踏み出していった。


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