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【第22話】アルノの決断。進化するルーン・ステッチ

仲間たちの息の合った圧倒的な連携により、2人の暗殺者と2体の巨大兵器を、見事に撃退したのだった。


「……終わった…かな…?」


アルノのつぶやきをかき消すように、床に倒れたままのソーサナイトは、不敵な笑みを浮かべながら叫んだ。



「ふははっ!暗殺が失敗した場合の、最後の手段がこっちにはあるんだよ……。もうすぐ、このエリア一帯は跡形もなく焼け野原だ。俺たちもろとも、お前たちも吹き飛べ……」



男の不吉な言葉に、カルミナの顔色が変わった。


彼女はすぐさま右目の義眼、ステラ・スコープを起動し、エーテルスコープの魔力透視機能であたりを見回した。


そして、仰向けでまだうごめいているゴーレムの体内を見透かした時、驚くべきことに気づいた。


「大変!アルノ君、ゴーレムの右側の個体を見て!内部に巨大な魔石と、見たこともない規模の時限爆弾のルーンが仕込まれてるわ!」


「な、何だって!?」


その言葉を聞いたロイドが「ミラッ!」と声をかけると、言わんとしていることを一瞬で読み取ったミラが、杖のダイヤルを『3』に回し、杖をゴーレムの頭部に向けた。



「エア・キャノンッ!!」


ドッパァーーーンッ!!!



ミラの杖から巨大な空気の大砲が放たれ、うごめくゴーレムの頭部を弾き飛ばし、完全に沈黙させた。


アルノは機能を停止したゴーレムをよじ登り、すぐさま腰のバッグから工具を手に取り、ゴーレムの胸部装甲パネルへと飛びついた。


ネジを素早く外し、隙間にミニバールを突っ込み、厚い金属板を無理やりこじ開ける。


パネルの奥には、淡く光る巨大なオレンジ色の魔石が鎮座していた。


そしてその魔石から、ドクドクと脈動するように凄まじい量のエーテルが、基盤に描かれた炎と破裂のルーンへと流れ込み始めている状態だった。


ロイドが背後からのぞき込み、息を呑む。


「くそっ!エネルギーが完全に充填されれば大爆発を起こすぞ!…今はまだ30%ってところか……。しかも回路を物理的に切断すれば、即起爆するようになっていやがる。もはや止めることはできねえぞ……!」


みんなが絶望に目を見張る中、アルノの頭脳はフル回転していた。



「ミラ、今すぐ氷結魔法で、この爆弾を凍らせて!進行を少しでも遅らせるんだ!」


「分かったわ!」



ミラは躊躇なく杖を向け、出力を細かく制御しながら、冷気の波動をゴーレムの内部へと撃ち込んだ。


パキパキと音を立てて、エーテルが流れる魔力回路が分厚い氷に覆われていく。


ルーンへのエーテル充填は目に見えて遅くなったが、これは一時しのぎに過ぎない。


魔石からは依然としてエネルギーが供給され続けており、このまま100%となれば、いずれ大爆発を起こすのは明白だ。


数分の猶予が、十数分になったにすぎなかった……。



「どうすればいい……どうすれば……」



アルノは右手親指のおじいちゃんの指輪を外し、内側のルーンを眺めながら思考の海へと沈んだ。


ぶつぶつと早口で思考を繰り返すアルノを、ロイドたちは信じて見守ることしかできなかった。



「大爆発にどう対処する…?……回路への今のエーテル供給量なら、まだみんなの力で爆発を抑え込めるかもしれない。なら、まずはエネルギーの供給を遮断するんだ…。ならどうやって…?…魔石に他のマギアを接続して、エネルギーを奪う…だめだ、ここにあるマギアたちは省エネ仕様のものか、未完成のものばかり……それに今から作るには時間が足りない。……エーテルを大量に消費する、何か…何か……何か…………人間だ……。魔法、身体強化、人間は膨大な魔力、つまりエーテルを消費する機関だ。つまり、人間に直接ルーンを刻み、魔石のエネルギーを強制的に吸収・放出させるバイパス回路をこの場で作ればいい……」



『人体に直接、ルーンを刻む』



そんな常識外れの荒技、成功した前例どころか、試すことすら前代未聞だ。


だが、やらなければ自分たちを含め、多くの人々が死ぬ。


「ボクの体で、まずは実験だ」


アルノは決意を固め、右手のダミーの指ぬきグローブを勢いよく外したその瞬間、ロイドがアルノの腕を掴んだ。



「お前、正気か?!ルーンを体に刻むなんて、何が起きるか分からないんだぞ!」


「先生、きっと大丈夫だよ。マギアの中には木材や、動物の革や骨や牙なんかを使ったものもたくさんある。人体だってそれらと変わらないはずだよ。そう…きっと上手くいく……『ルーン・ステッチ!!』」



アルノはロイドの制止も聞かず、左手の指先から極細の魔力線を放ち、自身の右手のひらに極小ルーンの集合体を描き込んでいく。


皮膚の表面に、魔力の糸が細かく縫い合わされていくような、奇妙なムズムズとした感覚が走る。


「ふぅ、よし……先生、大丈夫そうだよ!」


「はぁ……こっちの寿命が縮んだぞ……」


その言葉に安堵するロイドをよそに、続けて右手の指先を使い、自らの左手のひらにも同様に極小ルーンを刻んだ。


右手には、丸の中に内側を向いた矢印が描かれた、エーテルを強制的に引き込む『吸収』のルーン。


左手には、丸の中に外側を向いた矢印が描かれた、引き込んだエネルギーを体外へ吐き出す『放出』のルーン。


「よしルーンは完璧だ…あとはうまく動作するかだ……」


アルノは珍しく不安そうな顔つきで、凍りついたゴーレムの胸の奥、オレンジ色の巨大な魔石へと右手をそっと触れさせた。



「ルーン起動!」



右手のルーンに魔力を流したその瞬間、凄まじいエーテルの濁流が、右腕を通じて体内の魔力タンクへと流れ込んできた。


吸収のルーンは完璧に動作し、シルフィアへと譲渡した結果、かなり消費していたアルノの魔力がみるみる回復していく。


しかし、次の瞬間、アルノが険しい顔でつぶやいた。


「くそ、だめか……」


完璧に動作した右手の『吸収』のルーンとは違い、左手の『放出』のルーンからはキラキラとしたかすかなエーテルの粒子がまばらに舞い散るのみ。


体内の魔力タンクが満タンになったと同時に、右手のルーンの吸収率も極端に落ちてしまった。


このままの放出量では、到底残り時間に間に合わない、絶体絶命の危機。


しかし、アルノの視界に自分を見守るロイドたち5人の姿が映り込んだその瞬間、彼の脳裏に常識を完全に覆す驚異のシステムが閃いた。


「ボクだと元々の魔力出力が低すぎて、吸収と排出のバランスがとれない……」


アルノはゴーレムから飛び降りると、仲間たちに向かって叫んだ。


「みんな、手を貸して!みんなの体を使って、魔石のエネルギーを外へ逃がすんだ!」


アルノはすぐさまロイド、カルミナ、シルフィア、ミラの元へ駆け寄り、それぞれの両手にルーン・ステッチで『吸収』と『放出』の極小ルーンを刻み込んでいく。


「カイル、ごめん。カイルの『絶対魔力耐性』がどう影響するかわからないから、今回は外れていて」


「わかった。オレはいつでも動けるように周りを警戒しておく」


「よし。それじゃあ、ロイド先生を先頭にして、カルミナさん、シルフィア、ミラの順番で手を繋いで!」


指示に従い、4人は一列に並んで手を結ぶ。


ロイドが差し出した手を握る時、カルミナはわずかに頬を染め、少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。


「ロイド先生、魔石に右手を当てて、ルーンを起動して!」


「ああ、任せろ!」


ロイドがゴーレムの胸の奥にある巨大な魔石に右手を触れ、ルーンに自身の魔力を流し込む。


その瞬間、魔石から凄まじい量のエーテルがロイドの体内へと勢いよく流れ込んできた。


ロイドの魔力タンクがあっという間に満タンになると、今度は左手の『放出』のルーンが起動し、繋いだ手を通じてカルミナの右手へと膨大なエーテルが流れ込んでいく。


「うわっ、すごい勢いね……!」


カルミナの魔力もすぐに満たされ、シルフィアへ、そしてシルフィアから最後尾のミラへと、凄まじいエーテルの奔流がバケツリレーのように駆け抜けていく。


そして、全員の魔力が限界まで満たされたその時だった。


ミラの左手に握られた特製の杖、その表面にアルノが刻んだ唐草模様のルーンから、行き場を失った大量のエーテルが光の粒子となって空中へ放出され始めた。


それはまるで、初夏の小川のせせらぎを乱舞するホタルの群れのように、未来エリアを淡く幻想的に照らし出した。



「すごい、なんて綺麗なんやろ……」



シルフィアがおっとりとした声で呟き、誰もがその美しさに息を呑む。


常識外れの人体直列バイパスシステムは、完璧に機能していた。


そのまま3分ほどが経過した頃、オレンジ色の巨大な魔石の淡い輝きがスッと消え去った。


ピキッという小さな音と共に魔石にヒビが入り、完全に魔力が尽きたことが確認できた。



「よし、エネルギーの供給がストップしたよ!」



アルノが歓声を上げ、安堵したのも束の間だった。


魔力供給が絶たれたと同時に、ゴーレムの胸の奥にある凍りついた爆弾の基盤が赤く点滅し、デジタル表示のような光で『60』という数字が浮かび上がったのだ。


そしてその数字は、59、58と、無慈悲にカウントダウンを刻み始めた。


「なっ、なんだと!?」


ロイドが驚愕の声を上げる。


「おそらく、魔石からの魔力供給が絶たれたことをトリガーにして起動する、予備電源の時限装置だ!急いで処理しないと爆発する!」


アルノの叫びに、全員の顔に再び緊張が走る。


残り時間は1分を切っている。


「ミラ、地面に大きな穴を開けて!」


アルノの咄嗟の指示に、ミラは迷わず杖を構えた。


「まかせて、今のワタシは魔力満タンよ!」


ミラは杖の可変式バルブのダイヤルを『2』に合わせると、石畳の地面に向かって全力で得意の火魔法を放った。



「ブレイズ・キャノーーン!!」


ズガアァァァァァァンッ!!!!



凄まじい熱線が床を焼き尽くし、石畳を溶かして数メートルの深い大穴を穿つ。


その瞬間、カイルがアルノの意図を完全に汲み取り、猛然と前へ出た。


「マッスル・オォーーバァーーーーッ!」


極限まで肉体を強化したカイルは、機能を停止している6メートルのゴーレムの片腕を抱え上げると、凄まじい腕力で背負い投げの要領で持ち上げた。


「うおおおおおぉっ!」


カイルの咆哮と共に、巨体が宙を舞い、ミラが開けた深い穴の底へと勢いよく叩き落とされる。


「シルフィア!」


アルノが叫ぶと同時に、シルフィアはすでに動いていた。


「お願いや、土の精霊さん!」


シルフィアが流れる動作でタクトを振ると、穴の周囲の土砂が生き物のようにうねり、ゴーレムごと大穴を完全に埋め尽くし、強固な岩盤へと圧縮して固めた。


「さらに重ねるわよ!『ウインド・シールド』!」


「ウチもいくで!『風の障壁』!」


ミラとシルフィアが息を合わせ、埋め立てられた地面の真上に、2重の強力な風の防壁を展開する。


直後、足元の奥深くから、「ズシンッ」という鈍い地鳴りが響いてきた。


地面が微かに揺れたものの、何重にも施された物理と魔法の封じ込めにより、地上へ爆風や炎が吹き上がることは一切なかった。


「…今度こそ…終わった……」


カイルがへたり込み、大きく息を吐き出す。


前代未聞の爆弾処理は、6人の完璧な連携によって見事に完了したのだった。


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