【第21話】集結!6人のチームワーク
遠くで鳴り響いた爆発音から数分後。
客たちがパニックになって逃げ去り、不気味なほどの静寂に包まれた未来エリア(開発途中・コンセプトエリア)に、アルノとシルフィアが駆け込んだ。
息を切らして広大なエリアの奥へ進むと、無残に破壊された展示ブースの間に、3人の男性が血を流して倒れていた。
服装から見ても、このエリアに最新のマギアを出展していたクラフターたちに間違いない。
そして、彼らの前に立ち塞がるように、二つの巨大な影がうごめいていた。
それは、会場のゲート横に歓迎用として展示されていたはずの、高さ6メートルを超える二体の試作警備ゴーレムだった。
本来なら人々に害をなさないはずの巨体が、今は真っ赤な光を瞳に宿し、周囲の構造物を破壊しながら暴走している。
そのゴーレムの足元には、長剣を右手に持ったソーサナイト(魔導騎士)と、全身に不気味な魔力を漂わせるシャドウ(斥候)の暗殺者コンビが立っていた。
おそらくこの2人がなんらかの方法で、ゴーレムへの命令を上書きして操っているのだ。
アルノは丸眼鏡に魔力を流し拡大率を上げ、ゴーレムの異変を探す。
「……あ!、ゴーレムの胸カバーが無理やりこじ開けられた形跡がある。おそらく回路の基盤そのものを、すり変えたんだ……!」
アルノの言葉に、シルフィアが驚きを露わにする。
「すり替えって、…試作品やで?動くかどうかもわからんのに…」
「たしか、出展物は事前登録制で、詳細まで記載する必要があったはず。おそらくその情報を事前に入手して、出展物のマギアに爆弾を仕込んだり、他に使えそうなマギアを改造して準備をしていたんだ。もはやあのゴーレムは本物の戦争兵器だよ!」
アルノたちに気づいた暗殺者コンビが、ゆっくりと振り向いた。
ソーサナイトの冷酷な視線が、アルノの右手にはめられたダミーのエーテルコンバーターで止まる。
「小娘、お前もクラフターか?」
男は長剣を構え、低く笑った。
「その制服、まだ学生か。まぁ、リストにはない顔だが、どうせなら未来の目はここで摘んでおくとしよう」
男が殺気を放ちながら、アルノへと斬り掛かった。
同時に、気配を消したシャドウがシルフィアの死角へと回り込む。
さらに、真っ赤に目を光らせながら二体の巨大ゴーレムが、地響きを立ててアルノたちへ迫ってきた。
「ウチの大事な仲間に、気安く触れんといて!」
シルフィアがタクトを右手に持ち、ハルモニアを通じて精霊に呼びかける。
凄まじい突風が巻き起こり、背後から迫っていたシャドウを強引に吹き飛ばした。
さらに土の精霊の力で足元の石畳を隆起させ、ソーサナイトの突進を間一髪で防ぐ。
「チッ、エレメンター(精霊術師)か!面倒なやつがいやがる。ゴーレム、奴らを潰せ!」
ソーサナイトの指示を受け、6メートル超の巨体が容赦なくその太い腕を振り下ろしてくる。
「そうはさせないよ!、ルーン・ステッチ!!」
キュインッ!!
アルノはゴーレムの足元の床に『摩擦低減』のルーンを刻み、エーテルガンで起動させる。
ルーンが淡く光ると、まるで床が氷にでもなったかのように、踏み込んできた巨体のゴーレムは足を滑らせて無様に転倒し、もう一体を巻き込んで倒れ込んだ。
「ちぃ!小賢しいマネを!」
だが、態勢を立て直したソーサナイトとシャドウが、連携を組みながら波状攻撃を仕掛けてくる。
シルフィアは土の精霊による、石畳の防壁を展開して必死に防ぐが、本職の暗殺者二人の執拗な猛攻と、再び立ち上がり暴れ狂うゴーレムの規格外のパワーを前に、徐々に防戦一方へと追い込まれていく。
「くっ……アルノ君。…ロイド先生たちを呼びにいって…!」
魔力を消耗し、シルフィアの顔に焦りの色が浮かぶ。
アルノもルーン・ステッチとエーテルガンで牽制しながら必死に打開策を探るが、シルフィアや被害者を置いてこの場を離れることはできないと、考えがまとまらずにいた。
「これで終わりだ!」
ソーサナイトの刃が石畳の防壁を破壊し、ゴーレムの巨大な拳が二人の頭上へ容赦なく振り下ろされる。
「もうだめだ!」と、シルフィアが歯を食いしばった、まさにその瞬間だった。
「エアバレット!!」
アルノたちの後方から、強烈な圧縮空気の弾丸がゴーレムの拳を大きく弾き飛ばした。
ミラとカルミナ、そして武器・防具エリアでの戦闘を終えたカイルとロイドが同時に現場へ滑り込んできたのだ。
「ごめん、待たせたわね!」
「遅れて悪りぃ、アルノ!」
チームガレオスの全員と、二人の優秀なクラフターがここに集結したのだ。
「ミラ、カルミナさんは怪我人の救助を頼む!出血がひどい、急げ!」
ロイドが鋭い声を張り上げ、腰から特製マギアであるルーン・ドライヴを展開する。
「わかったわ!」
「任せてください!」
指示を受けたカルミナが手早く止血などの応急処置を行い、ミラが杖を使って回復魔法を施していく。
盾を持たない前衛のカイルが、勇猛果敢に前に出た。
「オレが行く!、マッスル・オーバァーー!」
いつもの大盾を持っていないカイルは、自身の肉体を限界まで強化する。
膨張した筋肉が制服を弾けさせんばかりに張り詰めた。
カイルは地面を蹴り、拳を振り下ろそうとしていた巨体のゴーレムの足元へ、弾丸のようなタックルを叩き込む。
ドゴォォォォォォォンッ!
規格外の質量を持つ6メートル超の巨体が、バランスを崩して仰向けに倒れた。
「ナイスだ、カイル!」
ロイドが倒れたゴーレムの頭部へと跳躍し、ルーン・ドライヴのディスクを『電撃』に切り替える。
紫色のスパークを放つ左手のトンファーを、ゴーレムの頭部へ全力で振り下ろした。
バチィィィンッ!
強烈な電撃が頭部のカメラやバランスセンサーを完全に焼き切る。
視覚と平衡感覚を失ったゴーレムは、仰向けのままジタバタと手足を動かすだけで、二度と起き上がれなくなった。
「隙ありだ、クラフター!」
その直後、気配を完全に消していたシャドウが、ロイドの着地の瞬間を狙って背後から短剣で襲いかかる。
「ロイド先生、7時の方向!」
怪我人の治療にあたりながらも、ステラ・スコープのサーモセンサーで常に周囲を警戒していたカルミナの鋭い警告が飛んだ。
「おっと!このあたりか?」
ロイドは振り返ることなく反射的に姿勢を低くし、ゴーレムの頭部に当てていた電撃トンファーを、上半身を左回転させて後方へ突き出した。
バチィィィッ!
「がっ、…はっ……!」
不意を突かれたシャドウは電撃をまともに浴び、痙攣しながら白目を剥いて床に崩れ落ちた。
ゴーレムが一体倒され、相棒がやられたことにソーサナイトが気を取られる。
その一瞬の隙を突き、アルノはエーテルガンの銃口をシルフィアのペンダント(エーテルリンク)に向けた。
アルノの純粋なエーテルが撃ち込まれ、空になりかけていたシルフィアの魔力が急速に回復していく。
「シルフィア、あのゴーレムは対象を頭部で検知してるみたいだ!」
ロイドの戦いを横目で見ていたアルノが的確な分析を行い、魔力が全回復したシルフィアが力強く頷く。
「いくで、風の精霊さん!全力やっ!」
シルフィアはタクトを掲げ、残る一体のゴーレムへ向けて2つの竜巻を作り出した。
1つはゴーレムの首から下を包み込む大きな竜巻。
もう1つは、首から上だけを包み込む小さな竜巻だ。
シルフィアはその2つの竜巻の回転方向を、完全に逆に設定した。
竜巻がどんどん細く絞り込まれ、ゴーレムの巨体をギリギリと締め上げていく。
メキメキメキッ!という金属がひしゃげる音と共に、ゴーレムの手足の関節が不自然な方向へ曲がっていく。
そして、限界を超えた逆回転の凄まじいトルクに耐えきれず、ゴーレムの頭部がねじり切られて宙に吹き飛んだ。
「え…えぐいな……」
それを見ていたカイルが、思わず顔を引きつらせて呟く。
シルフィアが竜巻を解除すると、頭を失いボロボロになったゴーレムが、大きな地響きと共にその場に崩れ落ちた。
だが、シルフィアが大魔法を放った直後の隙を突き、ソーサナイトがサポートの要であるアルノへと斬りかかった。
「死ねぇっ!」
ソーサナイトの刃がアルノに届く、まさにその時だった。
「サンダー・バレット!!」
ソーサナイトの完全な死角から、極限まで細く圧縮された雷撃が飛来し、男の胴体を正確に撃ち抜いた。
「ぐあぁぁぁっ!」
雷撃に焼かれ、ソーサナイトは剣を取り落として床に倒れこんだ。
振り返るとそこには、怪我人の治療を終え、特製の杖を真っ直ぐに構えたミラの姿があった。
「ワタシたちのこと、忘れてない?」
ミラがフッと得意げな笑みを浮かべる。
仲間たちの息の合った圧倒的な連携により、2人の暗殺者と2体の巨大兵器を、見事に撃退したのだった。




